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けだるげに、さろは制服のポケットで低く振動する携帯を取り出した。長い黒髪を細く白い指で耳に書け、メールを読む。
案の定、それは呼び出しだった。今回は間隔が短い。前回この呼び出しがあったのは、一月半くらい前だった。そんな予感があるのか、呼び出しのある日はたいてい、朝からけだるい気分が抜けない。
亡くなった叔父があの機械を開発したのは二年前、さろが14歳の時だった。
人の精神に入り込む機械。
最初、なぜ叔父がそんなものを作ったのか知ることはなかった。いや、何を作っていたのかさえ、さろは知らなかった。
幼い頃に両親を亡くし、叔父に引き取られていたが、変わり者の叔父が研究室にこもって妙なものを作っているのはいつものことだった。叔父が高名な科学者で、政府や大企業、あるいは世界を股にかけて活動する団体の依頼を受けて発明をしていたというのをさろが知ったのは、叔父が死んだ後だった。
さろにとって叔父は、自分を泣きやませるため、笑わせるため、あやすために変なオモチャを作る優しい叔父でしかなかったのだ。
その叔父が、あの機械の完成と同時に亡くなった。正直、そこに違和感を覚える。ただ、相当無理をして完成を急いでいたのも知っていたので、過労だという医師の診断に疑う余地は、実際ないのだ。
そして、あの男が目の前に現れた。
さろは叔父が死んだ後も、それまで一緒に暮らしていた家に独りで住んだ。
叔父の四十九日の法要が済んだ後、門前に彼は立っていた。叔父の性格そのものの、よく晴れた上天気だった。
叔父に発明を依頼していた人たちが黒い服を着て訪ねてくる中、彼は浮いていた。あの日に訪ねてくるのなら、いかにも怪しげな黒服黒めがねの方がまだ目立たなかっただろう。
ふわふわした茶色い猫っ毛に耳には合計七つのピアス、よれよれのシャツに洗いざらしたジーパン。足元は近所からひょいと訪ねてきたとでも言うように下駄履きで、サングラスを鼻にかけてさろを見ていた。
怪訝に思ってさろが玄関から顔だけを出し伺っているのに、彼はひょいと腰を深く折った。そして、人なつっこく微笑った。
それが彼、ムクとの出会いだった。