第6話 とっておきの情報
ウィンの暴露話が続く事、数十分。
そろそろネタも切れてきたようだ。
しかし、ウィンは終わらせる気配を見せない。
半ば意地になって暴露を続けているように見える。
まあ、その理由としては、ミカエルが全くもって関心を示さない事が原因だろう。
というか、毎回そうなので、今回もそうだろう。
実の所、それは中々に難しい事で、今のところ勝敗は5勝53敗といったところだ。
明らかに負けが多い。
しかし、彼は彼なりに風の精霊使いとしてのプライドが刺激されるらしく、この妙な勝負を止める気配を見せない。飽きっぽい風の精霊使いにしては珍しいとも言える執着の仕方だ。
さて、そんな負けの気配が濃厚になってきたかのように見えたウィンだったが、今回はこれで終わらないらしい。
突如、不敵に笑い始める。
「こうなったら、これを聞いて驚くがいい!!」
高らかに言い放つ。
本人は大変楽しそうだ。
「いや、そういう場合は、普通‘驚くなよ’だろう」
「驚いてほしいんですから、あれでいいんじゃないですか?」
ウェルフの突込みに、ローザが応える。
もちろん小声でのやり取りだ。あえて水を差すこともあるまい、と言う気遣いからである。
「ほう、聞いてやろう」
今回初めてミカエルが反応を示した。
とことん上からの発言なのは、最早いつもの事だ。
声も美声と言って全く問題ない声なのだが、迫力があり過ぎるのもいつもの事だ。
「ここ最近フォルストの城はいつも以上の厳戒態勢なんだけど、それは…………」
「それは、何じゃ?」
「ふふふっ、何と‘光の勇者様’を召喚したらしいんだ!」
どうだ、とばかりに満足げな表情を見せる。
素直に驚く者、1名。
我関せずな者、1名。
笑顔になる者、2名。
胃を押える者、2名。
実にそれぞれの反応を示す。
誰がどれかは、言うまでもないだろう。
「それは、面白そうな話だな」
「やった!! そうだろ、そう思うだろ!?」
飛び跳ねて喜びを表現する。
もう、こうなったら埃がたつとかいう問題でもない。
「…………つーか、お前、その厳戒態勢の中に忍び込んできたのか?」
「うん。大変だったんだよ」
どう考えても否定してほしかったウェルフの言葉は、あっさりと肯定されてしまう。
むしろ褒めて、と言わんばかりの表情だ。
いや、本人は褒められると疑ってもいない。
「それはすごいですね。
一国の精力を結集した厳戒態勢を突破したのですから」
フェルディナンドの笑顔がやけに清々しい。
絶対に碌でもない事を考えているときの表情だ。
それ以前に、褒めないでほしかった。
「………………………胃が痛い。
………………………頭痛もしてきた」
悲壮さすら漂わせて、ウェルフが呟く。
「私も頭痛がしてきました」
ローザも似たような表情を見せる。
「どう考えても、マズイよな?」
「そうですね。流石に魔法装置を突破できるなんて事が公になったら、大問題になりますね」
「あれだな。
下手したら風の精霊使い狩り、とか起きそうじゃないか?」
「う~ん、すぐにはそういう事にはならないとは思いますけど……断言はできませんね」
楽しそうな向こうを他所に、こちらはシリアスだ。
事の重大性を分かっているのか、いないのか。
おそらく、2人は分かっているのだろうが。
「それよりも、どうします?
絶対に、これ巻き込まれますよ」
「言うな。考えたくもない」
げっそりとした口調。
考えたくもないが、考えなくとも未来は変わらない。
取り敢えず、ウェルフとローザは胃薬と頭痛薬をスペイルに調合してもらう事にした。