第4話 再会を祝して
テーブルには所狭しと料理が並べられている。
ホマール鳥の丸焼きにスリスのスープ。
ホマール鳥は全長5mの大物だが、性格が大人しく捕獲しやすい。味は淡泊なので、濃いめのソースをかけて食べるのが一般的だ。
スリスは淡水魚で、外見は非常にグロテスク。最初にこれを食べた人は、心底驚嘆に値する。これまたクセのない身で、どんな味付けでもあう。
他にもキノコと野菜のサラダや魚介類のフリッター、香草焼き、キノコのキッシュ、ホマール鳥のオムレツ、フルーツ各種などが並んでいる。
なかなかに豪華な食事だ。
まあ、これらの支払いを思えば、少々懐が痛い気もするが。
それでも、金額的には十分過ぎるほど余裕はあるのだし、問題はない。
先ほど渡した竜もそのうちにテーブルに並ぶ日が来るだろう。
美味しい料理になって再会したいものだ。
さて、香りのよいお茶を飲みながら、ローザは横目で一人の青年を見る。
外見は若いエルフの青年だ。
もっともエルフなので、外見と実年齢があっているとは限らない。人間の平均寿命が60歳程度なのに対し、エルフの平均寿命は200歳程度なのだから。
確か記憶によれば、まだ30歳程度のはずのウォルフ。
エルフに姓はなく、通常は名前だけだ。もしも名前以外を名乗ったなら、それは何らかの役目を表している事が多い。
そのウォルフは深刻とはいかないまでも、引きつった表情で胃を抑えている。
ローザにも気持ちはよく分かる。
と言うか、同じ心境だ。
視線を戻せば、ミカエルと2人の姿がある。
一人はドワーフで外見は身長の低い中年。
ドワーフも人間よりも寿命は長く、130歳程度生きる。
ただし外見が若々しいままのエルフとは違い、若くとも中年のような外見をしているのが通常だ。
彼の名はクライム・ジュノー。年齢は聞いたことがないので、ローザは知らない。
もう一人は、人間の青年である。
外見は20代前半ほどの年齢で、中身は子供のまま。
性格に難はあるものの、上位の精霊魔法の使い手である。属性は風。
名はウィン。
多分、どう考えても偽名―――と言うよりも適当に名乗っているだけだろう。
このクライムとウィンがウォルフの胃痛の原因だ。
そしてその2人が絡んでいる相手であるミカエルがローザの胃痛の原因である。
もっとも絡んでいると言っても、そこに悪感情はなく、悪気もない。
ただ普通に話しかけたり、ちょっかいを出したりしてるだけである。
だけではあるのだが、それが原因で爆発しないと言い切れないのがミカエルが魔王たる所以でもある。
毎回の事とはいえ、気が気ではない。
ローザとウォルフの視線が合う。
お互いに苦笑。
苦労性だと、心配性だと言われようとも、どうしようもない事なのだ。
他の誰も心配しないので、この2人が心配するしかない。
ちなみに、少し離れたところで薬草茶を飲んでいるのがスペイル・クルッタス。
まだ年若いし顔色も悪いが、その薬師としての腕前はウォルフとローザが身を持って保証する。
リーダーであるエルフの剣士ウォルフ。
酒好きで陽気なドワーフのハンマーを獲物とするクライム。
愉快犯でトラブルメーカーの風の精霊使いウィン。
薬師にして魔術の使い手のスペイル。
この4人のパーティーはミカエルとローザの顔なじみである。
しかし、それはシズマでの事で、なぜここネルイにもいるのかは謎だ。
何となく―――ほぼ確実にこの店のマスターであるフェルディナンドが一枚噛んではいるのだろうが。
つまり、それは、碌でもない事をも意味しているのだろうが。
それでも、まあ、顔なじみは顔なじみである。
そして信用していい面々でもある。
だから、取り敢えずは、再会を喜びましょうか。
ローザがそういう気持ちで笑えば、ウォルフも苦笑を返してくる。
お互いに苦労しているからか、考えている事は分かりやすい。
視界の端にちょっと面白くなさそうなミカエルを捉えながら、ローザは笑う。
「再会を祝して」
「「「「乾杯」」」」
ローザと4人の杯が高く掲げられる。
それにミカエルが参加していない事まで、いつもの通りであった。