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第1話  依頼達成です

 

 時刻は夕方。

 まだ日が暮れはしないが、通りは賑やかに人が行き来する。

 家路に急ぐ者もあれば、酒場に向かう者もいる。

 ご飯時と言う事もあって、通りの両脇の露店では様々軽食も売られている。

 何らかの肉をシンプルに炙ったもの。味付けは塩・胡椒か甘辛いソースか。

 薄いパンの間に野菜を炒めた物や肉を挟んだもの。

 魚の切り身を油でカラッと揚げたもの。

 肉と野菜を串にさして焼いたもの。

 甘い焼き菓子の類も多く売られている。



 そんな人混みの中、彼女たちの前には綺麗に道が出来ていた。

 いや、正確に言うなら、彼の前には。

 それはもう、魔獣か魔族にでも出会ったかのように、人が硬直し、飛び退く。

 便利ではある。

 無言でいつも通り面白くなさそうな顔で歩いている彼の内心は知らないが、彼女としては楽でいいと思ってしまう。

 と言うか、思わないとやっていられない。

 向けられる視線にも思うところがないわけではないが、慣れた。

 誰が何と言おうと、慣れた。

 いちいち気にしていては生きていけない。

 彼―――ミカエルの相棒になってから、彼女―――ローザの神経は確実に図太くなっただろう。



「鬱陶しい」



 ドアを開けた瞬間から、2人に視線が突き刺さる。

 はっきりと不機嫌なミカエルのセリフはローザの内心と被った。

 が、ローザにはそれを口に出さないだけの常識があった。

 ミカエルが口に出しているので無駄と言えば無駄な常識ではあるが。



「なら、さっさと用件を済ませて宿に行きましょう」



 と言うか、そうしたい。

 無言で肯定を示すミカエルとともにギルドのカウンターへ向かう。



 ここ冒険者ギルドでは様々な仕事が持ち込まれ、請け負われていく。

 仕事は難易度によってランク分けされており、請け負う人間も当然のことながらランク分けされている。

 まあ、細かい事は各ギルドの責任者に一任されているので、そのランク分けが絶対という訳でもないが。

 ランクは上からSS・S・A・Bと続き、一番下はHとなっている。

 Hはギルドに登録したての初心者で、SSは世界に名声が轟くような腕前の持ち主。

 そして、このミカエルは世界に3人しかいないSSランクに属していたりする。

 彼の相棒であるローザはAランク。

 もっともミカエルとパーティーを組み、生きているだけでランクが上がったので、ローザ自身にその辺の自覚は皆無だったりする。

周りのローザに対する認識も、概ねそんなものだ。



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」



 にっこりと愛想よく決まり文句を口にする受付嬢。

 ちょっぴり頬が引きつっているだけ、と言うのは十分賞賛に値する。

 過去には急に泣き出したお嬢さんもいた。

 どうも話を聞くに、鋭い雰囲気と目が非常に恐怖をあおり、全身から近寄るなと言うオーラが出ているらしい。

 …………同意しないでもない。

 しかしながらちょっと考えてほしい。

 ミカエルが不機嫌そうな顔をしているよりも、笑っている方が怖いと思うのだが?

 絶対に、善からぬ事をたくらんでいるに違いない。偏見だと言われようと、そう断言できる。



「依頼達成の報告にきました」

「ミカエル様とローザ様ですね。依頼を確認しますので、少々お待ちください」



 対応に出たのがローザだったので、受付嬢は安心したようだ。

 そこまであからさまではない受付嬢の対応に、ミカエルも眉間のしわだけで済んでいる。



「………………………はっ? えーっと、(ドラゴン)退治?…ですか?」

「そうです」

「お二人で?」

「ええ」

「依頼達成?」

「これが(ドラゴン)の逆鱗です。確認してください」



 半ば呆然としながらも、確認作業を続けられたのは素晴らしい。

 そんなプロ根性にあふれる受付嬢でも、受け入れられる事と受け入れられない事があるようだ。

 と言うか、普通はある。

 吃驚して、魂が半分くらい出てしまっているらしい。



 ローザが(ドラゴン)の逆鱗を受付嬢の手に乗せる。

 逆鱗と言うのは当然ながら生きた(ドラゴン)から取れる物ではない。魔力の源になっているため、触れるだけでも怒り狂う。その逆鱗を持っていると言う事は、(ドラゴン)退治に成功したという何よりの証。

 と言うか、サイズがサイズなので死体を持ってくることは普通無理だ。

 まあ、普通は。

 ローザの場合は空間魔法が使えるので、そこに死体をそのまま放り込んであるのだが。

 文句があるなら―――ないとは思うが、死体を取り出して見せてもいい。



「もしも~し?」

「驚かすか?」

「って、待って、ストップ。

 何で剣に手をかけてるの?」



 先ほどの呟きと、手のかけられた剣。

 予想は難しくない。



「取り敢えず、その辺の物でも斬ったら気が付くだろう」

「気が付きません」



 きっぱりと言っておく。

 それ、絶対にさらに意識が飛ぶから。

 それ以前に、問題なく片付くとも思えない。



「では、その辺のを2・3人斬るか?」

「却下」



 悪化している。

 間違いなく悪化している。

 そんな簡単に人死にを出さないでもらいたい。

 そんなに難しい話ではないはずなのに、なぜミカエルにかかると難易度が跳ね上がるのか?

 ローザにはつくづく謎だった。



 読んでくださってありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご連絡ください

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