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血を求める魔剣

試行錯誤中。

「ん? ここはどこだ?……」


 ナオヤが見知らぬ地面の上で身を起こす、体を気持ちのいい風が通り、新鮮な空気のにおいが鼻へとつたわってくる。

 空は明るく、視線の先には赤茶色の地面が続いており、日本では見ないであろう形をした木造建ての家がちらほらと建ちならんでいる。

 家々は柵に覆われた中に建っており、ここが村の中であることがうかがえた。

 薄茶色の布の服に包んだ人がまばらに立っており、何やら驚いている様子でナオヤの方へと視線をやっていた。

 その西洋風の格好からするとここが日本ではないことだけはナオヤに理解ができた。

 だがなぜこのような場所にいるか理解できず地面に座ったまま硬直してしまうナオヤ。


「っ!……これは!」


 思考が停止していたナオヤだったが、ふと左手に重いものを感じ。左手へと視線をやる。

 そこには黒い剣がずっしりとにぎられており、持っている剣の上の部分には閉じられた黒い目がついていた。

 それを見て病院での出来事をナオヤは一気に思い出す。

 とりあえずナオヤは不気味である剣を左手で縦に振り、取り外そうとするも剣は微動だにしなかった。


(目覚めたか)


「うわっ! この声は?! あのときの剣の……」


 ナオヤの握ってる、剣の目が突如見開き、思わず後ろへと飛び跳ねるナオヤ。

 脳へと直接語りかけてくるような剣の声にナオヤは不思議な違和感を覚える。

 この状況を知っているであろう剣に色々ききたい事があったナオヤだが、それより先に剣がナオヤの脳へと語りかけてくる。


(そうだ、今やお前と俺は一心同体、もう俺から逃れる事はできん。そしてここは俺の故郷の世界だ)


「一心同体だって?! 冗談じゃない!。それにここがお前の故郷だと?」


 いきなりこのような場所に連れてこられ、押し付けるように語り掛けてくる剣に、ふたたびナオヤは左手の剣を見ながら、怒りをあらわにする。

 何とか抵抗しようと再び左手の剣を縦に振りまわすナオヤ。

 だがやはり剣はくっついたようにナオヤの手をはなれようとしなかった。

 それでも諦めず剣を振り続けるナオヤをよそに剣は勝手に語りかける。


(まぁそれぐらい説明してもいいだろう、ここは魔物が支配する荒廃した世界リウスマギアだ)


「魔物だって? それにリウスマギアだって?」


 魔物と言う単語と違う世界と言う言葉にすでにナオヤの理解を超えつつあった。

 夢ではないのだろうか? そう思えるぐらいにナオヤにとって現実味のない話であり、ナオヤは剣の言葉にただ首を傾げていた。


『あれを見ろ!』


 その時、村にいた一人の男が突然叫び声を上げ、ナオヤへと集まっていた村人の視線が村の外の方へと集まる。

 ナオヤもその方向へと視線をやると、人間の大人以上の背丈はあるであろう、紫の毛皮をし長く鋭い爪を持った狼らしき生き物が村へと向けて、ものすごい勢いで五、六匹村へと向かってきていた。


(あれが魔物だ、ワーウルフと言う種族だな。魔物でも一番数が多く、下位なほうだ)


 剣が冷静にナオヤへと再び語りかけてくる。

 ナオヤの目の前ではワーウルフと教えられた魔物が村人へと次々襲い掛かり始めていた。

 その悪夢のような光景にナオヤは口を半開きにし額に汗を浮かべ、逃げまとう村人をただ呆然と見ているしかなかった。


(さて、もう時間もなさそうだし、お前の体をもらいうけるぞ。そのためにこの世界へと呼んだのだからな)


「何?! それはどういう――」


 剣が重要な事を語りかけたような気がして、ナオヤの意識が現実へと戻され、ナオヤは左手の剣へと目をやりながら怒鳴りかける。

 その言葉の真意を聞こうとするナオヤであったが、言葉途中に意識が途絶えてしまい地面へと頭から倒れこむ。

 地面へとうつぶせに寝転ぶ無防備なナオヤへと、一匹のワーウルフが駆け寄り、爪を勢い良く振り下ろす。

 常人ならその状態で避けれないであろうその一撃を、ナオヤは目を開け突如身を起こし消え去るようにワーウルフの前から姿を消す。

 爪が空を切りバランスを崩し驚くワーウルフの背後へと、ナオヤは不意に現れ左手に持つ剣を勢い良く、左横へと振るう。

 その瞬間ワーウルフの上半身が綺麗に上へと吹き飛び、残された下半身から血があふれ出る。

 その様子は困惑しきっていたナオヤとは明らかに違い、崩れ落ちる魔物を不気味な笑みでを浮かべ見下ろし見つめる、ナオヤの体を乗っ取った魔剣の姿であった。

 


「ふむ、やはり貧弱な体だな。まぁいい、食事の時間と行くか」


 ナオヤの体を乗っ取った魔剣が左腕を上げて剣を見ながら不満そうにそうつぶやく。

 だがすぐに思考を切り替え、ワーウルフに襲われている村人の方へと剣を左手に構え視線をやる。

 ナオヤは不気味な笑みを浮かべ、獲物を見るかのような目で村人を見定める。

 そして地面を強く蹴って村人へと信じられない速度でナオヤは駆け寄り、ワーウルフの爪が逃げまとう村人の背中へと突き刺さる前に、ナオヤが左手の剣を前へと鋭く突き出し、村人の横腹へと突き刺さる。

 響き渡る悲鳴と返り血に微動だにせず、ナオヤはその場にいた魔物へと剣を横に振り斬り伏せる。

 そしてすぐさま次の村人へと目をやり笑みを浮かべ、何の迷いもなく地面を蹴り駆け寄っていく。

 魔物と人と魔剣が入り混じる混沌とした村で、魔剣による虐殺は最後の一人を斬り捨てるまで行われていった――――。

 


 ―――――



「僕は一体……っ! これは……」


 いつの間にか意識が途絶えていたナオヤはうつ伏せの状態から驚いて起き上がり辺りを見回し驚愕する。

 辺りには鉄のような血の臭いが充満し、その臭いだけでナオヤは口を押さえ吐き気をもよおす。

 だが目の前の光景はさらにひどく、あちこちに人間の遺体と魔物の死体が転がっており、地面には真っ赤な血がいたるところに広がっていた。

 ナオヤの足元にも血が広がっており、血の上に座っている事へと気づき、ナオヤは驚き後ろへと飛び跳ね尻餅をつく。

 ナオヤが視線を下げパジャマを見るとすっかり真っ赤に染まりはてていた。

 この異常な事態をナオヤは飲み込めず、ナオヤの体は自然と震えが止まらなくなり、発狂しそうになるほどおぞましかった。


(これはお前がやったんだ)


「くっ!……」


 忘れていた声がナオヤの脳裏へと響き渡り、血塗られた右手でナオヤは下を向き頭を抑え目を閉じる。


「違う! お前が僕を操ってやったんだろ!」

 

(確かにそうかもしれないが、それを実行したのはお前の体だ。ほらお前の右手にはしっかり剣が握られているだろ)


 確信はなかったが、この場に残されているのはナオヤだけであったため、ナオやは怒鳴って頭を抑え目を閉じたまま、そう剣へと問いただす。

 その問いにすんなり剣は答え、ナオヤへと罪の意識を持たせようとするようにナオヤへとささやきかける。

 頭ごなしにナオヤはささやきかけてくる剣の言葉を、頭を抑えながら首を横に振りナオヤは必死に否定しようとする。

 そうでもしなければナオヤの心が壊れ、完全に魔剣に意識をのっとられそうであったからだ。


(まぁいい、これからも俺のために存分に体を使わせてもらうぞ。フハハハッ!!)


「――っ! うわぁぁぁぁぁ!!」


 苦悩するナオヤをあざ笑うかのように剣がナオヤの脳内で高々と笑う。

 誰もいない村でナオヤの悲痛な助けを求める叫び声が、誰にも届く事はなく夜空へとむなしく響き渡る。

 それを最後にナオヤの意識はそこで途絶え、うつ伏せに地面へとバタリと倒れこむ。

 そして再び、魔剣がナオヤの体を乗っ取って起き上がり、人間の血を求め呪われた魔剣を片手にゆっくりと歩き始める。


読んでくださった方に感謝です!。

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