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 あの決戦から二日後、解放軍は全軍城へと帰還した。

 だが前回の勝利の用に喜びは一切なく、失意のどん底におちいる解放軍。皆ぽっかりと心に穴が空いた様に呆然としていた。

 ナオヤがいない時からずっと精神的支柱であり戦力の要であったヴォルドがいなくなったため、無理もない。

 そのショックからエルナとミアはすっかり塞ぎこんでしまい、ミアを励ますためミーシャがずっと付き添っていた。




『――…………』


 フレンから召集を受け、ホールへと集まった解放軍の面々。もちろんそこにはエルナとミーシャの姿はない。

 集まったものの皆どこか上の空の状態であり、ぼけっとし立ち尽くす。ナオヤも例外ではなく同じような感じであった。

 こんなふぬけた解放軍の姿を見ればすぐヴォルドが怒鳴っていたことであろう。だがその姿はもはやどこにもない……。

 重たい空気の沈黙が続く中、テーブル奥の席へと座っていたフレンがゆっくりと口を開く。


「それでは、次の作戦の説明へとうつりましょうか」


「――っ! もう少し待ってもいいだろ! お前は悲しくないのかよ!」


 いつもと変わらない口調で話を始めるフレン。そんなフレンを見て、ヴィンが隣へと駆け寄り、やり場のない怒りをぶつけるように怒鳴りつける。


「……今、立ち止まって何になんでるんですか? 私たちが動かなければ、たくさんの人が魔物に襲われさらに悲しみを生むんですよ?」


「その通りだな」


 今までに見たことがないぐらいの厳しめな視線をヴィンへと送るフレン。

 その隣で腕を組み目を瞑り立ち尽くすレンカがその言葉に同意する。


「くっ!……けっ!――」


 突きつけられる正論に居心地が悪くなり、ヴィンがホールから立ち去っていく。

 心のどこかではわかっているのであろう。このまま立ち止まっていも何も変わらないことを。

 その場にいる他の面々もヴィンと同じ気持ちではある。それでもやはりヴォルドが抜けた穴は大きくつらいものがあった。


「あ、ナオヤ君も行っていいですよ。エルナの側にいてあげてください」


「はい……」


 ヴィンが立ち去った方向を眺め、立ち尽くしていたナオヤにフレンが気遣うようにそう言う。

 その言葉を素直に受け止め、フレンへと頭を下げナオヤは一番ショックを受けているであろうエルナの自室へと向かう事にする。




 ――コンコン。


「エルナ入るよ?」


 エルナの部屋の扉をノックするナオヤ。だが返事はない。

 このまま引き返すわけにもいかないので、緊張した趣でナオヤはゆっくりと扉を引いて中へと足を踏み入れる。

 部屋へと入るとベッドの上に座るエルナへと真っ先に目がいく。

 以前のような凛とした力強い姿はなく、ただうつむいて黙り込む、年相応のか弱い少女のような感じであった。


「エルナ、大丈夫?……」


 大丈夫なわけがないのに掛ける言葉が見つからず、ナオヤはついそう口走ってしまう。

 その言葉に返事はなくうつむいたままのエルナ。しばらくの沈黙が二人の間に続く。

 ――そしてエルナが目の前に立ち尽くすナオヤへと向けゆっくりと口を開く――。


「……私、気づいていたのよ」


「父上が本当のお父様じゃなってことをね……ナオヤも気づいていたわよね……」


「……」


「けどそれでもよかった、父上は私を本当の娘のように愛していてくれたから。そしてこの戦いが終わったら私の事について父上の事についてもっと知りたくて聞こうと思っていた……。なのに! なのに!……っ!」


「エルナ……」


 今まで胸のうちに秘めていた思いを吐き出すようにそう言い泣き崩れるエルナ。

 本当にヴォルドを慕っていたのであろう。泣き続けるエルナを見てナオヤはつぐつぐそう思う。

 そんな今にも壊れてしまいそうなエルナを何とかしたくてナオヤは無意識に右腕で引き寄せ抱きしめる。


「ナオヤ?……」


「ああああっ! ご、ごめんエルナっ。 あだっ!……」


 驚いて泣き止み顔を上げるエルナ。ナオヤは「はっ!」と我に返り慌てて後ろへと飛び下がり扉の引き手に後頭部を強打する。


「ふふっ」


「あはは……」


 そんなナオヤを見て思わず笑みを見せ、重かった空気が少しだけ和やかな雰囲気となる。

 頭をさすりながらナオヤはエルナが笑うのを見て少しだけホッと心の中で安堵の息を吐く。


「……ヴォルドさんもエルナのことを大切に思っているみたいだったよ」


「父上が?……」


「うん――」


 ナオヤはヴォルドとしたあの時の話をエルナにもすることにする。今を逃せばもはや話す機会はないと思ったからだ。

 そしてナオヤは口を開きゆっくりと話を始めてゆく――。



 ――――――




「父上がそんな事を……」


 話を聞き終え、すっかり落ち着きを取り戻していたエルナが神妙な面持ちとなる。


「それに私が貴族の娘かもしれないだなんて……」


「うん、ヴォルドさんはそう言ってたよ、それと何かあったらエルナを任せるって……」


「そう……」


 何やら落ち着いた感じで考え込むエルナ。その様子に先ほど悲しみに暮れていた様子はなく穏やかな表情となっていた。

 しばらくの沈黙の後、エルナがベッドからゆっくりと立ち上がる。


「それじゃ、ナオヤ。ミアの所に行きましょうか。あの子も悲しみに暮れていると思うからね」


「え? エルナはもう大丈夫なの?」


「ええ、いつまでも悲しみに浸かっているわけにはいかないでしょ」


「エルナ……うん、わかったよ、あまり無理はしないでね」


「ええ大丈夫よ」


 安心させるかのようにナオヤへとエルナは微笑みかける。

 そんなエルナの強い姿を見て、これ以上何かを言うのはやぶだと思いそのまま頷きミアの部屋へと行く事にする。




 ――コンコン。


「ミア、入るわよ?」


 部屋をノックするエルナ。部屋の中から返事はなく代わりにミアのしゃくり泣くような声が聞こえてきた。

 エルナは扉をゆっくりと開け中へと入る。その後に続くようにナオヤも部屋の中へと入ってゆく。

 部屋の中にはベッドの上で両目に手をやり、すすり泣くミアとその隣で心配そうに付き添うミーシャの姿があった。


「ほーらミア、泣かないの」


「ママ……ひっく。だってヴォルドおじいちゃんは死んじゃったんでしょ?……」


 ミアの前に立ち、前かがみになり頭をなで笑みを浮かべ、何とか泣き止ませようとするエルナ。こんな小さな子に対しては酷な話ではあったが。


「ええ、確かにそうね……けど父上は天国で見守っているわ」


「天国?……」


「ええ、そうよ、人が死んだらいく場所よ。そこで父上もミアの本当の両親もずっとミアを見守っているわ。だからそんな悲しい顔をしないで。みんなミアには笑っていて欲しいと思っているわ」


「ママ……」


「私はもう泣かないって決めたからミアも泣かないで。ね?」


「……うん、わかった。ミアももう泣かない……」


「うん、いい子ね」


 目をこすり涙を止めるミアの頭をエルナが微笑みかけ優しく撫でる。その姿は本当の母親のような感じであった。


「ミーシャお姉ちゃん心配かけてごめんね」


「ううん……」


「それじゃミア、そろそろ晩御飯の支度にしましょうか」


「うんっ!」


 ベットから飛び上がるミアの手を引きエルナが部屋から出て行く。その後ろをナオヤもミーシャと一緒について行く。

 表面上は二人とも立ち直ったみたいでナオヤは少し安心をする。



 

 ――――




 翌日、昼時。城の前の平原に剣を持ち立ち尽くす解放軍の面々。その先頭には同じく剣を持ちエルナが立ち尽くしていた。


「みんな聞いてちょうだい」


 そこに集まった解放軍の面々にエルナは口を開き話を始める。皆静かにエルナの方へと目をやり黙り込む。


「確かに私の父上が亡くなったことは悲しくてつらいことだわ……。決して忘れられないほどにね」


「けど、今悲しんで立ち止まっていても何も変わらないわ。父上もそれを望んでいないでしょう」


「だから私たちはどんなにつらいことがあっても突き進まなければならない!。だからみんな今は悲しみに明け暮れずにただ戦いましょう、父上が救おうとしていたこの世界を魔物から開放するためにも!」


『おおおーーーー!!』


 武器を掲げ解放軍の面々を鼓舞するエルナ。その目には悲しみの色は薄く、闘志を燃やしていた。

 他の面々も一番つらい本人ががんばっているのに、自分達がへこんでいるわけにはいかないという思いで、同じく武器を掲げ闘志を燃やし、士気を高め立ち直りを見せる。

 そのまま解放軍は残された大陸西部へと進軍を再開する事にする。



誤字脱字あったらすみません……。


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