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決戦

更新遅れてすみませんー!。

誤字脱字ありましたら申し訳ないです。

 翌日、ナオヤ達解放軍は総出で城から旅立ちを決行する。

 二日ほどかけ大陸中部を横断し大陸中南部にある城の前の村へと到着する。夕暮れ時、幸いまだ村はまだ無事であり平穏な空気であった。

 解放軍の人々は明日作戦へと移す事にしそれぞれテントを張り、ひと時の休息に入る。

 村の中にある空き家でテーブルの周りに立ち、ナオヤやフレンなど主だった面々は、作戦について最後の確認をする。

 その奥の部屋のベッドでは長旅で疲れたのであろう、ミアがぐっすりと眠っていた。全員が留守になるため、この戦いが終わるまでこの村に預ける事にしたのだ。


「えーそれでは明日の作戦についてですが、まずレンカさんは私や他の解放軍の人々と一緒に城の中から来る前面の敵を抑えてください」


「ナオヤ君たちがいなくてもしばらくは抑えられるでしょう」


「承知」


 テーブルに置かれた手書きだとされる簡易に描かれた森に囲まれた城の図面。

 それに目を落としフレンは指を指しながら指示を出す。それを聞き、レンカも図面へと目をやり頷く。


「ナオヤ君、ヴォルドさん、エルナさん、ヴィン君はその間に城の裏口から入り込み魔物を討伐してください」


「本城が攻撃されたことかリーダー格の魔物が倒されれば、前線に出ている魔物は統率能力をなくし混乱するでしょう

そうすれば後は簡単に討伐していく事が出来ます」


「はい、わかりました、フレンさん!」


「わかったわフレン」


「おう、任せろ」


 失敗は許されない。大役を任され緊張した趣になるナオヤ。

 同じくエルナ達も表情を引き締め戦いへ向けて気持ちを引き締める。


「それと大体の魔物の数などは把握されているんですが、リーダー格がどのような魔物なのか情報が入ってきていません……」


「まぁナオヤ君達なら負けることはないでしょうが十分に気をつけてください。何なら無理せずに撤退してくださってもいいです」


「はい、フレンさん、気をつけます」


 またガロウのような強力な魔物があらわれるのだろうか?

 それを聞き、ナオヤはさらに気を引き締める。


「なーに兄貴ならどんな魔物が来ても負けることはねえさ!」


「ちょ、ちょっとヴィン!」


 緊張の欠片もなく相変わらずの軽口を叩くヴィン。


「ははっ、そうですね。何はともあれ、ここで勝利をすれば後は大陸西部だけです。みなさんがんばりましょう」


「はい!」


 フレンのその言葉を最後に解散しそれぞれのテントに戻る。

 同じようにナオヤも明日の決戦に備え休息へと入る事にした。




 ――――




 ――そして、翌日朝方ナオヤ達解放軍は表情を引き締め、村の入り口に立つ。前回よりさらに大規模な戦い。そして総力戦である。


「パパ、ママ。気をつけてね……」


「うん、大丈夫だよミア。必ず無事に帰ってくるよ」


「ええ、ミア。みんな無事に必ず帰ってくるわ」


 見送りに来ていたミアが心配そうな顔をしてナオヤ達の方を見る。

 そんなミアの頭をナオヤは前かがみになって、撫でてやり安心をさせてやる。


「それじゃ、行きましょうか。みなさんこの戦いが終われば魔物との戦いにも終わりが見えてきます! がんばりましょう!」


『おーーーー!!!』


 武器を掲げ戦いへの意気込みを見せ士気を高める解放軍。

 そしてナオヤ達は別行動をとりフレン達はそのまま城の方へと向け歩き出しはじめる。

 総勢三百人以上はいるであろう解放軍を率いて、フレン達は横に散らばり陣形を組み城の前に立ち尽くす。

 それに気づいた魔物達が城の中や周りの森の中から次々と現れ出てくる。

 その数、解放軍とそれ以上であろうほぼ互角の戦力。立ち尽くしにらみ合う両者。

 しばらくの睨みの後、叫び声を上げ両者が前方へと一気に駆け出し、武器と爪が交わり交戦が始まる。


「行くぞ! 魔物ども! はぁぁぁぁ!」


 目の前から迫り来る魔物に剣を神速の速さで抜き放つレンカ。

 そのまま魔物の横を走り抜け、縦にいた複数の魔物の胴を両断する。

 さすがナオヤとほぼ互角の実力とあってか彼女は次々と魔物を斬り裂いていく。

 彼女一人でこの戦場は大丈夫なのではないか? そう思わせるぐらいに頼もしい強さであった。

 その後ろでリーダーであるフレンも前線へと出て、魔法を唱え魔物の討伐へと加わる。

 開戦まもなく魔物の戦力をそぎ落としていく解放軍。

 それでも魔物達も抵抗を見せ、城の中からぞろぞろと新たな手ごわそうな魔物が姿を見せる。

 戦況はほぼ五分であり勝利の行方は城へと潜入しているであろう、ナオヤ達へとゆだねられることになった――。






 ――その頃、ナオヤ達は襲い来る魔物を斬り捨てながら城の中を駆けていた。

 フレン達のおかげで城内は手薄く、突如現れたナオオヤ達に驚きふためく魔物達。

 リーダーを倒すのが遅れれば戦況は不利になる。

 驚く魔物を斬り捨て階段を駆け上り、魔物のリーダーがいるであろう、玉座の間を急いで目指す。

 

「おらぁぁぁ!」


 率先してナオヤ達の前を駆けていたヴォルドが豪快に大きめな剣を片手で魔物へと横に振るう。

 王座を守っていたとされる魔物が血を流し地面へと倒れこむ。

 大して強い魔物はおらず、残されたのは玉座の間にいるであろう親玉だけとなっていた。

 

「よし! 行くぞってめぇら! 気引き締めろよ!」


「はい! 父上!」


「うっす!」


 ヴォルドが剣を片手に引き下げ、扉を勢い良く片手で開ける。

 玉座の間の中を警戒しながら見渡すナオヤ達、だが護衛のような魔物は一匹もおらず静かであった。

 だとすれば話は早い、後はリーダーである魔物を倒すだけだ。

 そう思いナオヤ達は気を引き締め、剣を構え数段の段差の先にある玉座をを見上げる。


「なっ?!――」


 そこにいた姿を見て皆、口を開け驚愕の表情を見せる――。

 それもそのはず、そこにいたのは魔物ではなく、金髪の髪をし不敵な笑みを見せる人間の若い男の姿であった。

 茶色いマントに茶色い布で出来た服にズボンと言う薄い服装、そして――。


「っ! あれは魔剣?……」


 男の左手にはナオヤのと同じであろう白い刃が妖しく光る黒い剣。

 その剣の持ち手の部分には目が見開かれ、ナオヤ達へと伝わってくるほど、禍々しい黒い邪悪なオーラが溢れていた。

 まさかもう一本存在するとは思っていなかったため、ナオヤは驚きを隠せない。



「もしかしてあの男は操られているのか?……」


 自身の経験からナオヤはそう思う。それならばこの場に人間がいるのも納得が出来た。

 ナオヤから話を聞いていたため、あれが魔剣であることを認識しエルナ達は少し焦りの表情を浮かべる。

 ずっとナオヤと一緒に戦ってきたため、魔剣のすごさを身にしみるほど感じていたからだ。


「ふはははっ! 操られているだと?…… バカ言え! 俺は自分の意志でここにいるんだ!」


 今まで黙っていた男が急に笑い出し、不気味なな笑みを浮かべ言葉を発する。


「何?! だったら何故ここにいる?! お前が魔物の指揮を執っているのか?!」


「ああっ! そうだ俺が魔物を率いるリーダーだ。特別に俺がここまで来るようになった経由を話してやるぜ。どうせお前らはこの後死ぬんだからなぁ」


 少し怒りをあらわにし男へと問いただすナオヤ。

 男が操られていないのだとすれば自分の意志で人間を襲っているということだ。ナオヤが怒るのも無理はなかった。

 そしてナオヤ達を見下すような目で見ながら男は勝手に話を始める。


「あれは十八年前ぐらいのことだ、俺はその当時ある国で王国騎士をしていたのさ。あの頃は本当に退屈だったぜ、年老いたジジイの王様を守るために一日中立ち尽くして警護してるだけだったからな。平和すぎて何も起こるはずがないのによ!」


 昔を思い出し嫌悪し吐き捨てるようにそう言う男。

 その言葉には敬いや尊敬の念などはみじんも感じられない。


「だが、そんなある日だ。俺の国に今まで存在はしていたがおとなしかった魔物が突如襲撃してきたのさ」


「いやー最高だった、あの時の興奮は今でも覚えてるぜ。目の前で驚いている人が次々と殺されていくんだからな! あははははっ!」


 何が面白いのかわからないが男は興奮した様子で高々と笑う。

 そんな男にナオヤ達は明らかな敵意と冷ややかな視線を送る。


「だがそこで、さらに面白いことが起きたんだ! そんな中こいつが俺の前に突如あらわれたのさ!」


 そう言い魔剣を掲げ眺め見る男。


「こいつも抗おうとしなければ無理に操ろうとしねぇ! そして俺はそのまま魔物達の方につくことにしたのさ、目の前で人間を斬り殺してやったら魔物達も俺をすんなりと受け入れたぜ! そっちの方が楽しそうだったからな! あははっ!」



「それから俺は魔物と共にその国を滅ぼし、さらに俺はそれから他の国にも魔物を率いて攻め滅ぼしたのさ! いやー最高だぜ女にも食料にも困らねえ。

それに知っているか?! この剣を使って人を斬っていれば歳もとらないんだぜ! ははっ!」


 ナオヤ達が視界に入っているのかすらわからないぐらいに、興奮気味にひたすら話を続ける男。


「貴様! それでも人間か?! 魔物によって多くの人が苦しめられているのだぞ!」


「へっ! そんなことしらねーよ! どうぜ赤の他人だろ」


「くっ!――」


 業を煮やし怒鳴ってエルナはそう男へと言い放つ。

 ナオヤ達の心の中にふつふつと湧き上がる怒り。

 もし男が手に魔剣を持っていなければ今すぐにでも斬りかかっていたであろう。


「さてそろそろ殺し合いを始めるとしようぜ! 最も殺されるのはお前らだがなぁ!」


(来るっ!)


「ヴォルドさん達は下がっていてください!」


 不敵な笑みを見せ、魔剣を左手に構える男。それに合わせ、ナオヤも腰を低くし魔剣を右手に構える。

 魔剣に対抗できるのは同じ魔剣を持っている自分しかいない。そう思いヴォルド達に離れるようナオヤは焦りながら叫ぶ。

 心の中に激しい怒りを感じながらも、ナオヤの邪魔になると思いエルナ達は頷き横の方へと離れる。


「それじゃ行くぜっ!」


 地面を強く蹴り男が剣を両手で持ちナオヤとの距離を一気に詰め剣を振り下ろす。

 その一撃を剣を横にしナオヤは何とか受け止め防ぐ。剣が交差し軋むような金属音が鳴り響く、想像以上に重い男の一撃。

 このままでは耐えられないと思ったナオヤは一度後ろへと飛び跳ねた。

 体勢を整え直し、ナオヤは地面を強く蹴り果敢に、男へと向かい剣を縦に振るい突っ込んでいく。

 その一撃を余裕そうな笑みを浮かべて軽々と剣を横にし受け止める男。剣が交わりあう中、両者剣を弾きあい後方へと飛び跳ねる。

 体勢を低くして地面へと着地しすぐさま剣を構え、前方へと飛び跳ね再び両者の魔剣が交差しぶつかり合う。


「どうした?! その程度の力かー?!」


「くっ!――」


 余裕そうな笑みを見せ男はナオヤを挑発する。対照的にナオヤは苦しそうに表情を歪ませていた。

 人間だからといってナオヤは一切の手加減もしていない。

 同じ魔剣と言えど今までの経験と力量。そして両腕と右腕だけと言うアドバンテージ。

 これらの差でナオヤは完全に男に押されきっていた。

 周りで見守っていたエルナ達にもナオヤの苦戦が伝わってくる。

 このままではナオヤが危ないかもしれない。そんな嫌な悪寒がエルナ達を包み込む。


「ちっ! この程度かつまらねぇなぁ!――」


 剣が交差する中、男はナオヤの剣を弾き上げる。腕が上に上がり無防備な状態になるナオヤ。

 ――そして、その刹那、男はそのままがら空きとなったナオヤの胴を魔剣で鋭く横に斬り裂く。

 スローモーションのようにナオヤの胴を剣が斬り抜け、血飛沫が噴出す――。

 

「がはっ……」

 

 口から血を吐きナオヤは入り口付近へと吹っ飛び、壁にもたれるように倒れこみうつむく。

 その胴からは止め処なく血があふれ出ており、床へとズボンへと伝わり流れていた。


「ナオヤ!」


「兄貴っ!」


 倒れこむナオヤの傍らにエルナは慌てて心配そうに駆け寄る。

 だがナオヤにはすでにエルナの方に視線をやる気力もなく、エルナの声はどこか遠くで聞こえていた。

 このまま死ぬのだろうか? 体から血の気が引き体温が下がっていくナオヤの体。

 意識がもうろうとし気を抜くと目を閉じてしまいそうになる。


「もうお終いのようだな、さて、これで止めにするか! ははははっ!」


 剣を構え止めを刺すべく、男は倒れこむナオヤを見下ろす。

 来るとわかっていてもナオヤの体はどこの部分ももはや動かない。


「うおおおお!!」


 このままではまずいと思いヴォルドが決死に剣を両手で振り上げ男へと斬りかかる。

 ナオヤが負ける相手に自分が勝てるわけがない。そうわかっていながらも動かずにはいられなかった。

 ここで動かなければナオヤが死んでしまうのだから。


「ちっ! 邪魔なんだよ!」


 ヴォルドの決死の一撃を男は不機嫌そうに片手で剣を持ち軽々と受け止める。

 いくらヴォルドが強い戦士であったとしても埋まらない実力の差。わかってはいたもののヴォルドは焦りの表情を浮かべる。

 そして――。


「がはっ……」


「父上ーー!」


 男の剣がヴォルドの胴を深く貫く。その剣先は腹部を貫通し背部から突き出て貫通していた。

 剣が胴を貫き、血を吐きヴォルドの腕が力なくダランとなり剣が手を離れ地面へと転がり落ちる。

 その光景をナオヤの傍らで眺めていたエルナが少し涙ぐみながら声を上げる。


「はははっ! この感じだ! 最高だ体中に生命が溢れてきやがる!」


 剣を引き抜き喜びの笑いを上げ、恍惚の笑みを浮かべ剣を掲げ眺め見る。

 その男の姿は魔剣に操らていたナオヤとなんら代わりのない邪悪な姿そのものであった。

 剣を引き抜かれ力なく地面へと仰向けにヴォルドは倒れこむ。ぽっかりと空いた胴からはナオヤ以上に血が流れ水溜りが出来ていた。


(ヴォルドさんが斬られた?…… )


 朦朧としていた意識が急激にはっきりし、顔を上げ目を見開きナオヤは前へと目をやる。

 その視線の先には地面へと寝転がりピクリとも動かないヴォルド。その目の前では男が今だ高笑いを上げ、剣を眺め見ていた。

 叫びを声を上げるエルナの声が遠くに聞こえ、その光景がどこか現実味のないものに思えてくるナオヤ。


(憎い……)


 悲しみよりもナオヤの中に湧き上がる男に対しての怒りと憎しみの感情。

 エルナの国を滅ぼしたかもしれない男が憎い。エルナの両親を殺したかもしれない男が憎い。ヴォルドさんを傷つけた男が憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。殺したいほど憎い。男を殺す力が欲しい。

 ナオヤの心が憎しみと言う負の感情で一色に染まってゆく。腹部に走る痛みや流れ落ちる血などもはや眼中になどない。


「貴様ーーーー! よくも、よくもヴォルドさんを――!」


 男を殺意の目で睨み始めて怒りを露にするナオヤ。心臓の鼓動が高まり、憎しみが心の中で一気に爆発する。

 それと同じように魔剣がナオヤの憎しみに連動するように、体にさらなる力が湧き上がっていく。

 叫び声に驚き、ナオヤの方へとエルナは視線をやりさらに驚きを見せる。そのナオヤの瞳の色は魔物のように茶色から紫に変わり果てていた。

 そして、その刹那、ナオヤの姿がその場から一瞬で消え去る――。


「……なっ! がはっ……」


 驚き男は自分の腹部へと視線を落とす。その視線の先の手前にはナオヤがおり、男の腹部にはすでに剣が突き刺さっていた。

 その間1秒とあったであろうか? 男が刺されたことすら気づかないほどのスピード。

 突き刺さった剣から男から生命を奪い取るように出血がおさまりナオヤの腹部の傷が塞がっていく。

 自体が飲み込めないまま男は驚きの表情を浮かべ血を吐き、地面へと倒れこんだ。


「はぁはぁはぁ……がはっ!……」


 限界を超えた動きに体がついてこれず、剣を支えに片膝を着きナオヤは息を切らし血を吐く。

 それと同じようにナオヤの瞳の色も紫色から元の茶色へと戻っていく。


「父上!」


「ヴォルドの旦那!」


「うぅ……」


 戦いが終わり仰向けに倒れこむヴォルドの元へとエルナとヴィンは慌てて駆け寄っていく。

 隣に座り込み手を握り、目から涙を流しヴォルドへと必死にエルナは呼びかける。その声を聞きうめき声を上げうっすらと目を開けるヴォルド。

 すでにその目に生気は薄く血が胴からずっと流れ落ち、命はもはや風前の灯火であった。


「へっ……どうやらナオヤもエルナ達も無事なようだな……」


「すぐミーシャを呼んで来ます父上!」


「いや、いいぜエルナ……どうせ俺はもう助からん……」


 笑みを浮かべ自分よりもナオヤ達を心配するヴォルド。もはや自分があまり長くはないことを悟ったのであろう。

 どうすることも出来ずエルナはただ目から涙を流し続ける。


「――くっ! すみません、ヴォルドさん僕のせいで……」


「へっ、お前のせいじゃねぇよナオヤ……」


 もっと自分が強ければ、もっと自分が頼もしければ。悔やんでも悔やみきれない気持ち。

 そういった思いを抱え、ヴォルドの横に立ち悲しさと悔しさを交えた涙をナオヤは流す。


「くっ……よくも俺をこんな無様な格好に……貴様ら生きていたこの城から出れると思うなよーーー!!」


「なっ?!――」


 不意に今まで倒れていた男がよろめきながら立ち上がる。ナオヤは慌てて男の方へと振り返り剣を構え直す。

 激情に駆られ男は我を忘れ、城の大黒柱と思わしき柱を魔剣を鋭く横に振るい斬りつける。

 斬りつけられた柱が崩れ落ち、それと同時に城が崩れ始めるような音を立ててていた。



「ははははっ! このままお前らも俺と一緒に道ずれにしてやるぜ!  はははははっ!」


 両手を上げ狂ったように笑い続ける男。このままでは城が崩れるのも時間の問題であった。


「おい、ヴィン! エルナを連れて速くここから脱出しろ!」


「しかしヴォルドの旦那!……」


「いいから行け! 俺に構うな!」


「……わかりやした……。今までありがとうございましたヴォルドの旦那! ――っ!」


 力を振り絞り上半身を起こしヴィンへとヴォルドはそう言い放つ。

 戸惑うヴィンであったがヴォルドの覚悟を無駄にしないためにもエルナを右肩に担ぎ頭を下げる。

 最後まで泣き叫び、別れを惜しむように右手を刺し伸ばすエルナを連れ部屋から出ようとする。


「くっ! 逃がすかよ!」


 高笑いをしていた男がそれに気づき、剣を構え前方へと飛び出そうとする。

 しかし男の前にヴォルドが立ち尽くし剣を振るい足止めをする。

 どこにそのような力が残されていたのだろうか。力を込めたことでさらにヴォルドの胴から血が流れ落ちる。


「ナオヤお前も行け! ここは俺が食い止める!」


「ヴォルドさん……」


「へっ……、エルナの事頼んだぞ……」


「……はい、わかりました、それとこの大陸を必ず魔物から解放して見せます、今までありがとうございました、ヴォルドさん……」


 命の灯火を燃やし続け、男と剣を交えあうヴォルド。剣を交差させる両者の腹部から血が流れ落ちていく。

 そのままナオヤの方へと顔をやり笑みを見せ、最後にそう言い残しエルナのことをナオヤへと託す。

 そのヴォルドの言葉に頷き、ナオヤは一度も後ろを振り返らず部屋から飛び出す。

 ナオヤ達は階段を下り慌てて城から脱出をしていく。それと同時に城が崩れ落ち瓦礫の山と成り果てる。

 ヴォルドがいるとされる瓦礫の山をただ無言で見つめる、ナオヤとエルナとヴィン。

 このままこの魔物達との戦いには勝利したものの、ヴォルドを失い、苦い勝利の形となった。

 ヴォルドが戦死したことを知り、浮かない気持ちを抱えたまま村へと解放軍は帰還することにした――――。

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