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来訪者

9900字と少し多め? です!。

誤字脱字あったら本当にすみません……。

 ナオヤとミーシャ達がピクニックに行った,翌日の昼時。

 城へと突然の来訪者が訪れる。


「ここが解放軍の城か……」


 城を見上げながら、外の入り口へと立つ女性。

 背丈百七十センチに二十代前半くらいだろうか、凛とした顔つきに髪を一つに束ね腰元まで届く青い髪に青い瞳。

 上下薄茶色の長袖長ズボンの洋風な服装の上に、腕を通し肩から膝元近くまである青い羽織。

 剣士なのであろう、女の左腰には鞘に入った細長い黒い剣が刺されていた。


「頼もーーー!!」


 女が口の前に手をやり叫び声を上げる。

 城内へと響き渡る女の声。

 その声を聞きつけ解放軍の一人の男が現れる。


「なんだ、あんた志願兵か?」


「まぁ、そんなところであるかな。それよりも隻腕の英雄殿とやらはおられるか?」


 女は男の問いを軽く受け流しそう問いただす。


「ああ、いるぜ。それってきっとナオヤのことだろ?」


「そうか……」


 男がそう思い女へと軽々と答える。

 それを聞き声が急に重々しくなりこわばる女の表情。


「それで、解放軍のリーダーに会わせていただきたいのだが」


「ああ、かまわないぜ。丁度今ホールで会議をしているとこだ」


 仲間が増える事に越したことはない。

 男はそう思い快く承諾し彼女をホールへと案内する。

 廊下を歩く男の後ろを黙々と歩く女。

 歩き始めてすぐ二人はホールへと到着する。

 ホールでは一番奥の中央に座るフレンをはじめとし、その周りの席にヴォルドやエルナ、ナオヤなど解放軍のほぼ全員がホールへと集結していた。


「それで何かありましたか?」


「はい、どうやら志願兵のようです」


 フレンにも先ほどの叫び声が届いており、何かあったのであろうと男へと尋ねる。

 男は頭を下げ、連れてきた女をフレンの元へと通す。

 頭を下げる男の横を彼女も頭を下げフレンの左横へと堂々とした足取りで歩き出す。


「ほぉ~女性の剣士ですか、珍しいですね」


 フレンが席に座ったまま彼女の顔をまじまじと見上げる。

 美しい凛とした顔と、背筋を伸ばし隙のない女の風格にその場にいた解放軍の人々の視線が一点に集まる。


「そなたが解放軍のリーダーか?」


 彼女がフレンへとそう尋ねる。 

 周りの視線も、フレンのような筋肉質ではない男性が解放軍のリーダーであるということも気にしていない様子。


「はい、私が解放軍のリーダーのフレンです。どうやら剣士のようですね?」


「うむ、拙者の名前はレンカだ。旅の剣士といったところだ、よろしく頼む」


 珍しい古風な口調。

 レンカと名乗った彼女はフレンへと深々と頭を下げる。

 礼儀を重んじる性格なのであろう。


「はい、よろしくおねがいしますねレンカさん。それで志願兵なのですか?」


 椅子に座りながら彼女へと軽く頭を下げるフレン。

 

「うむ、その通りだ、隻腕の英雄殿の噂を聞きつけてな。その方はどちらにおられる?」


「ああ、ナオヤ君のことですね、それなら左側に座っている彼ですよ」


 そう言いフレンから見て左側に座っているナオヤへと紹介するように左手を指し伸ばす。

 

「あ、始めましてレンカさん。僕の名前は秋月尚矢です、というかそんな噂が流れているんですね……」


「そうか、お主が……」


 ナオヤはレンカへと軽くお辞儀をした後、苦笑いを浮かべる。

 そんなナオヤの言葉が届いていないぐらいに、彼女はけわしい表情を浮かべナオヤを凝視する。


「けど本当に戦えるんですかね? とても強そうには見えないぜ」


 ナオヤの隣に座っていたヴィンが挑発するような軽口を叩く。

 どうやら彼は見た目で人を判断する悪い癖があるらしい。


「よかろう、試してみるか?」


 その言葉を聞きヴィンへと突き刺さるような鋭い視線を送るレンカ。

 彼女から放たれる威圧的な雰囲気に思わず周りの解放軍の人々がたじろぐ。


「望むところだ! やってやるぜ!」


 テーブルを叩きつけ、左拳を握り締めヴィンは勢い良く席から立つ。

 彼女の実力を見てみたいと思い、その戦いを特に止めるものなどいなかった。

 率先して歩くレンカの後をヴィンが続き、その後ろをその場にいた解放軍の人々が歩き始めた。

 こうしてレンカ対ヴィンによる決闘が行われる事になった。





 少し曇った青空に強く吹きぬける風。

 円になる解放軍の人々の中にレンカとヴィンが立ち尽くす。


「どこからでもかかって来るがよかろう」


 二本の剣を持ち立ち尽くすヴィンの前に、左腰にある鞘に右手を添えたままのレンカ。

 剣は抜かず彼女はどこか余裕の表情である。


「ちっ! バカにしやがって! それじゃいくぜ!」


 そう言いいきり立って剣を構えるヴィン。

 そして上空へと飛び跳ね二本の剣をヴィンは勢い良く振り下ろす。

 常人ならば受けとめるのもきびしいであろうその一撃、剣を鞘に入れたままであるならばなおさらの事。

 だがその刹那、何かが空を斬り。襲い来る二本の剣が弾き飛び上空へと舞い上がる。

 何かがと言うのは速すぎて見えなかったためである。


「なっ?!――」


 驚いた表情を浮かべヴィンが弾き飛ばされ尻餅をつく。

 その後方に先ほど飛ばされた二本の剣が地面へと突き刺さる。

 剣先が見えず周りにいた解放軍の人々の間にどよめきがおきる。

 魔剣を持っていなかったナオヤにも当然何が起きたか見えていなかった。

 この状況で目視できたとすればヴォルドくらいであろう。


「まだやるか?」


 一番驚いているであろうヴィンへと、いつの間にか抜きさっていた右手の剣をレンカは突きつける。


「参りました姉御!」


 両手両膝をつき彼女へと頭を下げるヴィン。

 そんな情けないヴィンを見てナオヤは思わず(変わり身はやっ!)と心の中で突っ込んでしまう。

 ざわつきがおきる中、彼女はゆっくりと剣を鞘へとしまう。


「ははっ姉ちゃん相当な手慣れだな」


 それを円の中で見ていたヴォルドが嬉しそうな笑いをあげレンカの前へと出てくる。

 そんなヴォルドに彼女は黙ってゆっくりと頭を下げる。


「どうだい? 俺とも戦ってくれねえか?」


「……よかろう」


 戦士としての血が騒いだのであろう。

 ヴォルドが彼女へとそう提案する。

 その提案をレンカは返事一つで快く承諾する。

 こうしてレンカ対ヴォルドによる第二戦が行われる事になった。


 周りの解放軍の人々が固唾を呑んで見守る中、両者が剣を構える。

 さすがにヴォルドから発せられる、歴戦の戦士のオーラを感じて強いと思ったのだろう。

 レンカは剣を鞘から抜きヴォルドへと向け右手で構える。

 それと同じようにヴォルドも剣を持ち、両手で構える。


「それじゃ行くぜ!」


 剣を手に持ち、にらみ合う事数秒。

 ヴォルドがそう言い放ち、前へと踏み込み剣を勢い良く振り下ろす。

 さすがにヴォルドに勝てるわけがないと周りの人々が思う、この一戦。

 だが予想外の出来事が起きる。


 辺りへと何度もぶつかり合う剣の音。

 ヴォルドとレンカがほぼ互角の攻防を繰り返す。

 いやレンカがヴォルドを押しているようにも思えた。

 ヴォルドがパワーなら彼女はスピードであろう。

 ヴォルドから振り下ろされる重みのある一撃を、彼女は受け流すように巧みに受け止める。

 そして細かな隙のないスピードのある連撃で、彼女は次第にヴォルドを追い詰めていく。

 剣を胸の前で構え防御に徹し、防戦一方になっていくヴォルド。


「はぁぁ!」


「ぐっ!」


 剣を交え合う事数分、ついに彼女の一振りがヴォルドの剣を捕らえ、弾き飛ばす。


『おお……』


 感嘆と驚きを交えた声を上げる周りの人々。

 ヴォルドが負けるなどという予想外の出来事に驚くほかなかった。


「ちっ、強ええな姉ちゃん。俺の完敗だ」


「いや、そなたも相当な腕前であった」


「へ、よく言うぜ。あんた一体何者だ?」


「言ったであろう、ただの旅の剣士だ」


 両手を上げヴォルドが苦笑いを浮かべる。 

 そんなヴォルドに彼女は頭を深く下げ、剣を鞘へとしまう。


「いやー、お強いですね。まさかヴォルドさんが負けるとは思いませんでしたよ」


 円の中からレンカのほうへと向けて、フレンが変わらぬ笑みを浮かべ出てくる。


「少し不快な思いをさせてしまったかもしれませんが、これから解放軍として協力してもらえますか?」


「ああ、もちろんそのつもりだ。よろしく頼む」


 フレンへと深々と頭を下げるレンカ。

 そんな彼女にフレンも深々と頭を下げる。


 こうして決戦を前に新たな心強い仲間が加わる事になった。

 この出来事に解放軍全員が喜び、士気がさらに高まった。

 だがこれが予期せぬトラブルを引き起こすなど誰も予想だにしていなかった……。



 ――――――



 その日の深夜、皆が寝静まったであろう時間帯。

 ナオヤの自室の扉がゆっくりと音を立て開く。

 寝息を立てベッドの上に布団をかけ寝ているナオヤ。

 よもや誰かが部屋に侵入して来るとは思いもしてない無防備な寝顔をさらしていた。

 そのナオヤの顔の上に人影が不意に人影が落ちる。

 ――シャキ。

 剣を抜くような音が鳴り響く。


「ん?……」


 それに気づきナオヤが目を覚ましゆっくりと目を開ける。


「――っ!!」


 その瞬間、ナオヤの顔の上へと上空から剣が振り落とされる。

 ナオヤは咄嗟に右へと寝転び、その剣先をぎりぎりのところで避けきる。

 ベッドの上へと突き刺さり、綿が飛び散る。

 日ごろ悪夢にうなされ、眠りが浅かったのが功を奏したといえるだろう。


「ちっ! はずしたか!」


 苛立つような声を出す女の声。


「この声はレンカさん?!」


 暗くて顔は見えなかったがその声を聞きナオヤはそう思う。

 そしてベッドから寝転んでおり、壁に立てかけてある魔剣を構え立ち尽くす。


「どうしてこんな事を?……」


「ぬかせ! 忘れたとは言わせんぞ!」


 何も見えぬ暗闇の中、レンカはナオヤへと剣を的確に振りおろす。

 魔剣のおかげもあってか、ナオヤはその一撃を剣を横にして受け止めきる。


「くっ!」


「まさか解放軍の中にいようとはな! ようやく見つけたぞ隻腕の悪魔め!」


 剣がぶつかり合うまま、レンカが明確な敵意を込めナオヤへと吐き捨てるようにそう言う。

 自体が飲み込めないナオヤは剣を横にしたまま困惑するほかなかった。


『なんだ?! なんだ?!』


 この騒ぎを聞きつけ解放軍の人々がナオヤの部屋へと集まってくる。

 部屋の明かりがともされ、二人の姿がはっきりと見えるようになる。


「おい、ナオヤ! これは何事だ?!」


「わかりません、僕にも……」


 慌てた様子でそう尋ねるヴォルドに、ナオヤは本当にわからなかったのでそう答える。

 剣がぶつかり合ったままだったレンカが後ろへと飛び跳ねる。

 体勢を整え、ナオヤの方へと彼女は右手で剣を突きつける。


「よく聞けお主ら! こいつが一ヶ月前村々で起きた、殺戮の犯人だ!」


「そしてわが師を殺したのもこいつだ!」


「拙者があの時村にいれば……」


 憎しみと後悔を噛み締めるようにしレンカがそう叫ぶ。

 今まで動揺を与えぬように明るみされなかった真実。

 その話を聞き、周りの解放軍が驚き、ざわつきが起きはじめる。

 それを聞き驚いていたのはナオヤも例外ではなかった。



「だが探し続けて今ようやく復讐することができる……」


「これ以上、災厄を招く前に拙者が余を斬り捨てる!!」


 剣を下げたまま驚き硬直するナオヤにレンカが右手に剣を縦に構え走り始める。


「ナオヤ!」


「兄貴っ!」


 ナオヤへと向け迫り来るレンカ。

 だがナオヤは剣を構えず抵抗の意を見せようとしなかった。

 心のどこか奥底でこのまま斬られてもいいと思っていたからだ。

 ただ、たたずむナオヤを見てエルナとヴィンが思わず声を上げ叫ぶ。


「――っ!」


 だがその剣先はナオヤへと届く事はなかった。


「そこをどけ!」


「どかないもんっ!」


「ミア……」


 ナオヤの前にはミアが両手を広げ仁王立ちしていた。

 ミアの顔の前で止まるレンカの剣先。

 それでもミアは頑固たる意思を見せナオヤの前からどこうとしなかった。


「くっ!……」


 さすがに斬るわけにはいかないのであろう。

 レンカの剣が震えながらミアの顔の前で止まり続ける。


「いいか、よく聞け! そやつはたくさんの村人を殺したんだぞ!」


「違うもん! パパはそんなことしないもん!」


「違うミア! 僕はっ!――」


 その言葉を聞いてもナオヤを信じどこうとしないミア。

 そんなミアを見てナオヤは耐えかねず真実を口にしようとする。

 ――だが突如レンカが前へと倒れこみ、ナオヤの言葉はさえぎられる形なった。


「いやーもてる男は大変ですね。ナオヤ君、ははっ」


 倒れこむレンカの後ろにはフレンが笑みを浮かべ立っていた。

 きっと魔法か何かでフレンが彼女を眠らせたんだろう。

 この場の機器を救ってくれたフレンに目をやり、ナオヤは心の中で感謝をする。

 もしナオヤがあのまま言葉を続けていれば事態はさらに収拾がつかなくなってたであろう。


「フレンさん……」


「わかっていますよ、ナオヤ君。私は彼女を咎めるようなことはしません」


 ナオヤの言いたいことを察し、フレンがそう口にする。


「それじゃ、みなさん。色々言いたい事はあるかもしれませんが今夜はもう寝ましょう。決戦の時が近いですしね」


 その言葉を皮切りにその場にいた解放軍の人々が、何か言いたそうな顔をしながらもそれぞれの部屋へと戻っていく。

 意識を失ったレンカも解放軍の人々の手によって運び出されていく。


「兄貴……俺は兄貴のこと信じてますから!」


「うん、ありがとねヴィン……」


 ヴィンがそう言い残し部屋の前から立ち去っていく。

 さすがに彼もなにやらショックを受けていたようであった。


「パパ大丈夫?……」


「うん、大丈夫だよミア。だからおやすみ」


 心配そうな声を上げナオヤの顔を見上げるミア。

 ミアの顔を見てだましている事に心が痛むナオヤ。

 それでも心配させないためにミアに作り笑いをして頭を優しく撫でてあげる。


「うん、わかったパパ……それじゃおやすみ!」


「うん、おやすみ」


 少し心配そうな表情をしながらもミアが自室へと戻っていく。

 それに続くようにエルナ、フレン、ヴォルドもひとまずそれぞれ自室へと戻ることにする。

 全員が出て行くのを確認してナオヤも再びベッドへと入る事にする。

 複雑な気持ちを抱え、眠れるはずもなく天井を見つめ続け、夜はすぐ明けていった――――。



 ――――――




 翌朝、ナオヤはうつむいてベッドの前に座る。

 色々な思いが入り混じり寝不足もあり思考がまとまらない。

 事実が知れ渡ってしまい皆に合わせる顔がない。

 そう言った気持ちを抱えベッドの前から一歩たりとも動けずにいた。


 ――コンコン。


「ナオヤ入るわよ?」


 自室の扉がノックされナオヤは顔をあげる。

 その声からするとエルナであろう。

 ナオヤの自室の扉がゆっくりと開きエルナが入ってくる。


「調子はどう? って大丈夫なわけないわよね……」


 暗い表情をするナオヤにエルナは苦笑いを浮かべる。

 そのエルナの問いにナオヤはただ黙り込む。


「今ホールではフレンや父上がこの事態の収拾に当たっているわ」


「そうなんだ……」


 この忙しい時にこのような事態を起こしてしまい、ナオヤは二人に大変申し訳ない気持ちになる。


「やっぱ、僕この城に残らなかった方が良かったのかな……」


「何言っているの、いまさらそんなこと言っても仕方がないでしょ」


 わかってはいるが気持ちが滅入り、ついついナオヤはうつむき弱気な発言をしてしまう。


「それにナオヤがいなかったら、ここまで解放軍の侵攻は上手くいかなかったわ」


「今はフレン達を信じましょ。ね?」


「うん……」


 ナオヤをフォローするように笑いかけそう言うエルナ。

 浮かない気持ちを抱えながらもナオヤはとりあえずその言葉に頷く。



 



 その頃、ホールではフレンがこの騒動の収拾に追われていた。


『ナオヤがあの時の殺戮の犯人って本当ですか?!』


『リーダーは何か知っているんですよね?!』


「お。落ち着いてください! みなさん!」


 椅子へと座るフレンに詰め寄り問いただす解放軍の人々。

 それを両手を上げ困った笑みを浮かべ、フレンはたしなめ何とか事態の収拾を図ろうとする。

 だが収集はつかず、騒ぎはだんだんと大きくなっていくばかりであった。

 解放軍の統率は乱れ、崩壊の危機にすら見舞われていた。


「――うるせえぞ! てめえら!!」


 それをフレンの隣で立って見ていたヴォルドが、いらついた様子で壁を強く殴りつける。

 ヴォルドの怒声と壁を叩きつけた音に、その場にいた解放軍の人々が黙り込み、急激に静けさを取り戻す。


「いいかてめえら! 魔物との戦いのときに先陣を切って突っ込んでいくのは誰だ?!」


『……』


「ナオヤが俺達に何か危害を加えたか?!」


「いまさら疑って何になる! こんな時にうだうだ言ってんじゃねぇぞ!!」


 吐き捨てるようにその場にいた全員にそう言い放つヴォルド。

 その気迫のこもったヴォルドの怒声にその場がシーンとなり、それぞれうつむいて考え出す。


「――そうだぜ! 俺は兄貴をどんな事があっても信じるぜ!」


 静けさの中、ヴィンがそう叫び沈黙を打ち破り先陣を切る。

 それに続くように『俺もナオヤを信じる!』『俺もだ!』『俺もだ!』と次々と賛同の声が上がっていく。


「どうやら元通りにまとまったみたいですね。すみませんヴォルドさん、これは私の役目であるはずなのに……」


「気にすんじゃねえよ」


 解放軍がまとまりを取り戻したのを見て、フレンとヴォルドが笑みを浮かべ、胸を撫で下ろすように息を吐く。

 大規模な戦いを前にさらに士気を高め、結束を高める解放軍。

 これから先、どのような事態が起きてももはや大丈夫そうであった。

 ただ一つの問題を残しては……。


「……」


 その様子を壁によしかかりただ黙ってレンカが、何やら思いつめゆっくりと立ち上がる。

 そのままどこかへと向けゆっくりと歩き出しはじめた――――。




 ――コンコン。

 再びノックされるナオヤの自室。

 その音に気づきベッドの上に座っていたナオヤと、その前に立っていたエルナが扉の方へと振り向く。


「入るぞ」


 扉の向こうから聞こえてくるレンカと思わしき声。

 ナオヤの自室の扉がゆっくりと音を立て開く。


「レンカさん……」


 また自分を殺しに来たのだろうか? そう思うナオヤ。

 だが彼女は特に殺気立った様子もなく、落ち着いた雰囲気でナオヤへと目をやる。


「ナオヤと言ったな?」


「はい」


「そうか、拙者はお主に決闘を申し込む!!」


「えっ?……」


 ナオヤへと突きつけるようにそう言い放つレンカ。

 殺すだけならこの場でも出来るはずだろうに。

 彼女のその言葉の真意がわからずにナオヤは困惑する。


「もちろん断るとは言わせぬぞ」


「……わかりました」


 だが彼女は真剣らしい、ナオヤはそう感じ取り頷いて、壁に立てかけてある魔剣へと手を伸ばす。

 こうして突如ナオヤ対レンカによる決闘が行われる事になった。



 ――――――



 晴れ晴れとした青空に、強く突き抜ける風。

 エルナと途中で居合わせたミーシャとヴィンが見守る中、ナオヤとレンカは向かい合い立ち尽くす。


「兄貴、気をつけてくだせぇ。レンカの姉御は相当な手慣れです!」


「うん、わかっているよヴィン」


 目の前にいるレンカから放たれる圧倒的な殺気と気迫。

 魔剣を手に持っていなければナオヤはそれだけで尻餅をついていただろう。

 一切の油断も手加減もできなさそうなことがうかがえた。


「ナオヤ、あまり無茶はしないでね」


「うん、わかっているよエルナ」


 エルナとミーシャが心配そうな目をナオヤへと向ける。


「それでは始めるとしようか」


 レンカが左腰の鞘へと右手を添えナオヤを見据える。

 それに合わせナオヤも魔剣を構え立ち尽くす。


「今は亡き我が師シグナスの一番弟子レンカ! いざ参らん!!」


 そう言いレンカが一気にナオヤとの間合いを一気に詰め寄る。

 そしてその刹那、彼女の剣が抜き放たれ神速の居合い斬りがナオヤへと向け襲い掛かる。


「ぐっ!――」


 手が痺れ後ろにのけぞりそうになるその一撃を、ナオヤは顔を歪ませながら剣を縦にして何とか受けきる。

 受けきったナオヤはすぐさま体勢を整え、剣を振り下ろし攻撃へと転ずる。

 レンカもナオヤから繰り出される魔物を両断するほどの一撃を難なく受け流す。

 人間相手に魔剣を振るう事にナオヤにためらいがあるとはいえ、彼女はナオヤとほぼ互角の攻防を見せる。

 類まれなる天賦の剣の才能と経験から来るものだろう、彼女は剣先が見え魔剣の動きに対応ができていた。

 常人に到達できないであろう領域の攻防をエルナ達は呆然としたまま見守っていた。


 ――しばらく続く両者一歩も譲らない互角のせめぎ合い。

 どちらも防御に徹することなく、攻撃に転じ、防御に転じる。

 このまま永遠に続きそうな勢いのある攻防。

 ――だが力で勝っていたナオヤの一撃が彼女の剣を跳ね除け、ついに上空へと弾き飛ばす。


「くっ!……」


「はぁはぁはぁ……僕の勝ちだ……」


 両手両膝をつきうつむいて倒れこむレンカ。

 そんな彼女を剣を右手に引き下げ、息を切らしながらナオヤは見下ろす。

 魔物との戦いでもほとんど息を切らさなくなっていたナオヤだが、この時ばかりは息をきらしていた。

 疲労が伺え、相当苦戦を強いられていたことがうかがえた。


 負けたのが許せなかったのだろうか、彼女はうつむいたままただ黙り込む。

 しばらくの間続く静寂――。

 そしてレンカがゆっくりとそのまま口を開く……。


「くっ! なぜだ……」


「お主の剣からは悪いものが邪悪な意志が伝わってこぬ……」


「……」


 レンカから発せられる予想外の言葉。

 その言葉に驚きつつもナオヤは黙って彼女へと目をやる。

 剣を交えて何か感じ取れるものがあったのであろう。

 素人ながらもナオヤも彼女の剣から自分に対する憎しみなども含め、色々な複雑な思いが感じ取られた。

 そんな二人を見かねて今まで見守ってたエルナが駆け寄ってくる。


「あなたの事話してもいいんじゃないかしら? ナオヤ」


「エルナ……」


 エルナのその言葉にナオヤはゆっくりと静かにうなずく。

 こうしてレンカとその場にいたミーシャとヴィンに、ナオヤ自ら自分についての話を始める事にした――。






 ――ナオヤのその話を聞き皆それぞれ思い思いの顔をする。

 いや実際にはヴィンが驚いているだけで、ミーシャは相変わらずの読み取りにくい無表情であり、レンカはうつむいてだまっていただけだった。


「へぇ~兄貴は別の世界から来たんすか~」


「うん、信じてもらえないかもしれないけどね……」


 今だ驚きを隠せぬヴィンがナオヤの顔をまじまじと見る。


「くっ! その話が本当なら拙者のこの怒りはどうすればよい……」


 やり場のない怒りを抱えレンカがうつむいたまま地面を強く殴る。

 その答えは誰も持ち合わせておらず皆黙り込む他なかった。

 いくら魔剣に操られていたとしてもそのせいにするわけにはいかない、いやしていいはずがなかった。

 そう思いナオヤは考えをめぐらせある答えと行き着き、うつむくレンカの方へと目をやる。


「――もし……本当に許せないなら、僕を殺してもいいよレンカさん……」


「ちょっとナオヤ?!」


「本気ですか兄貴?!」


 そのナオヤの言葉にエルナとヴィンが驚きの声を上げる。

 驚かないはずがなかった。

 だがナオヤは軽い気持ちで言ったわけでもなく、同情やその場しのぎで言ったわけでもなかった。

 ただ純粋に申し訳ないと思っての発言であった。


「けどこの戦いが終わってからじゃ駄目かな?……。僕はまだみんなのためにもここで死ぬわけにはいかないんだ」


「……」


 その言葉を聞きレンカがゆっくりと顔を上げナオヤを見る。

 そして何やら思いを断ち切ったような少し晴れた表情をし、剣を拾いゆっくりと立ち上がる。


「……その言葉に嘘はないな?」


「うん、ないよ……」


 立ち尽くし真剣な眼差しをナオヤへと向けるレンカ。

 ナオヤも彼女の方を見据え、真剣な眼差しで見る。


「……よかろう、その日が来るまで拙者も解放軍として共に戦おうではないか。だが戦いが終わったら必ずその首をもらうぞ」


「レンカさん……うん、ありがとう、これからよろしくね」


「ふっ――」


 もはや現時点では復讐する気はないのであろう。

 挨拶を返さずに刀を鞘に収め、レンカは少し笑いナオヤへと背を向け城へと歩き出していった。

 とりあえず、事態が収集を迎えた事にエルナやヴィンは胸を撫で下ろしホッとする。

 こうして、ひとまずの騒動は治まり、新たな仲間を加え決戦の日は近づいていく――――。

 

読んでくださった方々に感謝です!。

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