プロローグ 魔剣との出会い
試行錯誤中。
花瓶に添えられた花があり、質素な病院用ベッドが一つあるだけの病室。
そのベッドの上に紫色の毛布を掛け白いパジャマに身を包み、上半身だけを起こし、茜色に染まる外を窓から眺めている茶色い髪をした一人の少年がいた。
腕は細く体はやせており、皮膚の色は色白ろく、病院生活が長い事が伺えた。
この病弱な少年の名前は秋月尚矢という名前であり今年十七を迎える予定である。
予定であると言うのは少年の心臓は生まれつき弱く、生まれてからこの病院を一度も出た事がなく今まで生きていた事が奇跡であり、いつ死んでもおかしくないほど体は病に侵され危険な状態が続いていた。
「はぁ……今日も退屈な一日だったなぁ……」
夕暮れ時、ナオヤは窓の外の方へと顔を向け遠くを儚げに眺める。
普通の同年代なら学校に行くものの、ナオヤは一日のほとんどをベッドの上で過ごし生活していた。
その上いつ死ぬかもわからない恐怖に常に襲われているため、生きる意味もなく絶望的な毎日が続いていたのである。
「僕はあと何日生きれるんだろう……」
ぼやいても仕方がないが、誰もいない静かな病室でナオヤは下を向きうつむいてそうつぶやく。
もはや生きる事は諦めかけているものの、心の底ではまだ少し生きたいという願望があり一度でいいから外を出歩いてみたかった。
「小僧、生きたいか?」
「え?……」
うつむいて落ち込むナオヤの耳元に突如不気味な声が聞こえる。
ナオヤが頭を上げ声の主を探すと、病室の扉の前に目のついた不気味な剣が中に浮いており、ナオヤをじっと見ていた。
状況が飲み込めず、口を少しあけ剣をただじっと見ながらナオヤは固まる。
「生きたいかと聞いているんだ、小僧」
剣を見て驚き固まるナオヤへと剣が再び声を発する。
ナオヤはその声を聞き現実へと戻され、前に浮く剣が現実である事を思い知らされる。
「そりゃ、まだまだ生きたいけどさ……」
威圧的にこちらを睨む、剣の重圧に耐えかねナオヤは、少しうつむいてポツリとそうつぶやく。
なぜそんな事を聞くのか、剣がなぜ体のことを知っていそうなかはわからなかったが、ナオヤにはその事をとても聞く勇気はなかった。
「ならば、俺に触れろ、お前の寿命を延ばしてやる。お前は運良く俺の使い手に選ばれたんだ」
「使い手?」
剣が自分に一体何をさせたいのかわからず、ナオヤは剣を見てただ困惑の表情をする。
そもそもナオヤの体は病弱であり、動く事すらまともに出来る状態ではなかった。
だが剣はナオヤの意思など関係ないように無視しナオヤへと向けて話を再び続ける。
「だが人を一人切るたびにだけどな。まぁ安い代償だろう」
「人を殺すだって?! そんなのこの世界でしても捕まるだけじゃないか、それに僕は動けないし、そんなことをしてまで生きようとは思わないよ!」
人間の命などどうでもよさそうに楽しげな口調で話す黒い剣。
その剣に初めて怒りをあらわにし、剣を睨みながら、明確な拒絶な意思を見せ怒鳴って叫び声を上げるナオヤ。
剣が何を考えているかはわからなかったが危険な感じを察し、ナオヤは従ってはならないと感じていた。
「ち、つまらんやつだな」
剣が態度を一変しナオヤを見て不満そうにつぶやく。
「だが、まぁいい元からお前の意志など俺には関係ない。ついてきてもらおう!」
剣がカッと目を見開きナオヤを深く凝視する。
その瞬間、黒い煙が剣から湧き上がり不気味な光を発し辺りが眩しくなる。
「そんな、体が勝手に……うわぁぁぁぁぁ!!」
剣に操られるようにナオヤが左足をつきベッドから立ち上がる。
何が起きているかわからなかったかが、ナオヤはこのままではまずいと思い、慌てて左手でベッドを掴もうとする。
だがナオヤの手は腰の横からピクリとも動かず、足が勝手に動き剣の方へと一歩ずつ進んでいく。
「ふふ、力がわいてくるだろう?」
何とか抵抗しようとするが体がいう事をきかず、ナオヤがとうとう黒い剣へと触れてしまう。
その瞬間、剣から放たれる光がさらに大きくなり、剣とナオヤの姿は何も存在しなかったかのように一瞬で消え去った。
残された病室にはまだぬくもりのある、めくられた毛布と静寂だけが残されていた。