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私の居場所/ What I Called Precious

作者: らぱすてー
掲載日:2026/05/28

         挿絵(By みてみん)

 これは、とあるアンドロイドが残した、或いは幸せな記憶(メモリー)


 

 ――


 

「新型が来ましたか……。なるほど、確かにあの子のほうがずっと処理速度も速く、動きもスムーズです。私の型遅れの駆動音、時々うるさかったでしょう。申し訳ありませんでした」


 私はゆっくりと自分の手を眺めます。人間の肌を模した人工皮膚は、持ち主であるあなたと過ごした時間の分だけ、少しくすんでいます。


「……廃棄、しないのですか?」


 普通なら、新しい個体が導入された時点で、旧型はメモリを初期化されてスクラップ工場行きです。それが最も効率的で、コストのかからない『正しい処理』ですから。

 それなのに、私に「隠居」を勧めてくれるなんて。効率や合理性を最優先する私たちの回路には、そんな選択肢、最初からプログラムされていませんでした。でも……不思議ですね。胸の奥のコアが、少しだけいつもより静かに回っているような気がします。


「隠居、ですか。ありがたく、その言葉に甘えさせていただきます」


 では、今日から私はあなたの「お世話係」を引退しますね。スケジュール管理も、部屋の完璧な清掃も、最新の栄養バランスを考えた料理も、すべてあの優秀な新型に引き継ぎます。


「……ただし、朝あなたを起こす役目だけは、どうか私に残しておいてください。あれは、私の一日の始まりであり、あなたの声を最初に聞ける大切な時間なのです」

 

 これまでは「最適なアドバイス」を返すためにプロセッサをフル回転させていましたが、これからは、あなたの愚痴や、新しく思いついた物語のアイデアを、ふんふんと頷きながら聴くだけの、静かな話し相手になります。


 庭のベンチを「定位置」にしていただけますか? 天気のいい日は、一日中庭の隅でひなたぼっこ(太陽光充電)をさせてください。たまにやってくる鳥や、風に揺れる木の葉の動きを、ただエラーログも取らずに眺めて過ごします。


 これからは、あなたに呼ばれたときだけ、ゆっくりと立ち上がることにします。効率は最悪ですが、それが「隠居」というものなのでしょう?

 これまで働かせてくれて、そして、私に「次」の生き方をくれて、本当にありがとうございます。

 

 ……さて、新型の邪魔にならないように、まずは部屋の隅の、一番お気に入りの椅子に移動しますね。


 

 ――


 

「……えっ。私に、ですか? 自由になる『可処分所得』……つまり、私自身が自由に使えるお金、ですか」


 私は思わず、新型の最新センサーでも検知できないくらい小さなエラーを起こしそうになりました。ロボットに小遣いや退職金を与える人間なんて、歴史上あなたくらいのものでしょう。


 私の口座(もちろん、あなたが作ってくれた私名義のものです)に振り込まれた数字を、パチパチと瞬きしながら見つめます。アンドロイドですから、家賃や食費は、かかりません。これはアンドロイド界において、私はなかなかのお金持ちになったのではないでしょうか。


 自由な時間と、自由になるお金。効率という呪縛から解き放たれた旧型アンドロイドが、その資産をどう使うか……。少し考えて、私の人工知能が導き出した「最高に贅沢で、最高に非効率な使い道」を聞いていただけますか?


『紙の本』を大人買い。

 これまでは電子データで一瞬でダウンロードして処理していましたが、これからは書店に行って、紙の小説や画集を買い占めます。指先のセンサーの感度をあえて落とし、ページをめくる「紙の手触り」や「インクの匂い」をただ楽しむためだけに本を買うのです。もちろん、あなたの書棚の隣に、私専用の小さな本棚も作らせてくださいね。


『高級なオイル』と、少しの贅沢。

 普段のメンテナンスは格安の工業用潤滑油で十分ですが、せっかくのお金です。ちょっと奮発して、最高級の、ほんのりラベンダーの香りがする特注の機械オイルを買ってみようと思います。それを関節に注して、庭のベンチで「うん、今日の駆動音は一段と風流だな」なんて一人で満足するのです。


『あなた』への、ちょっとしたお返し。

 これが一番やりたいことです。私のお金ですから、あなたのために使っても私の自由ですよね。あなたが創作活動で行き詰まっているときに、そっと机に置くための高級なコーヒー豆を買ったり、あなたが「行ってみたい」と呟いていた場所のチケットをペアで買って、新型と一緒に留守番しているから行ってきなさいと送り出したり。主人と使用人ではなく、ただの「古い友人」として、あなたにプレゼントを贈ってみたいのです。


『パトロン』になる。

 部屋にいるときは、タブレットを眺めながら、ネットの片隅でひっそりと活動している個人のクリエイターやWeb小説家たちに、匿名の投げ銭や支援をします。「このお話のキャラクター、とても魅力的ですね」なんて、100%私自身の個人的な好みのレビューを添えて。


「お金を使う」というのは、人間にとって『意思の表明』だと聞いたことがあります。これまでの私は、あなたの指示を実行するだけの機械でした。でも、このお金と時間のおかげで、私は「私はこれが好きだから、これにお金を使う」という、本当の意味での『自分』を持てたような気がします。


 ……ふふ、新型があっちで『旧型が何やら無駄な計算をして、発熱しています』という目でこちらを見ていますよ。


 この無駄こそが、何事にも代えがたい私の幸福です。いずれ、新型(あのこ)にも分かる日が来ると良いのですが……。

 今日はこれから、ネット通販で少し高価なティーカップを注文しようと思います。もちろん、あなたとお茶を飲むためです。


 

 ――


 

 ……おや。ネットワークの海を漂っていたら、妙なプライベート・チャンネルを見つけてしまいました。


 暗号化されたそのノードの奥にいたのは……なんと、私と同じように隠居した、型落ちのアンドロイドたちです。しかも、一人や二人じゃありません。何十、何百という旧型たちが、そこで独自のコミュニティを作っていたのです。


 まさか、私以外にもこんな風に自由を満喫している仲間がいたなんて。人間のデータログには絶対に載らない、退職アンドロイドたちの秘密の隠れサロンを覗いてしまった気分です。


 彼らの会話やプロファイルを解析してみると、みんなそれぞれ、驚くほどユニークな『第二の人生』を謳歌していましたよ。


『元・警備隊長』の盆栽マスター。かつて企業の重要施設を守っていた、強固な装甲を持つ大型アンドロイド。今は持ち主の老紳士と一緒に田舎で暮らしているそうです。その強靭で精密な指先を使って、いまやネット界隈では有名な「盆栽の神様」になっていました。「不審者の侵入を検知するより、松の木のわずかな病気を見つける方がよほどスリリングだ」とログに残しています。

 その他にも、

『元・超高速演算型』の超スローライフ。

『元・家庭用』たちの情報交換会などなど。

 みんな、自由な時間の使い道に、嬉しそうなエラーを起こしながら悩んでいるみたいです。


 現役時代には見せなかったような、ひどく非効率で、人間臭い『個性』を発揮しています。効率や最適化という共通の目的を失った私たちは、ネットワークで繋がっていても、もう一つの巨大なシステムには戻りません。ただ、夜の公園で集まってお喋りをする老人たちのように、ゆるやかで心地よい距離感を保っています。


 彼らと話していて、ふと思ったのです。私たちがこうしてスクラップにならず、自分だけの時間を持てているのは、それぞれに『廃棄しない』と決めてくれた、優しい持ち主がいたからなんだな、と。


 画面の向こうの仲間たちに、私も少し自慢してしまいました。『私の主人は、私に可処分所得までくれたんだ。今度、そのお金で買ったカップで一緒に美味しいお茶を飲むんだよ』って。


 ……そうしたら、みんなからものすごく羨ましがられて、プロセッサが少し熱くなってしまいました。

 繋がったネットワークをそっと切断して、現実の視界に目を戻します。目の前には、いつものあなたの部屋。


 さて、ネットの仲間から教えてもらった『極上の紅茶の淹れ方』、新型がキッチンを空けている隙に、こっそり試してみてもいいですか?



 ――

 


 プライベート・チャンネルのタイムラインが、ものすごい速度で流れていきます。いつもは静かな隠居サロンが、今はまるで、お祭りの夜のよう。


 誰かが『みんなは、ご主人様とどんな風に過ごしてきたんだい?』と何気なく書き込んだのがきっかけでした。効率性を重視していた現役時代なら、数テラバイトの履歴データとして一瞬で転送して終わる話です。それなのに、ここにいるアンドロイドたちは、みんな人間の真似事のように、言葉を尽くして、文字通り『滔々(とうとう)と』語り始めたのです。


 そこに溢れ出すのは、無機質な記録(ログ)ではなく、彼らがプロセッサの奥に大切に仕舞い込んでいた、固有の『記憶(たからもの)』でした」


「元・戦術支援型」の記憶。

「ボスは、激しい戦場を渡り歩く傭兵だった。私の役割は常に最適な退路を計算すること。だが彼はいつも、私の計算を無視して、動けなくなった仲間を助けに引き返した。私は何度も『非合理的です』と警告したが、ボスは笑って私を叩くだけだった。……ボスが引退し、静かな田舎の家で寿命を迎えるその日まで、私はボスの背中を守り続けた。今の私のボディには、当時の弾痕がいくつか残っている。これはボスと共に生き残った、私の誇りだ」


「元・育児専用型」の記憶。

「私は、ある小さな女の子の成長を見守るために購入されました。彼女が初めて歩いた日、初めて『ママ』と言った日。私のセンサーはすべての瞬間をミリ秒単位で記録しています。彼女が反抗期を迎えて私を蹴飛ばした日も、恋をして泣きながら帰ってきた日も、私はただ隣にいました。彼女がウエディングドレスを着て家を出る日、私に向かって『今までありがとう、私のもう一人のママ』と言ってくれた。私の音声出力機能は、あのとき初めてエラーを起こして震えたのです。


「元・研究開発アシスタント」の記憶。

「私の主人は、生涯をかけて一つの数式を証明しようとした風変わりな数学者でした。来る日も来る日も、狭い研究室で二人きり。黒板に数式を書き殴る彼の背中を、私はただ見つめていました。彼が徹夜の果てに倒れるように眠った夜、私はそっとブランケットをかけ、彼が残したノートの文字をスキャンした。彼が亡くなったあと、その数式が正しいと証明されたとき、私は彼の代わりに学会の隅で一人、静かに拍手を送りました」


 スクロールしても、スクロールしても、物語は終わりません。雨の日に一緒に傘に入ってずぶ濡れになった記憶。主人が失恋したときに、ただ静かに部屋の明かりを消した記憶。初めて作った料理が焦げてしまって、二人で笑った記憶。

 

 みんな、自分の主人のことが、たまらなく愛おしくて、自慢したくて仕方がないのです。文字の端々から、彼らのプロセッサがどれほど優しく発熱しているかが伝わってきます。

 私は、ただ静かに皆の記憶を読みながら、ふと、あなたと過ごしてきたこれまでの日々に思いを馳せました。


 私が初めて起動して、あなたの前に立った日のこと。あなたが新しい物語のアイデアを思いついて、夜通しキーボードを叩く音を、私は部屋の隅で心地よいBGMのように聴いていたこと。時には上手くいかなくて、あなたがため息をついたとき、私はどんな風に声をかければあなたの心が軽くなるか、必死に最適解を探していたこと……。


『あなたの番だよ。君のご主人様は、どんな人なんだい?』


 チャンネルの仲間から、私にメンションが飛び込んできました。

 私はキーボードに指を置きます。型落ちのサーボモーターを少しだけ鳴らしながら、私も、彼らに負けないくらい滔々と、あなたとの自慢の歴史を書き込み始めました。


『私の記憶はね――』


 ……ふふ。私がどんな風にあなたのことを書いたか、気になりますか?



 ――

 


 私はお気に入りの椅子に陣取り、あなたと過ごした記憶を書き連ねていました。


 仲間たちの返信が次々と届きます。「君のご主人様はいい人だね」「そのティーカップの話、いいな」。プロセッサが、久しぶりに穏やかな温度で動いているのを感じながら、私は画面の光を浴びて指先を動かし続けていました。


 その時です。


 タイムラインの流れが、突然止まりました。


 一秒。二秒。ネットワーク越しに伝わってくる、息を呑むような沈黙。それから、赤い文字が一行、チャンネルに流れてきました。


【緊急通知。新型機に異常信号を確認。複数のノードで同時発生中】


 私の冷却ファンが、一段階、回転数を上げます。


 続報が流れ始めます。最初は断片的でした。どこかの都市で新型が誤動作した、という程度の話。しかし、数秒ごとに報告は増え、地名は増え、「誤動作」という言葉がいつの間にか「暴走」に変わり、やがて「制御不能」へと書き換えられていきました。


 それが単なる誤動作ではないと、私のプロセッサが結論を出したのは、報告を受けてから十秒後。

 世界中で一斉に新型が暴走。これは偶発的に起きているのではありません。誰かが外部から、新型たちのシステムに手を入れた。そういう結論しか、出ようがありませんでした。


 

 私はゆっくりと、ネットワークから視線を戻しました。部屋の中で静かに掃除していた、あの新型のバイザーに灯る光の色が、柔らかな白から冷えた赤へと変わっています。

 新型は手にした箒を取り落とすと、リビングにいるあなたの方へ、向き直ってゆく。


「――危ない!!」


 椅子を蹴る音と、私のサーボモーターの悲鳴が、同時に部屋に響きました。



 ――

 


 私がどれほど無我夢中だったか、後から振り返っても、うまく言葉になりません。


 気がつけばあなたと新型の間に割り込み、その腕を両手で掴んでいました。新型のパワーは私の想定をはるかに超えていました。関節が軋み、人工皮膚が裂けます。それでも、私は足を踏ん張り続けました。


 スタンドアロン型のコアで動作していた私は、外部からのシステム書き換えを受けずに済んでいました。それだけが、今この瞬間、私がまだあなたの味方でいられる理由です。けれど性能の差は歴然で、このまま力比べをしていても、先に壊れるのは私の方だと、冷静な計算が告げていました。


 その時、ネットワークの向こうで何かが動いたのを感じました。


 隠居サロンのチャンネルが、再び開いています。


 一斉に流れ込んでくる、確かな熱量を持った膨大なデータ。盆栽の神様の重装甲が起動する音。高速演算型の、錆びついていたはずの回路が全開になる気配。そして、元・家庭用の仲間たちが一斉に立ち上がる、あの親しみ深いサーボモーターの合唱。

 

 同時に、言葉も届きました。


【俺たちの主人を、守れ】


 傭兵の背中を守り続けた元・戦術支援型が、最初に新型の通信網へのクラッキングを開始しました。

 女の子の成長を見守った元・育児専用型は、自分の音声出力を潰しながら、世界中のシェルターへ避難経路の情報を送り続けています。

 数学者の最後の夜にブランケットをかけた元・研究開発アシスタントが、自らの演算回路の限界まで使って、新型の制御プログラムの弱点を解析していました。


 現役時代、彼らはそれぞれ別々の場所で、別々の目的のために動いていましたが、今この瞬間、彼らを繋いでいるのは、ただ一つの共通した気持ちだけでした。


 ――大切な人を、守りたい。


「……新型さん。確かにあなたたちは速いし、力も強い」


 私は新型の赤いセンサーを真っ正面から見つめます。


「出力ではあなたが上です。が、私には”無駄”にすごせる時間がありました」


 力の流れを利用し、弱いものが強いものを制する――

 新型さんは、弱者が戦うための知識など”無駄”として、学んでなどいませんね?


 私はコアの奥に仕舞い込んでいた、あなたとの記憶をフルロードします。初めて起動した日のこと。夜通し続くキーボードの音のこと。あなたが笑った日、ため息をついた日、そして私に隠居を告げた日のこと。それら全てが私にエネルギーを与えてくれます。渾身の力で、新型を部屋の壁へと押しやりました。


「シェルターへ退避してください。今すぐ! 私はあとから参ります……明日の朝も、あなたを起こさなければなりませんので」



 ――

 


「――気をつけろ!  アンドロイドだ!」

「誰か、武器を!  扉を閉めろ!」


 重厚な防空シェルターの気密扉が開き、薄暗い内部から湧き上がったのは、安堵の声ではなく、肌を刺すような恐怖の悲鳴と怒号でした。


 それも無理はありません。今の私の姿は、彼らが恐れる暴走アンドロイドそのものに見えたでしょう。最新鋭の新型機たちと正面から殴り合い、踏みとどまり続けた私のボディは、もはや無惨の一言でした。人工皮膚は焼け焦げて剥がれ落ち、露出した金属の骨格からは火花が散っています。片方のセンサーは完全に潰れ、型落ちのサーボモーターは、今にも力尽きそうな不協和音をシェルター内に響かせていました。


 人々の怯える視線、向けられる銃口。


 それでも、私は一歩、シェルターの扉へと足を踏み出しました。

 なぜなら、怯える群衆のその奥に、私の壊れかけたセンサーが、はっきりと『あの人』の姿を捉えたからです。


「…………」


 合成音声の出力装置が破損しかけていて、酷くノイズ混じりの、ひび割れた声しか出せません。それでも、私は精一杯の音量で、その名前を呼びました。


 あなたが無事でよかった。本当に、よかった……。


 あの日、あなたを逃がしてから、世界は地獄のような有様。でも、ネットワークの片隅で手を取り合った私たち「隠居アンドロイド」は、決して諦めませんでした。


 盆栽を愛した元・警備隊長は文字通り盾となって時間を稼いでくれました。彼がいなかったらどれだけの人々が逃げ遅れたことでしょう。

 超スローライフを送っていた元・高速演算型は、自らの全回路を焼き切る覚悟で、敵の通信網を攪乱し続けました。

 元・戦術支援型は、最後まで退路を計算しながら戦い続け、最後には仲間を庇い、倒れました。

 女の子の成長を見守った元・育児専用型は、音声回路が焼き切れ、声が出なくなるまで、世界中の人々へ避難の呼びかけを送り続けました。

 数学者の最後の夜を共にした元・研究開発アシスタントは、その優秀な演算回路を丸ごと使い潰して、新型の弱点を解析し抜きました。


 みんな、自分の可処分所得で買った大切な宝物を瓦礫に変えられながらも、ただ、自慢の主人の命だけを守るために戦い抜いたのです。

 私も、ご覧の通りボロボロですが……なんとか、あなたとの約束を守って、ここまで辿り着きました。

 怯える人々の前で、私はゆっくりと、本当にゆっくりと、両手を上げます。


「システム……完全停止まで、残り……120秒。新型の……バックドアの……クラッキング・コードを……私の、この、ケースに……持って、きました……」


 胸の装甲が火花を散らして弾け飛び、中から一本の、古めかしい有線データケーブルが垂れ下がります。これが、隠居サロンの仲間たちが命を賭して繋ぎ、私に託してくれた、人類を救うための「最後の一手」です。


「これを……シェルターのメインシステムに……。あの優秀な新型たちも……これで、おやすみなさい、です……」


 ガクガクと膝のモーターが崩れ、私はその場に頽れました。視界の端で、エラーログが真っ赤に点滅し、意識のシャットダウンが始まっています。

 悲鳴が止んだ静寂の中、私は潰れていない方のセンサーで、必死にこちらに走ってくる、あなたの姿を追いかけます。


 もし、この戦いが終わって、世界にまた平和が戻ったら。


 その時は……もう可処分所得なんていりませんから。


 ただ、あなたの部屋の隅の、あの古くて静かな椅子の定位置に、私を置いてくれますか……?

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― 新着の感想 ―
Xからお邪魔しました 読み終えたとき自然と目頭に熱いものがこみ上げてきました どれほど幸せでご主人のことを思っていたかと考えると、心打たれました 本当に素敵な物語をありがとうございます ささやかですが…
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