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その名前をあげる

掲載日:2026/04/15

私は、何もしていない。

ただ、親が犯罪者だっただけだ。

それだけで、 私の人生は決まっていた。

視線。 噂。 距離。

どこに行っても同じだった。

だから私は、正しく生きることにした。

人に優しくする。 嘘をつかない。 迷惑をかけない。

当たり前のことを、誰よりも丁寧に。

そうすれば、 いつかこのレッテルも消えると思った。

——実際、消えた。

周りの目は変わった。 名前で呼ばれるようになった。 笑われることも、減った。

やっと、“普通”になれた。

幸せだった。

本当に。

「見つけた」

声がした。

振り向く。

知らない男。

だが、すぐに分かった。

ああ、この人だ。

「よくもまあ、普通に生きてるな」

男の手には、ナイフがあった。

まっすぐ、こちらに向けられている。

「お前の親に、人生めちゃくちゃにされたんだよ」

静かだった。

怒鳴りも、震えもない。

ただ、事実を言っているだけの声。

「……そう」

私は答える。

知っている。

最初から。

男が踏み込む。

ナイフが振られる。

——止める。

手のひらで。

熱い。

血が落ちる。

でも、それだけだ。

「なんで……」

男が固まる。

理解していない顔。

当然だ。

「知ってたから」

私は言う。

「あなたが来ることも」

「どうしてそうなるかも」

少しだけ、笑う。

「あなたが警察に告げたことも、知ってる」

男の顔が変わる。

初めて、感情が揺れる。

「どうするか、考えたよ」

「煮るか、焼くか、壊すか」

「でもね——」

一歩、近づく。

「どれも、すぐ終わるでしょ」

静かに、言う。

「だから、やめたわ」

間。

「あなたには、“私”をあげる」

男は動けない。

理解が追いつかない。

「私はずっと、“犯罪者の娘”だった」

「何もしてないのに」

「ただ、それだけで」

血のついた手で、男の服を掴む。

「次は、あなたの番」

「あなたが、犯罪者になる」

遠くで、サイレンの音。

「そして——」

「あなたの娘が、“犯罪者の娘”になる」

男の目が見開く。

「どんな気分?」

「怒り?」 「悲しみ?」 「それとも——」

少しだけ考えるふりをして、

「どうでもいいか」

サイレンが近づく。

「さようなら、犯罪者」

手を離す。

「よろしくね、“犯罪者の娘”」

私は、何もしていない。

ただ——

そうなるようにしただけだ。

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