【こいつはムカつくわ】
三ツ森は六人の男たちに囲まれながら歩いていた。ピンクの革ジャンを着た男が先頭を歩く。三ツ森はその後ろを付いて歩いた。三ツ森の右にあご髭の男、左に呼び込みの男、その後ろにホスト風の男たちが三人付いて歩く。どこへ連れて行こうというのか。三ツ森は興味がなかった。こういう時に限って、破壊衝動も破滅衝動も湧き上がっては来ない。いつもの殺伐とした気分とは違う心持ちでいた。どーでもいいという気持ちで三ツ森は歩いていた。恐怖もない。別に度胸が据わっているというワケでもなかった。ただ現実味が沸かなかった。いつもの事だ。何一つリアルに感じられない。それは三ツ森の、自分ではどうにもならない症状のうちの一つだった。三ツ森は何も考える事なく、ただ流されるがままに男たちに従っていた。人通りの少ない道を歩く。シャッターの開いたガレージのような建物の前で革ジャンの男は足を止めた。
「こっちだ」革ジャンの男が顔だけを三ツ森の方へ向け、シャッターの中へと入っていく。三ツ森も続いて中に入る。建物の中は思ったよりも広かった。ガレージというよりは倉庫に近い。中は四十畳ほどの広さがあった。右奥に黒塗りのベンツが停まっている。あの時のベンツだ。左奥にはトレーニングマシーンが置いてあった。トレーニングマシーンの前に見覚えのある男が二人立っている。ホスト風の長髪の男と、角刈りの男だった。山田に暴行を働いた、四人のうちの二人の男だ。そしてトレーニングマシーンには、四十代くらいだろうか、短髪の、レスラーのようなガタイをした男が座っている。三ツ森たちの姿を認めると、レスラーのような男が立ち上がった。男は、身長が一八五cmはありそうな巨漢だった。その三人の男たちが近付いてくる。
「連れてきました」ピンクの革ジャンの男が、レスラーのような男に向かって報告する。
「おう」レスラーのような男が三ツ森の正面に立った。威圧するように三ツ森を見下ろす。その両横に長髪の男と角刈りの男。
「じゃあ、俺たちはこれで」呼び込みの男が三ツ森以外の全員に頭を下げた。
「おう、ご苦労だったな」長髪の男がそう言った。
「失礼します」ホスト風の男たち三人もそれぞれ頭を下げると、呼び込みの男と共に去っていった。人数は五人に減った。でも厄介そうなのが一人。そう思いながら三ツ森はレスラーのような男の顔を見上げる。
「さて、と。お前、覚悟はできてんだろうな」レスラーのような男が口を開いた。鍛え抜かれたような体をしている。異様にゴツかった。
三ツ森は何の覚悟もできていなかった。でもこれから起こる事は大体想像できる。こいつらはきっと、俺を袋叩きにでもするつもりだろう。恐怖はなかった。現実味が沸かない。三ツ森はただ黙ってその場に突っ立っていた。
「あれ、怖くて口きけなくなっちゃった?」長髪の男が三ツ森を茶化す。三ツ森は無言のままだ。
「何とか言えよこの野郎」角刈りの男が三ツ森に近付き、三ツ森の襟首を掴み上げる。三ツ森は抵抗もしなかった。
「まあまあ。そういきり立つな」そう言ってピンクの革ジャンの男が角刈りの男を制止する。「あんまりビビらしちゃ可哀そうだろ」そう言って三ツ森の襟首を掴んでいる角刈りの男の腕に手を置いた。三ツ森の襟首から手を放す角刈りの男。三ツ森は服を引っ張って襟の乱れを直した。
「お前、後悔してももう遅ぇが、俺たちだって鬼じゃねぇ」そう言いながらピンクの革ジャンの男が三ツ森の正面に立つ。
「一〇〇万だ。一〇〇万円で勘弁してやる。一週間以内に持ってこい」三ツ森の顔に自分の顔を近づけながら、革ジャンの男がそう言った。三ツ森は無反応で突っ立っている。
「分かったのか?お前」三ツ森の後ろからあご髭の男が口を添える。三ツ森は何も答えなかった。
「何とか言えよこの野郎」角刈りの男が声を荒げる。三ツ森は角刈りの男に目を向けると、「無理っすね。そんな金、あるワケがない」と、ようやく口を開いた。
「なけりゃ作るんだよ。親のところでも友達のところでも行って借りてこい!」あご髭の男が三ツ森の肩を後ろから引っ張る。三ツ森は引っ張られるままに振り返り、あご髭の男と向かい合った。
「無理っすね。親も友達もいないもんで」三ツ森は嘘をつく。
「だったら消費者金融にでも行くんだよ!」
「嫌っすね」
レスラーのような男が後ろから三ツ森の首に右腕を回し、そのまま三ツ森を引っ張り上げた。宙に浮く三ツ森の体。
「死んだぞ、お前」
三ツ森は苦しそうにレスラーのような男の太い腕を引き剝がそうとする。あご髭の男が三ツ森を殴ろうと、正面から腕を振りかぶる。とっさにあご髭の男の股間を蹴り上げる三ツ森。「うごっ…」あご髭の男が股間を押さえてうずくまる。
「てめぇこの野郎!」レスラーのような男が三ツ森を宙高く放り投げた。高っ。そう思った次の瞬間、三ツ森の体は地面に叩き付けられていた。地面を転がり、すぐに起き上がる三ツ森。男たちとの間合いを測る。
「なるほど。こいつはムカつくわ」レスラーのような男が顔を歪ませる。「お前ら、こいつ、絶対逃がすなよ」三ツ森は周囲に視線を走らせた。角刈りの男と長髪の男、ピンクの革ジャンの男が出口を塞ぐようにして立ち位置を変える。あご髭の男が股間を押さえながら、物凄い形相で三ツ森を睨み付けていた。三ツ森はそれを無視し、レスラーのような男の正面に体を向けると、レスラーのような男だけを見据えていた。




