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【俺は殺されても構わねぇから】

 高校生の山田と三ツ森はスクールバスに揺られていた。窓際の席に三ツ森が座り、通路側の席に山田が座っている。特に会話もなく、黙ってバスに揺られていた。帰りのスクールバスだった。後ろの席は騒がしかった。ヤンキーたちが大きな声でお喋りをしている。

「すげぇ刈りあがってるよぉ」ヤンキーたちのそんな声が聞こえてくる。そして座席から身を乗り出し、後ろから山田の頭を見つめていた。どうやら山田の髪の事を言っているらしかった。山田は床屋に行ったばかりで、後頭部から側頭部にかけて、頭を刈りあげていた。やがて一人のヤンキーが、山田の後頭部を指で触り始めた。下から上へ指を動かし、山田の髪をジョリジョリ言わせながら、クスクスと笑い始めた。「すげぇ。ジョリジョリ言ってるよ」そんな事を囁き合いながら、山田の髪をいつまでもいじっていた。山田は無言で耐えていた。何も言わず、されるがままになっていた。やがてスクールバスが駅に着いた。生徒たちがバスを降りていく。山田が座ったままなかなか降りようとしないので、三ツ森も黙って座っていた。後ろのヤンキーたちも降りようとはしなかった。大半の生徒がバスを降りた頃、山田が席を立った。三ツ森も立ち上がる。すると、後ろの席のヤンキーたちも席を立った。山田が通路に出ると、ヤンキーたちも通路に立った。まだ何か用か。三ツ森がそう思っていると、山田が後ろを振り返り、いきなりヤンキーの一人をぶん殴った。ぶん殴られたヤンキーはバスの後ろの座席まで吹っ飛んでいった。吹き飛ばされたヤンキーの元に駆け寄った山田は、「何舐め腐っとんじゃコラァァアアアアア」と怒声を上げながらヤンキーの襟首を掴んで体を引っ張り上げ、そして顔面を殴りつけて床へ叩き付けた。そしてまた襟首を掴んで体を引っ張り上げ、顔面を殴りつけて床へ叩き付ける。「謝れぇぇえええええ!」そう叫びながら何度も何度も殴りつけ、叩き付けた。他のヤンキーたちは山田の迫力に気圧されて何もできずにいた。チラチラと三ツ森の顔に目を向けながら、三ツ森が山田を止めてくれる事を期待しているようだった。三ツ森は山田を止めるつもりは毛頭なかった。山田は相手が大けがをしないように、ちゃんとほっぺたを殴りつけている。加減を知らないほどバカじゃない。三ツ森にはそれが分かっていた。通路をスクールバスの運転手が横切った。そして山田の肩を掴み、「やめなさい」と止めに入った。山田が運転手の方を振り向いた。山田は興奮していた。運転手も殴ってしまうのではないかと心配し、さすがに止めに入ろうかと三ツ森が足を一歩踏み出した瞬間、山田は運転手に向かって深々と頭を下げ、「どうもすみませんでしたぁぁあああああああ」と叫び声を上げた。そしてバスを降り、そのまま駅へと走り去っていった。そんな思い出が、三ツ森の脳裏を過ぎていった。

 もう一つ、三ツ森は過去の出来事を思い返していた。大学生の山田と三ツ森は夏祭りに来ていた。露店が並んでいる。会場は人で溢れていた。山田と三ツ森は何をするでもなく、夏祭りの雰囲気を楽しんでいた。近くの公園まで歩いた。公園には顔をボコボコに腫らし、血を流している三人の大学生がいた。山田がその三人に声を掛けた。

「芳賀、平地、池田、どうした。誰にやられた?」

「おお、山田、お前も来てたのか」芳賀と呼ばれた男が山田に気付いて口を開く。

「どうしたんだよお前ら、その顔。誰にやられたんだよ」山田は既に興奮していた。

「五人がかりでやられた」

「何でボクサーが三人いて、たった五人にやられてんだよ」

「あれは多分ヤクザだ。手なんか出せねぇよ」芳賀の隣で鼻を抑えながら平地という男がそう言った。どうやら三人とも山田の大学のボクシング部の仲間のようだ。

「そいつら、今どこにいる?」山田が訊ねた。

「さぁ、まだその辺にいるんじゃね?」池田と呼ばれた男が答える。

「見つけ出そうぜ」と山田が目をギラつかせる。

「見つけ出してどうすんだよ」

「ぶち殺すんだよ」

「やめろよ、相手はヤクザだぞ」芳賀たちが慌て始める。

「関係ねぇよ、どいつだよ、そいつら。見つけたら教えろよ」辺りに目を配りながら徘徊し始める山田。山田の肩を抑え、「落ち着け、殺されるぞ」と言って山田を止める三人。

「ぜってぇ見つけ出せ。何でボクサーが三人いてやられてんだよ。俺はボクサーが最強じゃねぇと気が済まねぇんだよ。俺は殺されても構わねぇから、そいつら全員ぶち殺したらぁ!」山田が興奮し切ったようにそう叫びながらヤクザを探そうと動き回る。

「やめてくれよ。お前がそんな事したら、俺たちが殺されちゃうよ」懇願するように山田を説得しながら山田の体を抑えにかかる三人。山田が本気である事は三ツ森にも分かった。山田の性格を知る三人は、山田を止めるの必死だった。

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