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【ボクシングで喰っていきます】

 ボクシングジム。多くの選手たちが汗を流す練習場は、熱気に溢れている。シャドーボクシングをする者、サンドバックを叩く者、ミット打ちに励む者、リングではスパーリングが行われていた。

「いけいけ!一気に畳みかけろ!」リングサイドから声が飛ぶ。三ツ森が息を切らしながら必死にガードを固めている。そのガードの上から容赦なくパンチを浴びせかける対戦相手。その対戦相手のパンチが三ツ森の顔面にクリーンヒットし、三ツ森がよろめいたところでトレーナーの恋塚がスパーリングを止める。

「そこまで!」

 ゼェゼェと息を切らしながらリングに膝をつく三ツ森。

「相変わらず体力ねぇな三ツ森。そんなんじゃボクシングにならねぇよ」と恋塚が呆れたように口にする。恋塚は元プロボクサー、まだ二十代後半の若さだ。

「田中は良かったぞ。もうすぐプロテストだ。その調子でコンディション上げていけ」恋塚が三ツ森の対戦相手を褒める。

「はい、ありがとうございます」恋塚に一礼し、グローブを外しながら田中がお礼を言う。それを見ていた会長の飯島が、「お前はプロになるつもりはないのか?山田はとっくにデビューして連勝してるのに」と三ツ森に声を掛ける。会長も元プロボクサーだが、世界挑戦もした事があるという強者で、まだ四十代、引退後すぐにこのジムを開設している。

「こいつがプロ?無理無理」と恋塚が飯島の言葉を否定する。

「そうか?センスはいいものを持ってると思うけどな。パンチもいい」と飯島が三ツ森を褒める。

「センスよりも根性だよ。こいつは根性がなさ過ぎる。山田と一緒に入会してきたのに、未だに三分間戦うだけの体力も身に付かない。センスだってホントにあるのか怪しいところだし、すぐに体力切れてパンチだってヘナヘナだ。何?こいつに期待してるの?会長」恋塚が疑問を口にする。

「まあな。本気になってプロを目指したら面白いかな、と思って」と飯島。

「三分間戦えるだけの体力も身に付かない奴がプロになんかなれるわけがない」

 息を切らしながら無言でリングを降りる三ツ森。グローブとヘッドギアを外し、棚に置くと、そのまま更衣室の方へと足を向ける。

「何だ三ツ森、今日の練習はもう終わりか?」と飯島が声を掛ける。息を切らしたまま大きく頷く三ツ森。「そんなんじゃいつまで経っても体力なんか身に付かないぞ」それには答えず、三ツ森は無言で更衣室へと入っていく。

「いいんだよ会長、放っておけば。あんな奴に期待しても無駄だって。スパーリングだってさせる必要ないんだよ。隅っこで勝手にやらせとけばいいんだよ。会長は甘いんだよ。他に見なくちゃならない選手たくさんいるでしょ?」と恋塚が飯島を制止する。

「勿体ないと思うんだけどなぁ」と飯島がパンチングミットを両手に嵌めながら呟くように口にする。「なあ、山田。お前もそう思うだろ?」と近くでシャドーボクシングをしている山田に話を振る。「勿体なくねぇよ」と恋塚が呟く。「みっちゃん煙草もやめられないからな。向いてないと思いますよ」と動きを止める山田。「煙草か。仕方ないな」と残念そうな顔を見せる飯島。

「ところで山田。お前就職は決まったのか?」と飯島が話題を変える。

「決まってたら毎日練習なんか来てませんよ」と山田がシャドーを再開する。

「そうか、厳しいな」

「バイトで十分です。俺、ボクシングで喰っていきます」シャドーをしながら真面目腐った顔で山田がそう言い放つ。

「お、覚悟決めたのか?」と恋塚が反応する。「今や押しも押されぬ新人王の優勝候補だからな。お前には期待してるよ」

 それには答えず、スピードを上げて激しくパンチを繰り出していく山田。パァンッ!飯島が両手に嵌めたパンチングミットを激しく重ね合わせ、「そうか、じゃあこっちもそのつもりで指導するぞ」と気合を入れる。


「はいジャブ!ジャブ!そう!次ワンツー!ワンツー!ワンツーフック!もう一丁ワンツーフック!そう!いいね!」会長の持つミットを目掛けて山田がパンチを繰り出していく。「はいジャブ!ジャブ!」会長の掛け声に合わせながらパンチを放つ山田。「いいよ!ジャブは三つ打つ感じで!」ジャブを繰り出す山田。「そう!三つ打つ感じで!」ジャブを放つ。ゴングが鳴る。「はいラストワンツー!」最後にワンツーを放ち、ミット打ちを終える山田。「ありがとうございました」飯島に頭を下げ、息を切らしながらすぐにサンドバッグのコーナーへと向かう。

「三つ打つ感じで、て何だよ…。三つ打てばいいのか何なのか分からねぇじゃねぇかよ…」誰にも聞こえないような声でそう呟きながらサンドバッグの前に立つ山田。再びゴングが鳴り、サンドバッグにジャブを叩き込みながら、「感じでってなんだよ…。三つ打てばいいのかよ…。どうなんだよ…」ともう一度呟く。会長もイカレてやがるのか?そんな事を思いながら。

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