【何とかしなければ】
三ツ森は自分の部屋のベッドの上で煙草を咥えながら、就職雑誌を眺めていた。何かないものか、興味を惹く仕事、やってみたいと思える仕事が。求人広告の職種と仕事内容を一つ一つ目で追った。何でもいい、とにかく何かを始めなければ。行動を起こさなければ。行動さえ起こせば、動いている間に何かが見つかるかも知れない。しかし、その何かが何なのかは分からなかった。三ツ森の思考は漠然としていた。今のままでは何も変わらない。出会いもない。出会いがなければ、俺は一生孤独のままだ。出会いさえあれば、何かが変わるかも知れない。人との出会いが人生を変える、そんな奇跡だって起こるかも知れない。三ツ森は希望も漠然としている。大した考えなど持ち合わせていなかった。要はアテなど何もないのだ。焦りばかりが心を満たした。そんな気持ちのまま、もうどれだけ時を過ごしただろう。三ツ森はたまに人から雰囲気が落ち着いていると言われる事がある。しかし、それは感情が表に出ないだけの話であって、三ツ森ほど落ち着きのない人間も珍しかった。内心はいつだって不安と焦りで満ちている。孤独と絶望を感じていた。子供の頃から落ち着きがなかった。落ち着いた事などないのかも知れない。思えば疲れる人生だ。三ツ森はいつだって疲れを感じて生きてきた。子供の頃からずっとだ。体ではなく、心の疲れだった。その心に引き摺られるようにして体も重かった。世の中には色んな仕事があるもんだ。広告の一つ一つに目を通しながら、三ツ森はそんな事を思った。でも興味を惹かれるような仕事は見つからない。そもそも自分に勤まる仕事があるのだろうか。そんな不安が頭をもたげる。広告の説明だけでは詳しい事は分からないが、想像する限り、どの仕事も難しそうに思えた。コミュニケーションに自信がない時点でどの仕事も難易度が上がる。三ツ森は自信を失っていた。何もできる気がしなくなっていた。なぜ、自分はこんなにも自信がないのか。それはこれまでの人生において、自分が何もしてこなかったからだ。三ツ森はそう思った。自信が芽生えるような経験は、一つも積んでこなかった。三ツ森の母親は過保護だった。何でも世話を焼きたがった。夜、三ツ森が寝る布団でさえ、三ツ森は自分で敷いた事がなかった。三ツ森はそれが嫌でたまらなかった。特に思春期の頃は、満足に子離れもできない母親が煩わしくて仕方なかった。三ツ森は反抗したが、母親は自分のやりたいように世話を焼いた。為す術もなく、三ツ森はされるがままになっていた。何もしなくても、生きるのに不自由はなかった。それでも、三ツ森は自由を感じた事など一度もなかった。そして本当に何もできない人間に育ってしまった。そんな人生を、三ツ森は悲観した。就職雑誌を読み終えていた。全ての広告に目を通し終えた。これと言って三ツ森の心に引っ掛かる仕事は一つもなかった。三ツ森は最初のページからまた読み返し始めた。少しだけでいい、ちょっとだけでいい、少しでも興味のそそられる仕事、やってみたいと思える仕事、その仕事に応募しようと心に決めていた。就職雑誌を読み始めてから随分と時間が経っていた。集中していた。普段、集中力など欠片もないのに。何とかしなければ。そのくらい、三ツ森の心は焦りで満たされていた。




