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【喰ってやろう】

 ボクシングジム。練習場の端っこに敷かれているマットの上で胡坐をかき、手にバンテージを巻いている山田。事務室からトレーナーの恋塚が姿を現し、「山田」と声を掛ける。

 恋塚の方へ顔を向ける山田。

「山田、次の試合決まったぞ」恋塚が山田に近付き、そう告げる。

「誰ですか?相手」と山田が訊ねる。

「小向竜也。戦績は十戦全勝六KO。現在日本ランキングの七位にランクインしている若手のホープだ」恋塚が対戦相手の情報を述べる。

 山田は新人王を取った後、六回戦の試合を一試合行っていた。その試合にもKOで勝利した為、晴れて八回戦ボクサーの仲間入りを果たしている。激闘王の名に相応しい、壮絶な打ち合いの中でのKO劇だった。新人王を取った勢いそのままに、快進撃を続けている。季節は寒い冬から暖かい春へと移り変わっていた。

「十戦全勝…、強そうですね」山田が感想を述べる。

「佐々木ジムの選手だよ。村上健吾がいるジム。村上が日本タイトルを返上したら佐々木ジムは小向にタイトル取らせようと思ってる。期待されてる選手だ」

 村上健吾は山田と同じ階級、日本フェザー級のチャンピオンだ。

「小向の方からお前とやりたいと言い出したらしい。佐々木ジムから申し出があった。だから受けた」恋塚が試合の決まった経緯を説明する。

「俺とやりたい?何でなんですかね」山田が疑問を口にする。

「お前は今最も勢いのあるフェザー級のホープだからな。注目度も高い。注目度の高い選手とやりたがるのは普通の事だろ。勝てば評価も上がる。佐々木ジムとしては今のうちにお前を叩いておきたいという思惑もあるんじゃないか?」と恋塚。

「なるほど…。そういうもんですか」呑気な口調でそう答えながらも、山田は身が引き締まる思いでいた。村上健吾がタイトルを返上したら、次にタイトルを取るのはこの俺だ。期待されている若手のホープとやらをここで叩いておくのも悪くない。そんな事を考えていた。

「お前の試合はセミファイナルな」と恋塚が言う。

「セミファイナル、マジですか?」山田が驚いたような声を上げる。

「ああ、お前は現在八戦全勝全KO。KO率一〇〇パーセントを誇る期待のホープだからな。客も呼べる。それだけ注目されてるって事だ」

 山田の顔が引き締まる。何もかもが順調に思えた。着実に階段を登ってきている。俺の人生は、確実に変化を遂げている。ろくでもない人生から、脱却しつつある。でも、だからこそ負けられない。負けたら全てがチャラになる。全てが元に戻るのだ。勝つしかない。どこまでも勝ち続けるしかない。プレッシャーも感じた。それでも、山田の胸には闘志の火がついた。

 恋塚が続ける。

「メインで村上健吾が登場する。フェザー級タイトル四度目の防衛戦だ。そのセミファイナルを同じ階級のお前が務めるんだ。村上も注目の選手だ。でもお前の試合の方が盛り上がる。日本フェザー級に山田ありってところを見せてやろうぜ。メインの試合を喰ってやろう」そう言って山田の肩を叩く恋塚。

「はい」バンテージを巻き終えた山田は、気合の入った表情で立ち上がり、ゆっくりと体を動かし始めた。

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