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【何をするのもバカバカしい】

 自分の部屋のベッドの上で胡坐をかき、落ち着きなく煙草を吹かしている三ツ森は、ベッドの上に就職雑誌を広げて眺めていた。何かねぇかなぁ、興味を引きそうな仕事、そんな事を考えながら。三ツ森は焦っていた。自分に何もない事を。自分も何かを見つけなければ、そんな焦りから、就職雑誌を購入していた。山田はボクシングで人生を切り拓こうとしている。今の山田はとても充実しているように見える。ボクシングに夢中だ。そんな山田が羨ましかった。夢中になれる何かに出会えた事が。それに比べて、自分はどうだろう。何もない。自分もない。山田に言われるまでもなく、今のままではいけない事は分かっている。でも、何をどうすればいいのかが分からない。焦燥にかられていた。三ツ森はページを捲り、煙草の煙を吐きだすと、「やりたい事か…」と呟いた。同時に、「そんな事をさせる為に育てているワケじゃない。誰が喰わせてやってると思ってるんだ」父親に言われたそんな言葉が頭をよぎった。あれはいつの事だったか。三ツ森は記憶を辿る。そうだ、あれは俺が高校生の時の事だ。

 三ツ森は就職雑誌を放り投げ、ベッドから降りてパソコンの前に腰を下ろすと、パソコンの電源を入れ、ホームページ作成ソフトを立ち上げた。そして、咥え煙草で記憶を辿り始める。そうだ、あれは高校生の時、中学時代のサッカー部の友達が、夜、近所のサッカー場にみんなで集まってサッカーをしているから三ツ森も来ないかと誘ってくれた時の事だ。三ツ森はパソコンに文章を打ち込み始める。俺は中学、高校とサッカー部に所属していた。小学生の時も地域のサッカー少年団に所属していた。小学生の頃の将来の夢は、漫画家とプロのサッカー選手だった。そんな記憶も蘇る。俺は両親に懇願した。夜、友達と一緒にサッカーがしたい、と。しかし、父親は言った。サッカーばかりして、勉強はいつするんだ、と。俺は勉強が嫌いだった。勉強が楽しいと思った事は一度もない。サッカーなんかしようがしまいが、勉強なんてする子供ではなかった。サッカーは関係なかった。どの道勉強なんかしない。そんな事は言えなかったが、それでもみんなとサッカーがしたいのだとなおも懇願すると、親父がこう言ったのだ。「そんな事をさせる為に育てているワケじゃない。誰が喰わせてやってると思ってるんだ」。有無を言わせぬ口調だった。お前は俺の言う事を聞け、逆らう事は許さない、そう言われたような気がした。その言葉に、ショックを受けた。じゃあ何の為に育てているんだ?俺に何をさせる為に育ててるって言うんだ?これは俺の人生なのに、俺は自分のやりたい事もできないのか?親なら子供を喰わすくらい当たり前だろ。誰も頼んで生まれてきたワケじゃない。好きでお前の子供になったワケじゃない。勝手に生んでおいて、何を恩着せがましい事言ってやがる。これは俺の人生だ。俺は俺のやりたい事をやる。怒りで体が震えそうだった。言いたい事は山ほどあった気がする。でも、俺は何も言い返す事ができなかった。その時の感情を、うまく言葉にする事ができなかった。まだ子供だった俺は、それを表現する術を知らなかった。父親のその言葉に、ただただショックを受けて黙り込むしかなかった。端的に言えば、傷ついたのだ。結局夜に友達とサッカーをする事は許されなかった。別に逆らう事もできたと思う。父親の言う事なんて、聞く必要もなかった。でも、相手は父親だけではなかった。俺には心配性の母親がいる。父親に逆らって、母親に過度な心配をされる事が憂鬱だった。母親の存在は、いつだって俺の心を重くする。俺の行動を妨げる。父親の許可がなければ、俺はやりたい事も満足にできない。俺のやる事は父親が決める。父親の許可がなければ、俺はプロのサッカー選手になる事もできない。決めるのは父親だ。そんな事を考えると、何もかもがバカらしくなった。心が一気に冷めていく。部活からも次第に足が遠のいた。サッカーへの興味も消え失せた。何をするのもバカバカしい。何に対しても、やる気が起きなくなっていた。

 ハッキリ言って俺にサッカーの才能はなかった。どんなに必死に練習に打ち込んだところで、プロにはなれなかっただろう。それでも、気の合う仲間と、好きな事に打ち込む事で、俺の心は満たされるはずだった。青春と呼ばれる時代を、そうやって謳歌する事で、十分満足できるはずだった。でも、満たされるどころか、俺の心は晴れる事すらなかった。毎日が憂鬱だった。友達が何のわだかまりもなく楽しめる事すら、俺は楽しむ事ができないのだ。友達が羨ましかった。サッカーから足が遠のき、友達とも疎遠になった。サッカーへの興味を失い、他に興味のある事など何もなかった。人生から、楽しみが消えた。興味もない、楽しみもない、ゆえに誰とも接点が見つからない、話題もない。一人でいる事が多くなった。人と一緒にいる事に、煩わしさを覚えるようになった。コミュニケーションに、苦手意識を覚えるようになった。あの頃から、俺は本格的におかしくなり始めた気がする。三ツ森はそんな事を考えながら、咥えていた煙草を灰皿で揉み消し、今自分が打ち込んでいた文章を読み返し始める。でも途中でめんどくさくなって、そのままホームページを更新した。こんなホームページを誰が読むのか。そんな事を思いながら。別に誰も読まなくたって構わない。苦しみを吐露する事に意味がある。過去を整理する事に意味がある。強がりではなく、そう思った。しかし、今のところ、何の成果も感じられなかった。

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