【興奮】
後楽園ホール。全日本新人王フェザー級の決定戦が行われていた。会場には山田が働くラーメン店の店長・小泉と店員の秦の姿、山田の従弟・勝とその母親・良子の姿もあった。皆食い入るようにリング上を見つめている。リング上の山田の顔は赤味を帯びている。パンチを受けた痕跡だ。が、いつものように腫れあがってはいなかった。
山田は自分が理想としていたヒットアンドアウェイの戦術を捨てた。ガードを高く保ち、上体を振りながら前へ出る、序盤からそんなボクシングを展開していた。対戦相手はヒットアンドアウェイの戦術を選んだようだ。足を使って距離を保ち、ジャブやストレートで山田の前進を阻止しながら、打っては離れる作戦を展開しようとしている。そのジャブやストレートをパーリングやヘッドスリップ、ブロッキングで捌きながら前へと出る山田。相手がパンチを放てば必ずパンチを打ち返し、パンチを喰らってもお構いなしに前へ出た。山田の圧力に、相手選手がプレッシャーを感じているのが分かる。試合中盤には完全に山田のペースとなっていた。フットワークとジャブを使いながら距離を保とうとする相手選手。その距離を潰そうと前進を続ける山田。相手選手がジャブを放つ。ブロッキングと同時にワンツーを返す山田。下がりながら右ストレート、左フックと連打を放つ相手選手。それもブロッキングして前へと出る山田。ワン・ツー・フックとパンチを繰り出していく。相手選手は下がりながらも距離を保てない。山田の圧力に押されてコーナーに詰まる。一気に距離を詰める山田。左右のストレートパンチを連打で放つ。相手選手はブロッキング凌ぐ。が、亀のように丸まってパンチを返せない。左のボディ、右のフック、更に左のボディ、山田の連打が止まらない。その連打の合間、苦し紛れに放ったようにも見えた相手選手の右アッパーが山田のあごを捉える。跳ね上がる山田の顔。一瞬膝が崩れかけるが、そのまま相手選手に体を預け、ボディ、フックとパンチを繰り出していく山田。相手選手もパンチを返すが山田を押し返せない。山田は徐々に体勢を立て直すと、なおもパンチを放っていく。山田の手が止まらない。防戦一方の相手選手。
「…、やっまっだ!やっまっだ!…」会場の一角で山田コールが沸き起こる。右ストレートから左のボディ。山田の得意とするコンビネーションブローが炸裂する。奇麗に相手選手の体に突き刺さる。くの字に折れ曲がる相手選手の体。すかさずアッパーを突き上げる山田。続けて左フック、右ストレート。たまらずキャンバスに尻もちをつく相手選手。ダウン。会場の盛り上がりが最高潮に達した。
「やっまっだ!やっまっだ!」
相手選手は腹を抑えながらロープを掴み、立ち上がろうとする。山田はニュートラルコーナーからその様子を窺っている。カウントが進む。キャンバスに片膝をつき、足に力を入れて立ち上がろうとする相手選手。しかし、その膝が揺れている。立ち上がる事ができないままテンカウントを迎え、レフリーが頭上で両手を交差させる。山田が両手を上げてガッツポーズを決める。ノックアウト。山田が全日本新人王に輝いた瞬間だった。後楽園ホールに歓声が沸き起こる。
「山田ー!よくやった!」
「山田ー!おめでとう!」
「やっまっだ!やっまっだ!…」
興奮冷めやらぬ場内。観客席でその様子を眺めながら、小泉が興奮した面持ちで隣に座る秦に話し掛ける。
「凄いな山田。こんなにもファンがいるのか」
「ね、面白いでしょ?山田の試合」秦の口ぶりも興奮している。
良子はリング上の山田を見つめながら立ち上がって拍手を送っていた。その横で勝は両手を強く握りしめ、体を震わせながらジッと山田を見つめている。山田のKO劇に、会場にいる誰もが興奮していた。




