【脚光】
後楽園ホール。東日本新人王トーナメント、フェザー級決勝戦の試合が行われていた。リング上の山田の顔は腫れている。
「ガードしっかり!体振って!」
「ジャブからジャブから!」
セコンドから声が飛ぶ。ガードを高く掲げ、体を左右に振りながら相手との距離を詰める山田。ジャブを繰り出していく。そのジャブをヘッドスリップでかわし、右ストレートを放つ相手選手。同時に右ストレートを繰り出した山田のパンチと相打ちになり、両者の顔面が跳ね上がる。お構いなしに前へ出る山田。左右のパンチを振っていく。ガードとウェービングで山田のパンチをやり過ごし、相手選手の左フックが山田の顔面を捉える。それでも下がらない山田。前へ出てワンツーを放つ。たまらず相手選手が後ろに下がり、ロープに詰まる。ワンツーから体を左へ傾け、渾身の左ボディブローを山田が放つ。そのボディブローが相手選手の体に突き刺さる。一瞬前のめりになりながらも踏ん張りを見せる相手選手。山田がすかさず右のアッパーを突き上げる。空振りに終わるが相手選手の上体が浮いたところへ左フック、間髪入れずに右ストレートを繰り出す山田。そのパンチが奇麗に相手選手の顔面を捉える。一気にパンチの回転数を上げ、連打で仕留めにかかる山田。相手選手も果敢にパンチを繰り出し応戦する。山田のパンチが相手選手の顔面を打ち抜くが、相手選手のパンチも山田の顔面にヒットする。ロープ際での足を止めての打ち合い。乱打戦だ。会場が一気に盛り上がる。互いにパンチを繰り出し、互いにパンチを喰らいながらも、互いに一歩も引かない激しい展開。山田のフック気味の右が相手選手のあごを捉える。一瞬バランスを崩す相手選手。返しの左フックが奇麗に決まる。相手選手の手が止まり、ガードを固めて丸くなる。ガードの上からガンガンパンチを打ち込んでいく山田。顔面からボディ、ボディから顔面へとパンチを上下に打ち分ける。ガードの隙間を縫って山田の右ストレートがヒットする。さらに左のボディブロー、左フック、右ストレートとパンチを止めない山田。相手選手がパンチを捌き切れなくなる。山田の左右の連打が相手選手の顔面を捕え、相手選手の膝が崩れ落ちそうになったところでレフリーが間に割って入り、両手を交差して試合を止める。テクニカルノックアウト。山田が両手を掲げ、ジャンプして喜びを爆発させる。
「よくやった!」
「山田!ナイスだぞ!おめでとう!」トレーナーの恋塚と会長の飯島がリングに駆け込んでくる。山田に抱きつき、山田の体を抱え上げる恋塚。山田は右手を掲げてガッツポーズを決める。会場は大歓声に包まれていた。その様子を観客席から興奮したような面持ちで眺めている少年がいた。
「憲太郎お兄ちゃん凄いね。東日本の新人王だって」少年の母親も興奮した様子で息子に話し掛ける。少年は何も答えなかった。ただ目を輝かせながら山田に視線を送り続けている。山田は脚光を浴びていた。審判に右手を掲げられ、拍手と大歓声に包まれていた。
「勝…。憲太郎お兄ちゃんが勝ったのよ」そう言いながら少年の母親は少年の肩に手を置いた。少年は両手を強く握りしめながら、興奮冷めやらぬ様子でリング上を見つめている。




