【社会人に向かない】
「マジで就職決まらねぇ」
クラウンの運転席でハンドルを握りながら山田憲太郎がそう呟いた。助手席に座っている三ツ森貴明が山田の顔に目を向ける。夜の街に車で乗り出し、二人でドライブを楽しんでいるところだ。二人は高校時代の友人だった。別々の大学に進学し、既に卒業して半年が経とうとしていた。山田は大学の法学部を卒業し、大学在学中からずっと司法試験の勉強を続けていたが、参考書を積み重ねると自分の身長超えるんだぜ、気ぃ狂うよ、との理由で勉強を断念していた。三ツ森は大学卒業後、一度は就職したものの、全てに嫌気がさした、との理由で仕事を辞め、家を飛び出し、一人暮らしを始めて再就職を果たしている。
「やっぱ二流大学のボクシング部出身なんて何のアピールにもならねぇからな。マジで厳しいよ」
「……」無言の三ツ森。
「ボクシングを通じて学んだ事や身に付いた事は何ですか?とか聞かれたよ」と山田が鼻で笑うかのような態度でそう話す。
「ふぅん…」三ツ森が興味のなさそうな声で応える。
「ボクシング始める前は、人って殴ると吹っ飛んでいくものと思ってましたけど、ボクシング始めてからは、人って殴ると崩れ落ちるんだ、という事を学びました。そういうパンチを身に付ける事ができました。て答えたら面接官引きやがったよ」
ちょっと笑みを漏らしながら「ふぅん…」とまた気のない返事をする三ツ森。
「ふぅん…じゃねぇよ。何でみっちゃん工場に就職してんだよ。しかも派遣だろ?国立大学出て何考えてんだよ。こっちがむっちゃ苦労してるっつーのに、人生舐めてるとしか思えねぇよ」
「……」無言で応える三ツ森。
「ちくしょう。そりゃ俺たちは社会人に向かないよ?でもこっちは性格改めて、人格変えてでも社会に適用しようと思って努力してるっつーのによぉ」イライラが募るかのような口調でそう話す山田。
「……」何と言っていいか分からず、やはり無言の三ツ森。次の瞬間、後方からクラクションの音が鳴り響く。パッパアアー!少し驚いたような顔をしてバックミラーに目を向ける山田。「BMWに煽られてるよ」そういいながらアクセルを踏み込み、少しスピードを上げる。Mも一瞬後方に目をやるが、興味なさそうに前を向く。パッパアアー!パッパアアー!何度もクラクションを鳴らし、ガンガン煽ってくるBMW。「……」無言になり、明らかに不機嫌そうな顔つきになる山田。三ツ森も口を開かず、前方を見つめている。
赤信号でクラウンを停止させる山田。BMWも後方で停止するが、思いっ切りアクセルを吹かしてこちらを煽ってくる。ブオオオン!オンオンオン!「チッ」舌打ちを鳴らし、おもむろにギアをバックに入れる山田。そして思いっ切りアクセルを踏み込む。クラウンが勢いよくバックし、BMWのフロント部分に衝突する。ガシャン!衝撃で揺れる二人の身体。
「あーあ…。山ちゃん、これお父さんの車でしょ?」三ツ森が間の抜けた質問をする。山田が物凄い目でバックミラーを睨んでいる。BMWから三十代くらいの男が降りてくるのが見える。
「降りてきやがったよ。クソが」山田もシートベルトを外し、車から降りてゆく。その様子を目で追う三ツ森。山田がいきなりBMWの男の顔面に頭突きを喰らわすのが見えた。
「何舐め腐っとんじゃコラァァアアア」怒声を上げながら男の髪の毛を引っ掴み、男の顔面をBMWの車体に叩き付ける山田。何度も叩き付けている。「あーあ…」車から降りようともせず、呆れ顔で前方に目を向ける三ツ森。
「やれやれ…」そう呟きながら小さな溜息をつく。病んでんだか、イカレてんだか、そんな事を思いながら。




