表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/20

9.なんてこった!!(5)

明けましておめでとうございます。

本年も宜しくお願い致します。

 上空には耳障りな声で鳴きながら乱舞しているワイバーンの群れ、地上では上空からの攻撃に右往左往しながら対応している(正確には対応しきれず餌食になった)帝国の装甲兵達。

 帝国兵の主たる武装は槍と剣。上空からの攻撃に対抗するには幾分というか、かなり不利な状況と言える。

 と言うか、そもそもの話し、人族がワイバーンと真っ向から戦う事自体が間違っている。あんなのと渡り合えるのは、非常識な力を持ったあの娘っ子くらいなもんだ。

 俺だって出来る事ならごめんこうむりたいもんだぜ。

 などと考えながら走っていると、右手の方で娘っ子達の話し声が聞こえて来た。


「一応言っておきますが、あの秘密兵器は今回は使わないでくださいね。あくまでも普通に戦ってくださいな」

 ん?秘密兵器だと?ああ、あの気の力を放出する光の剣ってやつか。なんであれを封印するんだ?あれならワイバーンなど楽に始末出来るだろうによ。

「あれつこたら楽やのになんでや?」ポーリンも不思議そうに聞き返している。当然だろう。

「あれを帝国の連中が見たらどう思うと思います?」

「ああ、さよか。欲しがる?もしくは、脅威に感じるか」

「そうですよ。だから、ここは無理に戦わなくてもいいですからね。無理に戦わず身の安全を第一に行動して下さいな」

「はいよー、わかったわ」

 そう言うと、ポーリンは速度を上げて戦いの中に入って行った。


 ん?その時、俺は有る事に気が付いた。

「おい、おめーはなんでここに居るんだ?おめーは戦えんだろうに」アドは何食わぬ表情で答えて来た。

「あら、どうかお気になさらないでください。私の事なら大丈夫なので」

「大丈夫なことあるかよ!おめー武器持って居ないだろうが!全然大丈夫じゃねーじゃねーかよ」

「あら、大丈夫ですって。危なくなったら、遮蔽物の影に隠れますのでご心配なくww」

 何言ってんだ?こんな草原の中で何が遮蔽物の影なんだ?  って、まさか・・・。

「おいっ!」まさかとは思うが、遮蔽物って・・・」

「ええ、おかしらの事ですよ。か弱い女の子が襲われそうになったら、当然身を挺して守って下さりますわよね?」


 俺は、その返しに思わず立ち止まってしまった。こいつ、どこまで俺を利用したら気が済むんだ?

「ほらほら、その巨体で立ち止まっていたら、ワイバーンのいい標的ですわよww」

 いけねー、本当だ、一匹こっちに向かってきやがるぜ。ちくしょう、舐めやがって。

 思わず我が大剣を抜いてはみたが、さすがの愛剣もあいつには刃が立たねーんだった。どうするよ、こいつ。

 しかたがねーから、向かって来る奴に向かって、全力で斬りかかってはみたんだが、どこかおかしい。固い事には変わりはないのだが、前回とは違って奴の固い皮膚に対して思ったよりも歯が立たず、弾き返されてしまい、奴はそのまま何も無かったかのように上昇していきやがった。

「ちくしょー!どうなっていやがる!刃が立たねーぞ。前回はもっと切れたのによ」

 思わず立ち尽くしていると、近くに居たメイに怒鳴られた。

「おかしらーっ、後ろーっ!!」

 反射的に横っ飛びに草むらに飛び込み、地面に転がると後頭部に軽い衝撃と痛みを感じた。

 周囲を見回しながら左手で後頭部を撫でると、暖かい感触とぬるっとした感触にハッとして左手を見ると、手の平が真っ赤に染まっていた。

 やべっ、奴の脚が掠ったか。だが、こんなのはなんでもねー、かすり傷だ。まだまだやれるぜ。

 俺を狙った奴は、さっきの奴と同じで、一撃をかけるとさっさと上空に上がって行っている。俗に言う「一撃離脱」ってやつだな。癪だが、理にかなっていやがる。下等生物のくせに生意気な奴らだぜ。


 草むらにしゃがんだまま周囲を見回すと、みんな奴らの一撃離脱をうまくかわしながらも多少の痛手を負わせているようだ。

 みんななかなかやるもんだわ。思わず関心した。と言うのも、前方ではあちこちで奴の一撃をかわせなかった帝国兵の叫び声がひっきりなしに聞こえるからだ。

「たいしたもんだぜ」思わず感嘆の声が漏れると、さっそくアドの奴の冷静な声が聞こえて来た。

「そんなにのんびりして居ますとダーク・エンジェルが来ちゃいますよ」

「だけどなぁ、俺の大剣ですら奴には大したダメージも与えられねーんだぞ、どうしろって言うんだ」

 これは正直な感想だ。けっして泣き言なんかではない。断じて泣き言など言ってない!

 言ってはいないんだが、お手上げ状態な事に変わりはなかった。

「おそらく前回のワイバーンとは若干違う種族なのかもしれませんね。やや皮膚が固いのかもしれませんね」

「をいをい、硬いなんてしろものじゃねーぞ。かすり傷程度しか与えられねーんだからな!別物と言ってもいいんじゃねーか?」

「真っ向から斬りつけるのではなくて、奴の速度に逆らわずに奴の動きに合わせて斬りつけて見て下さい。ああ、刃の角度は出来るだけ浅くでお願いします。角度が深いと弾かれますからね」

 簡単に言ってくれるぜ。あんな速度で急降下してくる奴とどうやって速度を合わせるっていうんだよ。


 などと憤慨していると、またしても聞きたくねー声が近寄ってくるじゃねーかよ。

「おう、このうるさい奴ら、なんとかしないか。こちらも被害が甚大だ。このままだと、我が帝国に対する敵対行動とみなす事になるがいいのか?」

 いつもながら傲慢なせりふの将軍様だぜ。

「そんなの知らん!おめーらが勝手に人の庭に入り込んで来て、勝手に被害を出しているだけだろうが。これ以上被害を出したくなけりゃーさっさと帰るんだな。その間だけくらいなら、退路を支援してやってもいいぜ。帰らねーのなら、後はしらん!」

「ムスケル、そんな言い分が通らないのは、お前が一番わかっているんじゃあないのか?撤退はしない。お前達には我々の支援を命ずる」

 はっ、相変わらずな物言いだぜ。だが、そんな尊大な物言いをしていられるのも、後少しだぜ。

「古い付き合いだ。特別に忠告してやる。さっさと撤退しねーと、あんなワイバーンなど赤子に見える位に恐ろしい奴がやって来るかも知れんぞ。忠告はしたからな」

 俺は奴に背を向け、歩き出そうとしたのだが、がしっと左肩を巨大な万力の様な力で掴まれてしまった。その恐ろしいまでの怪力の正体は、奴の左手だった。


 ほんの数秒、俺達は石になったかのように固まっていた。

 どうしようかと思案・・・しようとした瞬間。物凄い力で突き飛ばされ、俺は前のめりに草むらに突っ込んだ。

「なっ!!」

 咄嗟に振り返った目の前を巨大なワイバーンの脚が横切って行った。

 その向こう側には大剣を振り下ろした姿勢で固まっている奴こと帝国遠征軍司令官のハイデン・ハインがいた。

 奴は自分の両手をしみじみと見ながら、俺に視線を送って来た。

「なんだ?この硬さは。俺が一刀両断に出来ないとはどういう事なのだ?あれでも生き物なのか?どういう事なのか説明せよムスケル」

 その顔は、珍しく心の底から当惑しているようだ。

「説明もなにも、見た通りだよ。納得がいったのなら、俺は行くぜ。長居は無用なんでな」

「まっ、待て!こんなの納得がいく訳なかろうが。更にこいつらよりも手強い奴が現れるだと?本気で言って居るのか?なんなんなんだこの地は?」

 当惑が、動揺に変わりつつある奴に、アドが畳み込む様に口を開いた。冷静に、そして淡々と。


「それがこの地なのです。人族の、いえ何人なんびとも足を踏み入れてはいけない地なのでしょう」

「それなら、何故そなた達はここに居るのだ?足を踏み入れてはいけないのではないのか?」

「私達は大事なお方を探している内にこの地に迷い込んでしまったのです。そしてこの地が禁断の地であると知った所なのです。出来ましたらすぐさまこの地を引き払いたく思っております」

 上空ではワイバーンが乱舞しており、俺と奴、そしてアドと三人が草むらの中でしゃがみこんで話しているさまは奇妙ですらあった。

「して、こいつらよりも強い存在とはなんなのだ?本当にそんな存在が実在するものなのか?」

「実在します。そして、その圧倒的な力は全く次元の違うもので、対処しようと考える事すら愚かな事と言えるでしょう」

「まさか・・・」

「将軍様は、嵐、それも超大型の嵐に立ち向かって、撃退できますでしょうか?」

「そんな事は、国軍全てをつぎ込んでも不可能である事は、子供でも理解出来る事だぞ?」

「その嵐を百倍強力にしたとお考え下さい。逃げるしかないでしょう?」

「ううむ。信じがたい話しではあるが、一体何物なのだ?そいつは」

「私達にも正確には分かり兼ねますが、神・・・もしくは神の並びに居る存在と考えて宜しいかと理解しております」

「神だと?悪いが我々はそのような空想の話しは信じない。現実に確認出来るものしか信じない。証明仕様がないものを信じる事が出来る事事態私には理解が出来ない」

「それも一つの生き方でしょう。私はその生き方を否定するものでは御座いません。自らの目で確認をしつつ皆さんで滅んで行くのも人生。私どもとは道を分かちましょう。私どもはまだ生きていたいので、この地から撤退いたしたいと存じます」

「まあ、待て。お前も、ムスケルも気がみじか過ぎるのではないか?もっと良く考えようではないか?」

「その時間があるのでしたら宜しいのですが、おそらく今直ぐに決断せねば手遅れになると思いますよ」

「そうなのか?」

「はい、彼らが現れた時点で我々は・・・・お終いとなります。現れたら、終わりなのですよ。ですので、現れる前に退散したいので、ここで失礼させて頂きます」

「では、この地はどうする?我が帝国が頂いても良いのだな?」

「ご自由に。生きている者が誰も居なくては、頂いても意味がないと思いますよ。さあ、おかしら全員に撤収の合図を」

「お おう」

 なんか、勝手に話が進んで居るが、いいのか?そんなに簡単に土地の譲渡を決めつまってよお。俺は知らんぞ。


 俺達はワイバーンとの闘いを終了させ、帝国兵を残し今来た通路へと退却を始めた。

 あの野郎の妨害があるかと思っていたのだが、不思議な事に一切邪魔をして来なかった。

 それどころか、驚いた事に自軍の兵士達に引き上げを命じ始めたじゃないか。少しはアドの忠告が理解出来たんか?

 他人の言葉に耳を貸せるようになった事は、人としてだいぶ成長できたのであろう。良かったな、大人になれてww

 まあ、ワイバーン相手に既に半数近い損害を出しちまったんだ、一旦態勢を整えるのは当然の判断だ。別に奴が優れた指揮官だからって訳じゃあねーぞ。指揮官として当然の判断だな。


 俺は後ろの様子に注意を払いつつ、平然と退却しているアドに話し掛けた。まだ、後方では獲物を求めてワイバーンが乱舞しているからな。注意は必要だ。

「でよお、この後どうするんだ?娘っ子の捜索は中断して逃げ帰るんか?」

 当然の質問だろう?中断するかしないかで、今後の行動はがらっと変わってしまうからな。

 だが、アドの返事は簡単なものだった。

「船に戻ります」

「捜索は断念するって事か、意外と冷たいんだな、おめーって奴は」

 俺がそう吐き捨てると、アドは呆れたような目付きで俺を見返して来た。

 そして、そのまま何も言わずに、再び今来た通路へと歩き始めた。

「なんなんだあ?何だっていうんだよ?訳がわからんぞ」

 そう呟くと、俺を追い抜きざまアウラがぼそっと呟いた。

「おかしらもまだまだですね。アドちゃんの考え、もう少し読めるようになるといいですね」

 なんなんだ、みんなして俺を馬鹿にしやがって・

「そやでぇ、次のステップに備えて、最後尾での警備、よろしゅうなぁ~ww」

 ポーリンまで・・・。なんてこった。

「ほら、こっちに気が付いたワイバーンが一匹やって来ますよ。私らで迎えうちますよ。

 振り向くとジェームズ達三つ子が剣を構えて空を睨んでいた。

 ちっ、やる事はいっぱいって事かよ。

「こっちに来ているのは一匹か?他の奴らはどうなってるんだ?」

 するとジェームズがそっと左手で海の方を指差した。

 そこには、帝国の奴らが乗って来た船団が停泊していたはずだったが、今は乱舞する十匹ほどのワイバーンに襲われているところだった。

「あーあ、見付かっちまいやがったか。もう船は駄目だなありゃあ。あいつら、どうやって帰る気だ?可哀想になぁww

 せっかくこの地を得られても、帰れなきゃ意味ねーわなww お・つ・か・れ・さん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ