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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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8/20

8.なんてこった!!(4)

2025年も後わずかになりました。作品の投稿も、年内最後となります。

これからも頑張って書いて行きますので、応援よろしくお願い致します。

皆様、良いお年を。

2026年が皆様にとって素晴らしい年になりますように。

 帝国軍の本部である幕舎を出た俺達は、みんなの待つ山肌にある通路を目指した。

 草をかき分け無言で歩いて居ると、不意にアウラが口を開いた。

「そう言えば、今回の交渉って、帝国軍を味方に引き入れる為の交渉でしたよね。喧嘩別れみたいになっちゃって、良かったんですか?」

「うげっ、今更何を言い出すんだよ。お前だって奴を相手に啖呵を切っていたじゃねーかよ。他人事みたいに言ってるんじゃねーぞ」

 確信を突かれてドギマギしちまったじゃねーかよ。

「あら、仲間に引き入れるのはおかしらの仕事でしょ?わたしが喧嘩にならない様にうまく纏めたから、無事に帰って来られたんですよ」

「どの口が言ってるんだあ?」俺はどっと疲れが出て来てしまい、思わず立ち止まってアウラに向き合った。

 アウラは怯むでもなく、俺の事を見返して来ている。なんだ、この自信に満ちた表情は。

「アドちゃんは、最初からこうなる事を予想していたんじゃないかしら?」

「なんだと!?」

「本当に交渉がしたいのなら、最初からアドちゃんが乗りだしてくると思うんですよ。まずは様子見をしたいから、おかしらを指名したのか、もしくは何かを狙っての時間稼ぎかなぁって思うんですよ」

「何で様子見だと俺なんだあ?時間稼ぎだあぁ?おかしくねーか?」

「いえいえ、真っ当な判断だと思いますよ。だって、おかしらだったら何かあったとしても、平然と敵を振り切って帰って来られますもんww」

「な・・・・・・」


「その通り。さすがですねアウラさん」

 突然の声と共に草むらから顔を出したのは、アドラーとポーリンだった。

 二人の後からは、ぞろぞろと見覚えのある顔ぶれが現れた。

「なんだ、みんな来たんか」俺の事心配して来てくれたのかと思ったのだが・・・。

「おかしら達が時間稼・・・でなくて交渉に行っている間を利用してこの草原からの出口を全員で手分けして探していたのですが、そんな物はどこにもありませんでした」

「なんだぁ、そりゃあどういうこった?俺達は何のために危険を覚悟で交渉に行ってたんだ?」

「後、探していない所は伯爵の残党が立て籠もっているあの砦の辺りだけです」俺の質問は無視かよ。

「ちっ、それでぇ?これからどーすんだよ。あそこは今帝国軍が攻め寄せている戦場だぞ?あそこへ乗り込めって言うんか?」

「まさか、そこまで考え無しではありませんよ。おかしらじゃああるまいし。もう少ししたら事態は動くと思われます。我々は事態が動くまで、ここで休憩して体力を温存しようと思います」

「事態が動くだってぇ?どういう事でい?」

「伯爵の残党は確かに数では圧倒しているでしょう。おまけに籠城戦です。普通なら戦いは圧倒的に伯爵残党が有利に推移するはずです」

「ふつーならな。だが帝国さんはふつーじゃーねーぜ。奴が率いている上に、レッドショルダーまで連れて来ているんだからな」

「その通りです。帝国側としてもこんな所でぐずぐずはしていたくはないはずです、一気にケリを付けたいと思うでしょう」

「まあ、そうだろうな」

「小さいとはいえ、それなりに守りを固めている砦を短時間で一気に落とそうと思ったら、おかしらならどうします?」


 なに言い出すんだ?こいつ俺を試してるんか?

「おめー、俺を馬鹿にしてんのか?そんなの、火責めに決まってんじゃあねーかよ、火責めっ!それ一択だろうがよ」

「そう、火責めです。出来れば油などを使って、より激しい火責めをしてくれる方が、よりこちらの思惑通りに進むんですけどねww」

 満面の笑みでそう語るアドだが、何で当たり前に何もかもが自分の思惑通りに進むと思うんだ?こいつは・・・。

「なあ、伯爵の残党が制圧されたら、次は俺達の番だって分って居るのか?奴が俺達を放置するとでも思ってるんか?伯爵の残党が持ち堪えているあいだに、さっさと撤退した方がいいんじゃねーか?」

「それで?」

 平然と答えるアドに俺の頭は沸騰しかけていた。

「それでって・・・」

「撤退して、改めて帝国軍と事を構える・・・と言う事でよろしい?」

「あ いや そうは言っては・・・」

「見た所千名以上は居ると思える帝国軍相手に、事を構えると。仮に、一旦は凌いだとしましょう。彼らは国のメンツにかけて更に国から兵の増強をして向かって来るのではないですか?」

「おいおいおい、待てよ。俺はそんな国を挙げてのぶつかり合いなんて望んじゃあいねーぞ。ただ、ここは一旦引いた方がいいんじゃあねーかってだな・・・」

「引いた結果が、国同士のぶつかり合いになると言ってるんですよ。わかります?」

 そこまで言われて、俺の頭はプッチンしてしまった。

「じゃあ、どうしろっていうんだっ!!!」


「やれやれ、そんなに大きな声を上げたら、周囲で見ている帝国さんが驚きますよw」

 俺はギョッとして固まった。帝国?見ているだと?

「当然でしょう。あの将軍様が黙って私達を帰すと思ってました?」

「・・・・・思って   た」

 アドの奴はやれやれと首を左右に振ると声を落として話し出した。

「帝国としては、私達の行動を見張るのは至極当然の事ですよ。どこに行こうと帝国の見張りがついて来るのだったら、こうやってオープンにしていた方が向こうも安心するでしょうよ。どうせ少人数なんだから仕掛けては来ませんよ。ここは見張りを立てて休憩するのが一番なんですよ」

「だ だけどなぁ、砦が落ちたら奴らの矛先がこっちに向いて来るのは避けがたい事実なんじゃねーか?こんな草原の真ん中で迎え撃つ気か?俺は嫌だぞ」

「大丈夫ですよ  たぶん。ここはゆっくりと伯爵の残党の奮闘を応援してあげましょうよww」

 そう言うと、アドはごろっと草原に寝ころんでしまい、そのまま寝息を立ててしまった。

 なんなんだ?こいつ、いったいどういう神経してるんだ?

 


 アドが寝入ってしばらくした頃、突然一人の兵士が叫んだ。

「おいっ見ろよ、砦に火が放たれたぞ。黒煙が上がっているぞ、ありゃあ油を使ったんじゃないか?」」

 寝言ったアドを見ながら途方に暮れていた俺だったが、その声に反応して振り返ると、うん、確かに砦が燃えている。いや、黒煙を上げて燃え盛っているじゃあねーかよ。あいつの言った通りになっちまったじゃねーかよ。ってえ事は、思惑通り・・・でいいんだよな。

 だけどよ、砦が燃えた後の事は聞いていねーぞ?俺達はどーしたらいいんだ?なんて考えていると、アドが目を覚まして起き上がってきた。

「ふわぁぁ~あ、良くもえているわねぇ。良い感じ、良い感じ」

 あくびをしながら、とんでもねー事を言いやがる。あの中では、人が大勢死んでるんだぞ。燃やされているんだぞ。

「何が良い感じなんだ!おめーには人の心ってもんがねーのかよ?」

 だが、そんな俺の剣幕もアドにはどこ吹く風だった。

「これは、戦いなんですよ。負ければ無残なものなんですよ、当たり前じゃあないですか。みんなわかって戦っていると思っていましたけどねぇ。それは私達だって例外じゃあないんですよ?明日は我が身って言うでしょ?」

「そ そりゃあ・・・」

「負ければ、無残で、無様で、哀れで、悲惨なのは当たり前の事。その覚悟がないのだったら、戦などしなければいい。それだけですよ。だから私は気の毒には思わない」

「うううう・・・」

 こ こいつ・・・本当に女なのか?子供なのか?人間なのか?まさか、悪魔が姿を変えているんじゃねーだろーな。


 やがて、黒煙は太い帯になって空へと登って行った。それまで無風だった草原に風が吹き始め、次第に強くなっていった。

 それに伴い、空にのぼっている黒煙の帯も次第に姿を変えて、巨大な竜巻のような様相を呈しつつ上空に登っていっている。まるで巨大な炎の竜のようにも見えた。


「おい、これからどうすりゃーいいんだ?」

 そんな俺の問いに、アドの答えは明確だった?いや、俺の頭では訳が分からなかったと言ったほうが正しいだろう。


「もうすぐ援軍が来てくれるはずです。そうしたら行動を開始します」


「援軍だとお?そんなもん、どこから来るっていうんだ」

 俺の問いかけにもこいつは顔色も変えず、平然と戦場を眺めている。

「万が一援軍が来ないようでしたら、こちらも撤退しなくてはなりませんね。引き上げのタイミングの見極めが大事になります」

「おめー、何を言って・・・」

「援軍は来ます。援軍が来たら、おそらく帝国軍はほぼ壊滅に近い打撃を受けるでしょう。その時が帝国軍に恩を売るチャンスなんです。帝国軍に助太刀をします」

「おめー、何訳の分からない事を・・・」

「ああ、ただし、援軍は『甲』と『乙』が考えられますが、『甲』が来たら助太刀に入ります。ですが『乙』が来たら・・・・全力で逃げます。来たトンネルに全力で逃げ込んで下さい」

「意味がわかんねーぞ?『甲』が来たら帝国の奴ら壊滅するんだろ?そんな敵に戦いを挑むんか?そんで『乙』が来たら逃げろだあ?もっと強い相手って事じゃあねーかよ。そんなのどっちも逃げる一択じゃねーのか?」

 そこで、ポーリンが話しに割って入って来た。

「ほな、『甲』っちゅうのは、帝国軍より強うて、うちらより弱いって事なんやな?」

「あらあ、ポーリンちゃん、話しが早くて助かるわあ。『甲』が来たらよろしくねー。おかしらよりはあなたの方が戦力として期待できるからねぇww」

 ちっ、なんなんだ、一体!

「面白くねーから、、、、寝るっ」

 俺はゴロンと草むらに転がった。実際、面白くなかった。なんなんだよ、俺がポーリンに、こんな子娘に劣るっていうんか?

 むりやり横にはなってみたが、なんかムカムカして寝れはしなかった。

 直ぐ近くで多くの命が消えようとしている時に、こんな所で寝ていていいのだろうかと思わないでは無かったが、じゃあどっちに助太刀したらいいんだって話しだ。

 憎むべき伯爵残党ではあるが、憎むべき本当の相手は伯爵個人であってその配下の一般兵ではない。助けてやってもいいかもしれないとは思うが、あの野郎を敵に回すのも、ちょっとなぁ。

 あいつら、適当に和平結んでくれんかなぁ。そうすれば楽なんだけどなぁ。

 ふと、視線を感じて目を開けてみると、なぜかアドがこっちを睨んでいる。俺、何かしたか?あ、ぷいって向こうを向いたぞ。なんなんだ。


 俺も相当図太いんだろうな。悶々としているうちに意識が夢の世界へと引き釣り込まれていった。

 半分夢の世界に入ったところで、その時は来た。ポーリンの甲高い声で、現世に引き戻されたのだった。

「なんかキターでぇ!あっちの山の上やあーっ!!」

 がばっと飛び起きた俺は、何も考えずに反射的にポーリンが指差す山の方を見ていたのだが、その時になってふと考えた。山の上?何で援軍が山の上から来るんだ?

 まだ、頭が寝ているのか、考えが纏まらなかった。自分で考えられなかったので、アドを見た。

 アドはニヤッと素敵な・・・じゃなかった、不敵な笑みを浮かべていた。え?想定通りなんか?


 やがて、空に豆粒のような物が浮かぶと、どんどん大きくなっていき、見た事のある形へと変化していった。

「あ あれは・・・ワイバーンか?ワイバーンだな?」

 汚い耳障りな声を上げながら上空を乱舞しているのは、間違いも無いワイバーンの群れだった。

「お おい!おめーの言っていた援軍って・・・まさかあいつらの事なんか?」

「そうですよ。やって来るのがダーク・エンジェルの方でなくて良かったです。あれが来たらお手上げですからねww」

「そうか、帝国軍には手に負えないワイバーンでも俺らなら対処可能って事か」

「そうですよ。正確には俺ら じゃなくてポーリンさんなら・・・ですけどね」

「ちっ」それを言われたら、何も言えないじゃねーかよ。


 そうこうしている間に、ワイバーンは一匹、又一匹と降下を始めて帝国軍との交戦に突入した。

 まあ予想していた事だが、帝国軍はなす術もなく、総崩れになって散り散りに逃げだし始めている。もう、こうなったら収拾がつかないだろうな。可哀想に。

 ワイバーンに咥えられた帝国兵が、上空に連れ去られて高い所から落とされているのが見える。怖いだろうなーと他人事のように見ていたが、不意にアドが大きな声で叫んだので、俺は我に返った。


「私達は、帝国軍の支援に参りたいのですが、あなた方は邪魔をしますか!?」

 周囲の草原を見ながらいきなり何を言い出すんだ?

 そう思っていると、周囲の草むらから軽装備の帝国兵が立ち上った。その数、十名程か?俺達の動向を監視してやがったな。

 指揮官とおぼしき男がアドの問い掛けに答えてきた。

「私達は、あなたがたを見張るように命令されているだけです。危害を加えるつもりはございません。できるのでしたら、どうか、仲間を助けてやってください、お願いします」

 みんな、一様に頭を下げてきている。

「でしたら、彼らの元に戻って同士討ちにならないように私達の事を伝えて下さい。人族同士での殺し合いは望みません」

「承知!」

 次の瞬間、帝国兵達は消えるように姿をけしたのだった。


「さっ、おかしら、私達も行きますよ。おかしらとポーリンちゃんは自由に駆け回ってください。他の方は固まって守りを優先で、さあ行きますよお~っ!!」

 アドの声掛けで、みんなは一斉にいまだ燃え盛っている伯爵残党の砦に向かって走り出した。

 上空には、ワイバーンの汚ったねーだみ声みたいな耳障りの悪い叫び声が響き渡っていたが、不思議と恐怖は感じなかった。




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