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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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7.なんてこった!!(3)

 一体何なんだ、この状況は。

 草原の一角に張られた大型のテント。ここは、奴の・・・パンゲア共和国軍最高司令官を務める、俺の一番会いたくない野郎でもあるハイデン・ハインの司令部幕舎のようだ。

 正面には豪華な机を挟んで、こりゃまた豪華な椅子にふんぞり返っている奴が、こっちを見てニヤニヤしていやがる。

 俺とアウラはと言うと、そんな奴の前で教師に叱られている生徒の如く立たされている。不思議な事に武器は没収されてはいなかった。

 理由は簡単だ。俺の周囲には帝国最強としてその名が轟いて居るフル装備の重装甲歩兵レッドショルダーが、俺達を囲むように詰めているからだ。その数二十余名。

 普通の人間だったら何かしようなどとは考える事すらはばかられる状況だろうな。いや、息をする事すら難しいことだろうよ。


「さて、今のこの状況はどういう事なのか、私が納得出来るような説明をしてくれるのだろうね、ムスケル君」

 ムカつく位に落ち着き払って言う奴に、俺は両の手の握り拳をこれでもかと握りしめていた。更に言うなら、奥歯もギリギリと嫌な音を立てていた。

 どう言ってやろうかと思案していると、意外な事に先にアウラが話し始めた。

「閣下、おかしらに代わって状況説明をさせて頂いても宜しいでしょうか?わたくし、アウラと申します」

 こいつ、怖いもの知らずか?緊張してねーんか?奴も奴だぜ、なんでそんな優し気な顔してやがんだよ。俺に話す時と大違いじゃねーかよ。もっとも、野郎にそんな笑顔で話し掛けられても気持ち悪いがな。

 アウラの発言に真っ先に反応したのは、鎧を着ていない奴の側近らしき男だった。

「小娘っ!将軍閣下の御前である、立場をわきまえよっ!」


 おうおう、おっかねーなあ。ずいぶんと気の短けー奴だぜ。もてねーぞ。

 だが、奴はそんな事は意に介さず、左手を上げてその側近の男を制した。そして、アウラに向かって笑顔で話し掛けた。

「ほう、そなたは私が怖くないのかな?よいだろう、この男よりは話がわかりそうだ。説明をして貰おうか」

「閣下!」

「よい!私がよいと言っておるのだ、さあアウラと申したか、話して貰おう」側近にはにべもなかった。


「有難うございます。では、説明させて頂きます。この大陸は先程おかしらが申し上げた通り、あるお方により我々シュトラウス大公国の領民を避難させる為に急遽造って頂いたものなので御座います」

「適当な事をぬかすなっ!」

「我々を愚弄するつもりかっ!」

「人間にそんな真似が出来る訳ないだろう!」

 奴の配下が口々に叫び始めた。まあ、にわかには信じられんだろうよ。

「黙れっ!」奴の一言で場は静けさを取り戻した。

「申し訳ない、続けてくれんか?お嬢さん」


 さすがに委縮していたアウラだったが、再び気を取り直して話し始めた。

「はい、造って頂いたのは真実です。ただ、人間に・・・とは一言も申してはおりませんが?」

「ほう、人間でなければ誰が造ったと言うのかな?まさか神様とは言わないだろうね」

 周囲の兵達から失笑が漏れ聞こえている。まあ、そんな反応なんだろうな、普通は。


「さすがのわたしでも神様などとは申しません。ですが、神様に準ずるお方と申しあげても間違いではないかと思っております」

「神に準ずるとは、大きく出たものだ。その様なものがこの世の中に存在すると、真剣に思っていると、そう言う事なのかな?」

「事実であります、閣下」

 暫くアウラを凝視したのち、奴は口を開いた。

「たしか貴国は神を信じる国だったな。我が国にはその様な宗教は存在しない。神と言ったら当然の事ながら皇帝陛下の事になる。空想のものに助けを求める事など、我が国の国民はしない。この場を誤魔化そうと戯言を言っているとは思えないが、、、その神に準ずる者とは何物なのだ?」


 アウラは俺に視線を投げかけてきた。「言ってもいいの?」と問い掛けてきているようだった。

 俺はそっと頷き、アウラは大きく息を吸ってから、しっかりとした声でその名前を告げた。

「竜脈を管理されている竜王様です」


 場は、静寂な空気に包まれた。そして、徐々に笑い声が沸き起こっていき、やがて幕舎内は笑い声に包まれた。


「閣下、こんな小娘の戯言など、聞くに堪えませんぞ。そもそも竜脈など物語の中の話しだ。竜脈を管理するなど話しにもならん。空想世界と現実世界の区別がついていないようですな」

 側近と思われる兵が奴に進言している。

「マイク、お前はこ娘のはなしを戯言だと断定出来る根拠がある、と言う事か?」

「さすがに、この状況で嘘を言うとは思いたくありませんが、あまりにも現実離れしております。竜王などと、伝説や物語の世界の住人じゃあありませんか?そんな事は幼い子供だって知ってますよ」

「うむ、私も基本的にはおぬしの考えと一緒なのだがな、どうも心の底に引っかかるものがあるのだよ」

「確かに。レッドショルダーに囲まれているというのに、この者共の不自然なまでの落ち着き。何か有るのではと言う疑念は拭い切れない所では有るのですが、ただのバカか、あるいはくだらない宗教を布教しようとしているのかもしれませんぞ」

「はて、どうしたものやら・・・」

 心の奥底まで見透かしそうな鋭い視線が、俺達に注がれている。俺は昔から奴のこの視線が苦手だった。ほんと全然変わっていない。


 その時だった。奴の背後のレッドショルダーが声を上げた。

「閣下、意見具申!」

「よい、言ってみよ」

「はっ、今現在我々はこの地に進出して来ておりますが、今の今までそのような存在の反応は何も有りません。これは、そもそもその様な存在はでまかせか、あるいは存在したとしても我々の事が容認されているものと考えて良いのではないでしょうか。まずは、ここに強力な橋頭保を構築してから、しかるべき行動に移るのが肝要かと考えます」

 その兵は直立不動で、一気にまくし立てた。どうやら、奴の所は自由に意見を交わす事が出来るらしい。

「うむ、その方の意見、もっともである。だが、こうは考えられぬか?」

 奴は意見具申をした部下を正面から見つめながら更に続けた。

「おぬしは道を歩いていて、もしボアに出くわしたら、どうするだろうか、当然、それなりの対応はするだろう。だが、蟻に出くわしたらどうだ?」

「無視しますっ!」

 部下の返事をニコニコと聞いて居た奴は、満足げに頷いて居る。

「そういう事だよ。我々の存在が蟻だった場合の事を考えているのだ。考えにくい事ではあるがな」

「閣下は、その竜王なる者が存在していて、我々の事は取るに足りない存在なので、無視されているとお考えなので御座いますか?」

 すると表情を破顔させると奴が答えた。

「あくまでも可能性の問題だよ。万が一、この者の言うような存在が居るのなら、、、さすがの我々も壊滅の危機に陥る可能性が あるのかな? とな」

「わはははは、そうでありますな。そんな存在が万が一居るのなら・・・・でありますな」

 そう言いながら、高らかに笑っていたその兵は、次の瞬間憐れみの表情でこちらに視線を送ってきた。全く信用していないのが、その表情からうかがえた。


「どうする、ムスケルよ。まだ竜王なる者が存在すると言い張るのか?」

 奴までも憐れみの視線を送ってきやがる。もうどうなっても知らんぞ。そう思っていると、そんな俺の心情を察したのか、アウラが話し始めた。

「閣下がどのようにお考えになろうと我々にはどうでも良い事です、お好きになされば良いでしょう。私共にはお止めする力は御座いません。ですが、私達は急いでお嬢を探し出さねばならないのです。くれぐれも邪魔だけはしないで頂きたいものです」

 すると、目を細めた奴が低い声で一言発した。

「お嬢さん、そんな我儘が許されるとお思いか?」

 奴はドスを利かせたつもりなんだろうが、そんなもんは俺達には通用しないぜ。

 アウラは満面の笑みで答えた。


「はい!許されるはずです」


 幕舎内が一瞬ざわついたが、奴の大きな笑い声でかき消された。

「わはははは、愉快だ!いいだろう、そのお嬢とやらを探しに行くといい。早く見付かる事を祈っておるぞ。道を開けてやれ」

「閣下っ!!」側近が奴を諫めようと声を掛けたが、その声は奴には届かなかった。

 俺達は、兵士達が道を空けてくれたので、大手を振って奴の司令部の幕舎を出ることが出来た。そして、改めて草原に足を踏み入れることとなった。


「しかし、おめーのその怖いもの知らずな所は、いったい誰に似たんだろうなぁ~。たいしたもんだぜww」

 まったくノー天気なおかしらは、笑いながらそんな事を言っているが、みーんなあなたに似たんですからね。

 思っても口には出さない賢いアウラだった。


 その頃帝国軍の司令部の幕舎では、慌ただしく事態が進行していた。

「閣下、宜しいので?あのような者達を開放してしまっては、帝国の威信に係るのでわ?」

 物凄い勢いで司令官であるハイデン・ハイン将軍に詰め寄った側近で副官でもあるマイク・シュミットであったが、将軍に簡単にいなされてしまった。

「おぬしは一体何年私の側近をしているのだ?何も学んでこなかったか?それとも、そろそろ休養が必要な年齢になったかな?許可するぞ、国に帰るか?ww」

 勿論これはハイン将軍の本意ではなかった。シュミットの発奮を期待しての言葉だった・・・・たぶん。


「諜報部長!」

「はっ、ここに」

 諜報部長と呼ばれたのは、帝国軍きっての精鋭部隊であるハイデン・ハインの軍団の中でももっとも相応しくないのではと囁かれている外見を持つ男、アルバート・ベルだった。

 身長こそ百八十ほどはあるものの、ひょろひょろで、果たしてこの男に筋肉は存在するのか疑問になるほど華奢・・・いやいや、貧相な身体をしており、強いウエーブのかかったシルバーの髪が顔の半分以上を覆っていた。

 周囲の者が彼を薄気味悪く思う一番の原因は、その目にあった。まったく感情が読みとれないどんよりとした彼の目は、見た人がみな身震いをする程不気味だったのだ。

 だが、そんな男ではあったが、この能力重視の司令官は外見にとらわれず常に重宝して、諜報部長というポストを与え遠征時には常に身近に置いて居たのだ。


「部長、報告を」

「はい、配下の者を十人づつ二十の班に分け、送り出した所で御座います」

「ほう、ほぼ全力だな?」

「はい、今動かねばいつ動くのでしょう?一つの班はムスケルの後を追わせました。残りの班には広く散ってもらい、竜王とやらの存在確認と、この大陸の調査をさせます」

「うむ、それで良い。良い知らせを待っておるぞ」

「はっ」


「閣下は、どの様にお考えなのでしょうか?本当にあのムスケルのような胡散臭いやからの言う事を真に受けるおつもりで?本心をお聞かせ願いたいものです」

「本心・・・か。何が正解なのかなんて、正直わたしにはわからんよ。わからないから余計に情報収集に力をいれるのだよ。今はそれでいいだろう。それにな、あのムスケルと言う男は一見ちゃらんぽらんに見えるが、嘘はつかない男だ」

「はあ、納得のいかない所もありますが、ここは閣下に従いましょう。アル、君も同じ考え・・で・・・アル?」

 マイク副官が諜報部長であるアルバートに声を掛けたのだが、一瞬前にはそこに居たはずだった彼だが、既に煙のように消えてしまっていた。

 これも、彼がみんなから気持ち悪がられる要因のひとつであった。要するに彼には存在感が無かったのだ。

 存在感が、薄いとかではなく、全く無いのだった。後ろに立たれたら、まず発見は難しいだろう。

「相変わらず薄気味の悪い奴だ」心底気味が悪そうにマイクは呟いた。


 帝国陣営でこんなやり取りがあった事など、もちろんムスケル達は知るはずもなかった。




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