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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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20/20

20.迫りくる脅威(2)

 すとっ


 俺の目の前の地面に一本の矢。地面に深々と刺さった一本の矢。

 矢。弓で撃ちだす、あの細長い奴。


「矢やねぇ」

「やだねー」

「やだ」

「やだよなぁ」

「やだなぁ」


 なぜ?なぜ、矢が撃ち込まれたんだ?

 友好的な相手に撃ち込む事は、あまりないだろう。

 という事は・・・敵?

 もしくは・・・間違い?

「そないな訳あれへんやろうに!」

 即座に突っ込んで来るポーリンだった。

「こら、ポーリン。おめーまで人の頭の中を覗くんか?」

 えへっと舌を出すポーリンだったが、その後意外な人物がその場の空気を変える事になった。

 空気が変わっても、危機的状況は変わらないのだが・・・。


「いや、これは間違いだ。間違いに決まっている。なぜなら・・・・この矢は、、、帝国の、我が帝国の矢だからだ」

「帝国のだとお?」

「ほな、味方なのか?なら何で攻撃してくるんよぉ?」ポーリンの疑問はもっともだった。

「間違いだ、間違いでないはずがない・・・」

「どうして私達は狙われているのぉ?」アウラ、疑問に思っているのはおめーだけじゃあねーからな。

「そや、そや、早う撃たない様に言うてやあぁ」

「これは何かの間違いだ。間違いは正さねば・・・」

 まだうなされたようにぼやいているハンスだったが、更に二の矢、三の矢が降って来る。


「こりゃあいかん、一旦引こう」

 敵だろうが、そうじゃなかろうが、取り敢えずは身を隠さないとあぶねー。

 こんな矢に当たったら洒落になんねーぞ。

 俺は、みんなに身振り手振りで一旦引くように意思表示をしたのだが、一人だけ無視をする奴がいた。

 そう、そういう事をする奴はあいつしかいない。そう、帝国を、と言うか大陸を代表する孟将ハンスだった。

 何を思ったのか、奴はおもむろに立ち上がって両手を左右に広げた。

 いったい何やっているんだと訝しんでいると、奴め叫び始めた。


「撃つのをやめろーっ!私は帝国の将軍であるハイデン・ハインである。味方である、今直ぐ攻撃をやめるんだ!」


 両手を広げながら大声で声掛けをしているハンスだったが、降って来る矢の数は減る事はなかった。

 やはり敵だったのか?

 しかし、たいしたもんだよなぁ、あいつ。あれだけ矢が降って来ているというのに、一本も当たらないなんて、どこまで悪運が強いんだ。

                                                                                                                                                                                                  

 なんて感心していると、不意に矢が飛んでこなくなった。

 やっと同士討ちに気が付いたのか?

 首を伸ばして、矢を撃って来た奴らがいるであろう前方の草原を凝視していると、一人の人間が草を掻き分けて現れた。

 ここからは多少距離があるのではっきりとはわからないのだが、そのシルエットからは男であろう事はなんとかわかった。

 それにしても、全身金ぴかな装身具で覆われた超派手な軍服?を着たまさに目立ちたがりっぽい奴だなぁ。誰なんだ?


〖ハイデン・ハインside〗

 その男は、戦場に出るには似つかわしくない派手な衣装で現れた。

 年の頃は三十代後半か?見る人を不快にさせる嫌な笑みを顔面に貼りつかせているその男、私はその男を知っている。

 我が帝国の国軍において私に次いで二番目の地位に就いて居て、常に虎視眈々と私の椅子を狙って居る、如何にもずる賢い感じが全身から滲み出ているその男。

 ハーマン・ロング 一応帝国の将軍だ。

 だが、実力で将軍になった訳ではない。金と恐喝、それと暗殺だな。

 邪魔な奴が居ると、どんな手を使ってでも引きずり下ろす、そういう事にだけ努力を惜しまない奴、それがこいつだ。

 それでいて、決して尻尾を掴ませない。そりゃあそうだ、秘密警察長官を抱え込んでいるんだからな。

 やりたい放題な訳だ。

 だが、なんで奴がこんな所に居るんだ?帝都にいるんじゃなかったのか?

 何を考えているのか分らん、用心せねば。


「ほうほう、誰かと思えば、帝国の誇る英雄、ハイデン・ハイン将軍様ではないですかぁ。こんな所で出会うとは奇遇ですねぇ。何をなされていたので?ww」

 例によって意地が悪そうに聞いて来る。不快だ。

「そういう貴殿こそ、何でこんな辺境の地に?帝都に居たのではなかったか?」

 何でこうにも嫌らしそうにニタニタ出来るのだろうか。

「そりゃあ、我が帝国の誇る英雄様がワイバーンに襲われて戦死なされたと聞きましてね、居ても立っても居られずに駆けつけたのですよ。ほっほっほっ」

「ほお、居ても立っても・・・ねぇ。生存の確認でなく、死亡の確認と言う所か?」

「なんとでも言ってください。私はかなりの幸運の持ち主だっていう事がたった今立証されたのです。今なら何を言われても怒りませんよww」

「幸運だと?何を言って・・・」

「ふふふ、私は大急ぎで将軍閣下の救出に赴いた。だが、時すでに遅く、将軍閣下はワイバーンに食べられて命を落とされていた  と、そういう事なのですよ」

「き きさまぁ」

「ふふふ、いくら騒いでも無駄ですよ。ここに来ているのは全て我が配下。あなたの味方は一人もおりません。あしからずww」

「な、我がレッドショルダーはどうしたのだ」

 勇猛な我がレッドショルダーが全滅など有り得ない。

「レッドショルダーですか?さあねえ、とんと見ませんでしたねぇ。さあ大人しく縛られて檻に入っていただけますかねぇ。私は忙しいのですよ。この先の焼け落ちた要塞で見付けたアダマンタイト製の不思議な像と、その近くで見付けた少女の妙に精巧な石像を本国に運ばなければならないのでね」

「なんだと?」

「ふふふ、あれらを持って帰れば、間違いなく私があなたに代わって帝国軍のトップだ。やっと目障りなあなたが居なくなるんです。今日は人生最良の日と言えるでしょうww」

「くっ・・・貴様」

「暴れても無駄ですよ。良い事を教えてあげましょう、貴方の屋敷には私の手の者が何人も入り込んでいるのですよ。これが何を意味するのか・・・賢い貴方ならお分かりとおもいますがねぇ」

「汚いぞっ!帝国騎士の面汚しめっ!!」

「なんとでも。貴方のその悔しがる顔を見れる日が来るとは、生きていて良かったですよ。それでは、牢屋で大人しくしていてくださいね。後で処分してさしあげますからww」

 そう言うと、奴は高笑いをしながら去って行ってしまった。

 私は後ろ手に縄で縛られ、狭い檻に入れられてしまったが、これで冷静に考える時間が貰えたと思えば、檻も決して悪い物ではないはずだ。

 奴は私が一人だけだと思っているみたいだ。きっとそれが油断に繋がるはずだ。

 こっちには軍師殿がいるのだ、きっと何か行動に移してくれるはずだ。ここは大人しく時が来るのを待つのが最善だろう。

 レッドショルダーを見なかったと言ってたな。と言う事は、私の普段の指導通りに行動していると言う事だ。きっとどこかに身を潜めているはずだ。結界回復の際、戦力になってくれると頼もしいのだが。

 アダマンタイト製の像を見付けたとも言っていたな。それはきっと結界と関係があるのだろう。その近くにあったという精巧な少女の石像とは、信じたくはないがシャルロッテ嬢なのか?なんで石に?復活出来るものなのか?

 うーむ、冷静に考えれば考える程冷静ではなくなって来るのは困ったものだな。

 妻とまだ幼い娘達も気になるが、今は気にしても詮無い事だ。

 まずは出来る事からやって行かないとだ。

 出来る事?うーむ、取り敢えず寝るか。気力を回復させなくてはこの先何も出来なくなるからな。

 私は、竹で編まれた狭い檻と言うか籠?の中であぐらをかいたまま静かに睡眠に入った。

 じきに助けに来てくれる事だろう。


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