18.やっかいな旅路(3)
ちくしょー!やられるっ!天から何かが降って来たのは、そう思って人生を諦めかけた時だった。
振り返った俺の目に映ったのは、剣を握りしめた二人の天使のシルエットだった。
おそらく、その時の俺は人生をほぼ諦めかけていたので、正常に判断が出来なかったのだろう。あの小憎らしい小娘達が天使に見えただなんて、一生の不覚だった。
「ここは、うちらに任してそのにーちゃんをロープに括り付けたってやあ」
偉そうに言うその声は、竜王シリーズのレイピアを構えたポーリンだ。
「おかしら、後ろはだあいじょうぶですから、落ち着いて作業してくださいねぇ」
もう一人は妖しく光り輝く竜王のダガーを両手に構えた二刀流のアウラだった。
感極まって何も言えなくなっていると、さらに天使が降って来た。
「えへへへ」
メイは竜王の円月輪と竜王のトンファーを構え、なぜかご機嫌だった。
さらに一瞬遅れて地響きと共に、やや大きな影が三つ。ジェームズ達三つ子だ。
「おらおらおら!手が止まっているぞ」
偉そうな声の主は、言わずと知れた帝国の将軍様だ。
「さっさと回収したら、ここから撤収だあ。もたもたするなあぁぁっ!」
相変わらずデカイ声だぜ。そんなデケー声で叫ばなくてもわかってるってーの。
「やってるよ!デケー声だすなよ」
ちっ、と舌打ちをしつつも、ロープと悪戦苦闘する俺。なんてかわいそうなんだろう。
結局、なんだかんだと、ほぼ全員が降りて来たらしい。
帝国は・・・って言うか、奴の教育の賜物なんだろうなぁ。
俺は俺で、色んなことを考えつつも、与えられた任務を遂行していたのだが、ここで想定外の事態に陥ってしまったのだ。
なんで、俺ばっかり、こんな苦労のオンパレードなんだよおーっ!思わず泣きたくなったぞ。
何が起きたのかと言うと、逃げ遅れた兵士にロープを括り付けたまではよかったのだが、引き上げる途中で彼が背負っていたミスリルの槍が船の外壁の隙間に刺さってしまい、上がる事も下がる事も出来なくなってしまったのだ。
船上ではおそらくみんなで必死にロープを引っ張っているのだろうけど、下から見た感じだと全く動いていなかった。
さらに最悪な事に、どうしようかと思案しているその時に、兵士の頭の所でロープが切れてしまったのだ。
だが、その兵士は落ちる事なく、船の脇腹の所で宙釣りになってしまっていたのだ。
「なんてこった。なんでこんな事に・・・」
思わず呟いた俺に、又しても正論をぶつけてくるのは、帝国の将軍様だ。
「泣き言を言っても事態は変わらん。どうするのがもっとも効果的なのかを考えるのだ」
「そんな事、おめーに言われなくたってわかっているわい!」
「なら、どうする?」
「う・・・・そ それは・・・」
そんな事いわれたって、すぐにいい手が思いつく訳ねーだろうがよ。
そんな時、助け舟を出してくれたのは、意外にも上甲板で舵輪を握っているアンジェラだった。
「みなさん、大至急船から離れて下さい。船を倒します」
とんでもねー内容の言葉が頭上から降って来たのだった。
「倒すぅ?船を倒すだとぉ?」
一瞬何を言っているのか理解が出来なかったが、そこは野生の本能が物を言って、反射的に船から離れたのだが、船から離れるって事は化け物に近づくって事で、俺達は再び大混戦となってしまった。
みんな必死で武器を振り回して、近づいて来る化け物を片っ端から薙ぎ倒していった。
そんな大混戦の中、ちらっと船の方を見ると、とんでもねー事になっていた。
一瞬ふわっと浮き上がった船が、なんとどんどんと傾斜を始め、しまいには横倒しになってしまっていた。何ちゅー大それた事をするんだ、あいつ。
だが、そんな俺の批判的な言動とは裏腹に、船を横倒しにしたその拍子に、船腹に引っ掛かっていた例の兵士がぽろっと船からはずれて岸に転がったではないか。
呆然とその様子を見ていると、船上からアドの声が飛んで来た。
「長くはこの態勢は維持できません。急いで戻って来て下さい」
その瞬間、敵味方入り混じっての短距離走となってしまっていた。
俺は、自慢じゃねーが、足は・・・遅い。図体がでかいんだからしょーがねーだろう。それでも必死に走ったんだ。
だが、腹の立つことにあの将軍野郎は俺と大差ない図体してやがんのに、物凄く余裕がありやがった。
船に戻りつつ、女性陣に声を掛けたり、後方をガードしてやったりしていた。いけすかねー野郎だぜ。
みんなが上甲板の手摺りに掴まったのを見ると、アンジェラは船を急速に起こし、そのまま川の流れに船を乗せて行った。
なんちゅー荒業をしやがるんだ。どうせアドの入れ知恵なんだろうな。
首筋の汗を拭っていると、帝国の将軍であるハンスが声を掛けて来た。
「おい、あれは何者なんだ?あれが蛮族と呼ばれる奴らなのか?」
「いや、蛮族はもっと小柄で人族の子供程度の大きさだな。それに皮膚もあんなに硬くねーし、力ももっと弱い。全くの別物だな、俺も初めて見たぞ」
「それじゃあ、あれはなんなんだ?新たなる人族の脅威って事なのか?」
「俺にそんな事聞くなよ。俺だって困惑してるんだからな」
「そうか、伝説級の武器を貰っておいて良かったって事か。従来の武器じゃあ刃が立たなかったかもしれんしな」
「そうだな。その点に関しては竜の爺さんに感謝だな」
「果たしてそうでしょうか?諸手を上げて喜んでいてはいけない気がしますが」
話しに入って来たのはアドだった。
「それはどういう事でしょう?」
怪訝そうに聞き返すハンスにアドは平然と答えた。
「あの者共は、蛮族の上位種ではないかと考えています。そして、竜氏は最初からその出現を知っていた。知っていて我々に今回の依頼をしてきた。だから、あのような武器を用意出来た。と考えると辻褄が合うのでは?」
「ふーむ。なるほどな。単なる善意ではないと。納得出来る内容ではあるな。だが、どれも根拠に乏しい。であるな?」
「ええ、どれもこれも推測でしかありません。ですが、一つだけ自信を持って言える事は、この先もっと強い敵が現れるのは間違いないという事です」
「同感だ。我々は、今後現れるであろうまだ見ぬ強敵に備えなければならないと言う事ですな」
「ちげーねー。だがあの歩く天変地異と言われるねーちゃんですら不覚を取る相手だぜ、気が滅入る話しだぜ」
「恐かったら降りてもいいのだよ?ムスケル君」
「けっ、言ってろよ」
俺は身を翻し船首の方に歩き出した。一寝入りする為に。まあ、寝られないだろうがな。




