15.パレス・ブラン(2)
ここは、聖女であるアナスタシアの姉~ちゃんが治める聖地であるパレス・ブランの中央に位置する、なかなかに大きな広場なのだが、何なんだろう今俺達は周囲を無数の領民に囲まれてしまっている。
この状況はまるでお祭り騒ぎのようだった。
祭りの中心にいるのは、竜の爺さんと俺の昔馴染みであり隣国パンゲア帝国の将軍であるハンスだ。
先の話し合いの際、竜の爺さんが、どうせ使いこなせないだろうと帝国兵達に武器を用意してくれなかった事が事の始まりだったのだ。
きっとプライドが許さなかったのだろうな。あなた方に渡しても使いこなせないのでなんて言われたら、引っ込みがつかないだろうなぁ。
実際に使いこなせるか、自ら証明してやろうという事なのだが、まあ、無駄に終わるであろう事は目に見えているんだがな。
そして、この周囲を取り巻く群衆は、その様子を見に集まった野次馬ってところだ。
「さあ、我々にも使いこなせるって事を証明して見せて差し上げようじゃないか。その竜王の武器とやらを出してもらおうか」
どうも態度がでかいのは、昔からなのだが、もう治らんだろうなあ。
そんなハンスの態度などはまったく気にしていない感じの竜の爺さんは、終始ニコニコ顔だった。格の違いってやつなんだろうか。
やがて竜の爺さんは、群衆が固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと右手の甲を上にしてハンスの目の前に差し出した。そこにはいつの間にか一本の小ぶりの剣が握られていた。
怪訝そうな顔で見ているハンスに竜の爺さんは説明を始めた。
「この剣はポーリン嬢の為に竜王様が用意された、そうあなた方が言うところのレイピアと言う種類の剣になります。お試しになられますか?」
その剣は、確かに細身で長さも短く、見るからに軽い女性でも使いやすいだろう剣に見えた。
おもむろに右手を差し出し、竜氏の右手から剣を受け取ろうとした帝国の将軍だった。精悍な体格を持つ彼にはあまりにも貧弱に見える剣だったが、握った瞬間将軍の眉間がぴくりと動いた。
そして、みるみる表情が変わって行った。
「むむむむむむむむ、こ・・・これは、どうした事だ」
重さで言ったら、将軍の持つ大剣の一割にも満たないであろうその小ぶりの剣を握ったまま冷や汗を流しながら固まっている将軍のその姿に、周囲の群衆はざわざわと騒がしくなった。
「さあ、どうぞお試しになって構いませんよ」
静かに煽る竜氏に、帝国の将軍は両手で剣の柄を握り、顔を真っ赤にしたまま唸り出した。
「ぬおおおおおおおおぉぉぉ・・」
だがその踏ん張りとは裏腹に、剣はぴくりともしていないようだ。
それを静かに見ていた竜氏は、そっと剣を握っていた右手を開いた。
すると、剣は切っ先を下にして一直線に落下。地面にめり込んでしまった。
周囲からは「おおおおおおおお」と驚きの声があがった。
その後も帝国の将軍は地面に刺さった剣を握りしめたまま唸り続けていた。だが、剣はまるで根が生えたみたいに地面に刺さったままだった。
だが、この将軍は諦めることを知らなかった。この諦めの悪さが一流たる所以なのであろう。
周囲で事の成り行きを見守っていた野次馬も、一人、一人と減って行き、ほぼ居なくなった頃だった。
全身汗まみれになった将軍は、ひと際低い地響きのような雄叫びとともに最後の力を振り絞った。
「ほう・・・これは、驚きました。人族もなかなかやるものですねぇ、見直しましたよ」
目を細めた竜氏は、珍しく感情を表に出して呟いた。
将軍の持った剣がゆっくりと地面から浮き上がり、将軍の胸の位置にまで上がってきたのだった。
「うおおおおおおっ!!どうだぁ」
客観的に見ると、大の大男が子供用のようなか細い剣を必死になって持ち上げているその光景は、奇妙の一言に尽きたのだが、この事は物凄い事である事は竜氏の表情が物語っていた。
パチパチと拍手が聞こえて来た。竜氏だ。
「素晴らしい!見直しました。ですが、その状態で戦いが出来るのでしょうか?やはり、まだまだ力が足りませんね」竜氏は淡々と言った。
「ぬかせっ!こんな重い剣、誰が持ったって使い物にならんわっ!!」
その一言と同時に、剣は鈍い音をたてて再び地面にめり込んでしまった。
「そうでしょうか?ポーリンさん、その剣はあなたの物ですよ。どうぞその手に取ってやってくださいな」
帝国の最強の将軍の鍛え抜かれた強靭な肉体ですら持ち上げるのがやっとの剣だぞ、この竜の爺さんは華奢な少女にどうかできると思っているのか?
「え?え?こんな重い剣、うちなんかじゃ無理やで?話にもならんわあ」
当然、ポーリンはおろおろしてしまっている。
「さあ、騙されたと思って試してみてくださいな」
竜氏の自信たっぷりの言い様に、ポーリンはそろそろと剣に近寄って行った。そして怖々と剣の柄を握ると、一気に力を込めた。
「うわあああぁぁぁっ!!」
その場は時間が止まってしまったように、物音ひとつしなくなった。動く人も居なかった。
みんな、凍ってしまったようにその動きを止めてしまったのだった。
いったい何が起こったと言うのだろう。そこには、騙されたポーリンが居るだけのはずだ。
何てことは無い、ポーリンが剣に近づき、両手で剣の柄を握り力を込めただけの事だった。
ただ、将軍の時と違ったのは、力を込めたとたん剣は地面からまったく抵抗も無く抜けてしまったのだ。まるで重さそのものが存在しないかの様に。
その結果、ポーリンは勢い余って剣を握ったまま盛大に後ろ向きに尻餅をついてしまった。
見守っていたみんなの視線は、ポーリンが握っている剣に集中したのは言うまでもない。当の本人すら自らの手に握られている剣から目が離せないでいる。目がこぼれそうな位に見開かれているが、本人には自覚はないのだろう。
暫くは誰も言葉を発する事が出来なかった。
最初に声を発したのは将軍であるハンスだった。
「お お お おい、いったいどうなっているんだ?あんなに重い剣が何でそんなに簡単に抜けたんだ?何がどうなっているんだ?一体何をしたのだ?説明せよ」
説明しろと言われたって、そりゃあ無理だろう。引き抜いたポーリン自身が一番驚いて居たのだから。
ややあって、右手に剣を握ったままのポーリンがよろよろと立ちあがった。
「お おい、おぬし、その剣は百キロはあるんだぞ、そんな細い腕で重くはないのか?」
「へっ?」
将軍の声に反射的に振り返ったポーリンだったが、剣を握ったまま振り返ったので、至近距離にいた将軍の目と鼻の先を剣の切っ先が横切った。
「おわあぁぁっ!!」
悲鳴と共に人並外れた反射神経で後ろに飛び退った将軍は、勢い余って後ろ向きに地面に転がってしまい無様なさまをみんなの前で披露してしまったが、そんな事は誰も気にしてはいなかった。
「あ 危ないではないかっ!!」
尻についた埃を掃いながらよろよろと立ち上がった将軍は、口をぽかんと開いたまま動けずにいた。
持ち上げるのも一苦労だったあの剣を、細い手足の少女が軽々と振り回しているのだ、奴にはさぞや有り得ない光景に見えただろう。
俺ですら信じられないんだからな。他のみんなも同じ気持ちだろう。あ、いや、竜の爺さんだけは想定内か。
「信じられん。どうなっているのだ?私はいったい何を見ているというのだ?」
呆然自失だったのは将軍だけではなかった。その副官であり参謀でもあるマイクも唖然としていた。
「信じられませんな。恐ろしい少女が居たものです。あんな女を嫁にしたら、怖くて夫婦喧嘩なんか出来ませんな」
「そうだな。タンスを投げつけられそうだな」苦笑まじりの将軍だった。
「ですが、あの剣と娘を手に入れられれば我が帝国にとってかなりの戦力になりますぞ、空飛ぶ船も含めてですが」マイクは真剣に考えているようだった。
「剣も娘もお前に扱えると思うか?お前に限らず他の誰にも扱えないのではないか?」
「確かに・・・」
帝国の二人はとんでもない事を話していた。
「どうですかな?帝国の将軍よ。扱えそうですかな?」
聞かなくても答えは解り切っているだろうに、竜氏は敢えて聞いて来る。
「そう苛めんでくだされ。竜の人よ。この身でしっかりとこの身の未熟さを確かめましたから。私はこの自前の大剣で頑張るとします」
「納得頂き幸いですな。しかし、協力を要請する立場上このままと言う訳にもいきませんでしょう。竜王様の剣ほどではありませんが、そこそこ良い武器を提供いたしましょう」
すると、竜氏の足元がぼんやりと光り出し、その光が眩い光に変わったと思うと、光は突然に消え去りそこには多数のロングソード、大剣、槍、弓が現れた。
「気に入ったものがありましたら、お使いください」
意外と気前のいい竜氏だった。
この竜氏と将軍とのやり取りで、歓喜したのは帝国の兵達だった。
まるでおもちゃを見せられた子供のように我先にと武器の元に殺到したのだった。
それもそのはず、竜氏が出した武器類は、なんとミスリル製という、たいへん希少な金属で造られた武器だったのだから。
みんなは、思い思いに武器を手にして、恍惚の表情で自分の物になった武器に頬ずりをしているのだった。
「閣下、閣下にお似合いの剣を確保しましたぞ」
側近のマイクが、息を切らしながら将軍に差し出したのは、黒光りする大剣だった。
「こ これは・・・」
呆然としつつも、反射的に大剣を受け取った将軍は吸い込まれるように大剣に見惚れてしまっていた。
「ほう、貴殿はいい物を手に入れましたな。その剣はレア中のレア素材で造られていますぞ」
珍しく楽しそうな竜氏だった。
「レア中のレアですと?これが?」心底驚いた風の将軍に向けて竜氏が放った言葉は、一度では理解するのが難しい内容だった。
「それは、アダマンタイト製ですな」
「ア アダ・・・?それって、ほとんど伝説級の素材じゃあないですか?そんな貴重な物を・・・」
「シャルロッテ殿の捜索と救出、それに結界の回復をお願いするのですから、この位は致しませんと」
ニコニコの竜氏の顔が何故か怖く感じるのは気のせいではないだろう。果たしてこの中で何人がその事に気が付いているのだろうか・・・。
「さて、皆様。武器はお気に召して頂けましたでしょうか?その武器でなら、ワイバーンとも互角以上で戦えるはずです。皆様の無事のお帰りを、心よりお待ちしておりますれば、時間がございませんので、そろそろご出立をお願い出来ますでしょうか」
やるものやったんだ、さっさと行きやがれと、言わんばかりの竜氏の追い立てだったが、気にする人は誰もいなかった。
なぜなら、みんな自分の新しい武器に夢中だったからだ。まあ無理も無いww
俺は何貰ったかって?そりゃあ決まっているだろう。俺にピッタリなのは黒光りする大剣!これ一択だろう。奴とお揃いなのは気に入らねーがな。
ポーリンは竜王のレイピア。アウラは竜王のダガー。メイは竜王の円月輪と竜王のトンファー。
アダマンタイトの大剣貰っておいて文句を言うのもなんなんだが、何であの娘っ子達だけ竜王シリーズなんだ?俺にも竜王の大剣とかあってもいいんじゃねーのか?なんかもやもやするぜ。
そんなこんなで、俺達は休む間もなく再び船に乗り込んで、大空を北へ北へと向かっていた。
相変わらず帝国兵達は、お祈りするか、必死に欄干にしがみつき目をつぶっているかだった。
流石に将軍様は、そんな無様な事は無く、颯爽と甲板上に仁王立ちだ。座りゃあいいのに頑固だからww背中が汗でびしょびしょだぜ。
今回の遠征は、かなりヤバイ気配がしたので、メンバーは限定にする事になった。
こっち側は俺、アド、ポーリン、アウラ、メイ。帝国側は将軍のハンス、副官のマイク、それとレッドショルダーの中でも精鋭の重装甲歩兵が十名、偵察専門の軽歩兵が五名それに唯一空飛ぶ船を操縦出来るアンジェラの二十三名による決死行だった。
船の舳先は東部要塞の最奥にある、あのワイバーンが大挙して押し寄せて来た山間の平地に向けられていた。
そのあたりでシャルロッテの嬢ちゃんの気配が消えたそうだ。まずはそこに行くべきだろう。
だが、あそこには水場がなかったとおもうので、船は海岸沿いの入り江に隠して我々は徒歩で現地に向かう事になった。
帝国兵の生き残りが居ても、こっちにはハンスが居るから問題はないだろう。問題はワイバーンの再来だけだな。
竜の爺さんが言うにはワイバーンにも対応可能だとの事だったが、どこまで信じていいもんだかな。
騙されたと思って戦って、騙されていたらしゃれにならんしな。用心するに越したことはねーぜ。
まさかとは思うが、ダーク・エンジェルが来やがったら、そこは未知数だしな。帝国の残党と協力してもどうなるのか分かったもんじゃねー。
ムスケルが主人公になったとたん、来訪者が減ってしまった。
これもひとえに私の力不足です。
ムスケル編は早目に切り上げるべきなのかな?
ごめん!ムスケル




