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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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12.呉越同舟(3)

 次第に大きくなって来た船は音もなく我々の待つ城塞最上階に接岸した。

 その様子を驚愕の表情で見上げて居る帝国の奴らは声も無かった。

 アンジェラのやつ、腕を上げやがったな。嬉しくなって思わず笑みがこぼれるのをあいつに見られてしまった。

「なににやけている」

 半分固まったようなぎこちない表情でハンスが絡んで来た。話す事で怖さを紛らわしているのだろう。

「別にぃ。にやけちゃいねーぜ。それよりも、顔色が悪いんじゃねーか?いつも顔色を変えないオメーらしくねーじゃねーかww」

「ほっとけっ!!それよりも、本当にこれに乗るのか?」

「ふふふ、怖いんなら無理に乗らなくてもいーんだぜ。だけどよ、これに乗らねーと脱出は出来ねーと思うぜww」

「だからあ、怖がってなどおらん!ただの確認だ」

「はいはい、そういう事にしておいてやるよww」

「むむむむむ・・・」


 そんな和気あいあいとした会話をしている一方で、船への乗り組みはどんどん進んでいた。

 おっかなビックリではあるが、奴の部下もどんどん乗り込んでいる。

 俺も奴の事は放置して船に乗り込んだが、上甲板は既に帝国兵でごった返していた。

「おう、操船が見違えるように上達したじゃねーか」笑顔で舵輪を握ったままのアンジェラに声を掛けた。

「えへへ、そうですかぁ?嬉しいです~ww」

 嬉しそうにはにかむ彼女が頼もしく思えた瞬間だった。

「アンジェラさ~ん、もう出発して大丈夫ですよお~」

 そんなアウラの声が甲板上に響き渡った。


 その声を合図に船はゆっくりと城塞から離れていった。

 ぐらりと大きく揺れたと思うと、ぐぐーと舳先を巡らせ、気が付くと今まで俺達がいた城塞が真後ろになっていた。

 甲板上では、「おおーっ」という声がそこかしこから聞こえて来たが、やがてその声は「おおーっ?」に変わっていくのにさほど時間はかからなかった。

 なぜなら、城塞を離れた船の高度が次第に下がりだしたからだ。

「アンジェラさーん、どないしたんやあ?下がってきよるでえぇ」ポーリンの叫ぶ声が聞こえる。

 確かに徐々に高度が下がってきている。どうしたんだ?

「おそらく帝国兵のせいでしょうね」アドが冷静に呟く。

「どういう事でぃ」

「重いんですよ。大勢乗り込んだ上に、全員が上甲板に集まって居ます。重心が高くなり過ぎたせいで船がひっくり返りそうになって、それを修正するのに必死になっているので高度を維持出来なくなったのでしょうか?他にも理由がありそうですがねww」

「じゃあ、どうすればいい?奴らに飛び降りてもらうか?」

「彼らも納得しないと思いますよお。それよりも彼らが暴挙に出なければいいのですが・・・」

「暴挙だと?いったいどんな・・・」

 言いかけた俺だったが、言い終わる前に暴挙とはなんだか理解して、と言うか理解せざるおえなくなってしまった。暴挙がはじまったのだ。


 それは帝国兵の怒号から始まった。

「かせっ!!満足に操船も出来ない貴様の様な小娘になんかに大事な舵を任せられるか、この船の操船は我々がやるっ!!」

 そう言って、一人の帝国の装甲歩兵がアンジェラを舵輪から引きはがして自ら舵輪を握ってしまった。

「あーあ」アドが天を仰いでいる。

 その瞬間、船は操り糸が切れた操り人形のように力を失い、急な角度で降下を始めたのだった。

 いきなり垂直に墜落しなかったのは、まだ近くにアンジェラが居たので、若干制御が出来ていたのだろうか。

「だめですよぉ、そんな事をしちゃあ」

 慌ててアンジェラが舵輪に飛びついたので、船は安定を取り戻そうと舳先を持ち上げ始めたのだったが、急降下をしたせいで高度を一瞬で失っており、大地はもう目の前に迫っていた。

 アンジェラの必死の操船のおかげで、船は近くにあった沼に頭から突っ込んで巨大な水柱を上げながらも無事に着水したのだったが、甲板に居た全員は頭から沼の泥水を浴びてずぶ濡れになってしまったが、取り敢えず全員無事に済んだのは幸運だったと言っても良いだろう。

 ただ、暴挙に出た帝国歩兵の姿は、振り落とされたのだろうか船上のどこにも見当たらなかった。

 船自体には損傷は認められなかったのだが、沼に着水したその勢いで、沼の柔らかい岸に頭から突っ込んでしまい、かなりの部分が泥にめり込んでしまっていた。

 甲板に居た全員は頭から沼の水と泥をまともにかぶってしまい、誰が誰だかわからない状態になっていた。

「アンジェラさんの咄嗟の行動で命拾いをしました。どうですか、出られそうです?」こんな時でもアドは冷静だ。

 少しの間舵輪を握りしめて唸っていたアンジェラだったが、やがて項垂れてしまい、申し訳なさそうに言葉を紡ぎ出した。

「あのお、結構激しく泥に突っ込んでしまっているみたいで、そのお、びくともしません。せめてもう少し船が軽くなればなんとかなるかと思うのですが・・・」

 その報告を聞いて、一人の泥の塊が立ち上った。

「そうであるか。愚かな部下が申し訳ない事をした。謝罪しよう、すまなかった。それでここから脱出するには船が軽くなれば良いのだな、相分かった。者共、直ちに船から降りよ!」

「閣下!この泥の中に降りるのですか?」その声は、副官のマイク氏のようだった。

「そうだ。どうせ既に泥だらけなのだ、何も問題はあるまい。さあ、さっさと降りるぞ!」

 そう言い放つと、将軍自ら先頭に立って、舷側にぶら下がっているロープを使いするすると船から降りて行ってしまった。

 上官が泥の中に降りて行ったのだ、部下が尻込み出来る訳もなく、部下の装甲歩兵達も我先にと降りていった。

「やれやれ、とんでもねー事になっちまったな。しかたがねー、俺達も降りるか・・・」そうぼやいて手摺りに手を掛けた時、アンジェラに声を掛けられた。

「あ、おかしら達は降りなくても大丈夫ですよww」

「なんだってぇ?」

「実は・・・降りなくても大丈夫なんですよww」悪い笑みを浮かべたアンジェラはどこかしらシャルロッテに似ていたのは気のせいではないだろう。

「どういう事だ?」

「えへへ、彼らにこの船上での立ち位置を認識してもらおうと思いましてねww」ニヤリと笑ったその顔、実に悪党顔だった。

「な なるほど・・・お前、だいぶ悪に染まってきやがったな」

「へへへ、じゃあここから離水しまーす」

 そう言うと、船は一瞬身震いをすると、ゆっくりとその大きな船体を持ち上げ始めた。

 船外からは、おおおーっと感嘆の声が聞こえて来る。


 その後、再び泥だらけの帝国兵達を乗せて、近くにあった綺麗な池に向かい、そこに着水した。

 しばし、その池で清掃タイムとなった。幸いな事に今宵は年に数回あるダブル満月の夜だったので天上の二つの月はともに満月となり、夜とは思えないほどの光量があったので、清掃作業をするには何ら支障はなかった。


 俺はやる事も無いのでマストに昇りそのてっぺんでぼんやりと月を見ながら考え事をしていた。

 何を考えていたのか、それはアンジェラの豹変ぶりについてだ。

 本当に豹変したのか、元々の性悪が露呈しただけなのか、誰かの影響を受けてしまったのか、俺にはわからなかった。

 やはり一番考えられるのは、シャルロッテとアドの影響なんだろうなと思う。うん、それしかないだろう。

 なんか女性不信になりそうだ。

 そんな事を考えていると、不意に後に人の気配がした。後ろだって?ここは、マストのてっぺんだぞ!なんで後ろに人がいるんだ!?

 振り向くのが怖かったが、気配の主を確かめない事には落ち着かないってもんだ。


 そこに居たのは・・・人なんだが、人ではなかった。

 いやいやいや、何を言ってるんだ?俺。

 そこに居たのは・・・全身黒づくめの老紳士だった。こいつ・・・どこかで見た覚えが・・・。

「あーっ!!思い出したっ!おめー、あの竜王の手先じゃねーか。驚かすんじゃねーぞ、何でこんな所にいやがる」

 俺は動揺を隠そうと、つい大きな声をだしてしまった。

 その結果、甲板上にいた他の連中にも気づかれて、こっちを指差しててんでに何か言っているじゃあねーかよ。

 焦っている俺を放置して竜王の手先は、まるで羽毛のようにふわりと甲板へと降りて行ったので、俺も後を追って急いでマストから降りる事にした。


 甲板上は大騒ぎになっていた。アウラ達はキャーキャー喜んでいたが、帝国兵達は不意に空から降って来た得体の知れない紳士に敵意剥き出しになっている。まぁ、無理もねーか。

「将軍様、この方はこの大地をお治めになっている竜王様のお使いの方で怪しい方ではありませんのでご安心を」

 アドはそう言うが、そう簡単に安心など出来ないだろうよ。実際に帝国兵達は剣のつかに手を置いたまま身じろぎもしないで凝視しているのだった。

 だが、ハンスはさすがに将軍になるだけの事はあるようで、相手の力量を推し量ったと見え、警戒は解いていた。

「その方、竜王の使いとの事だが、すなわち人では無いということでいいのか?」

 不躾な質問では有るが、彼は我々よりは上の次元の存在なので気にもならないのだろう、ニコニコと微笑んだままハンスの質問に答えてくれた。

「ええ、私はヒトではありません。ですが、竜王様のような強大なお力は持ち合わせてはいない、ちっぽけな存在でございますよ」

「ほうほう、ちっぽけでも、我々人族よりは強力な力をお持ちとお見受けするが?」

「そうですな、多少はヒトよりは強いですかな?」

「ふむ。では、一度お手合わせを願いた・・・・い」

 言い終わると同時に、ハンスの姿がぶれて見えた。次の瞬間ハンスの姿は竜のつかいの目の前に居た。

 そこでハンスは自慢の剣を抜いて振りかぶったまま固まっている。

 よーく見ると、ハンスの剣は竜の使いの右手一本、それも親指と人差し指の二本で受け止められていたのだった。

 しばらくそのまま固まっていたが、「ふはははは」と言うハンスの笑い声を切っ掛けに二人は緊張を解きゆっくりと離れていった。

「さすがは竜種というべきか。この私でもまったく話にもならんではないか。見事である」

 こいつ、なんで上から目線で言うんだ?


「ところで、何か御用があったのでは?」

 空気を読まないアドのその一言で、この場の変な空気は一瞬で消え去った。こいつの自己中心的な所もたまには役に立つもんだなと感心したのもつかのま、竜の使いの一言で、場の空気はさらに変わってしまった。


「アナスタシア様がお呼びです。すぐに来て頂きたいとの事です」


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