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俺はムスケル、不幸を纏う漢  作者: 黒みゆき


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11.呉越同舟(2)

 俺達は、船が迎えに来てくれる予定の会合地点である東部要塞の最奥にある城塞のバルコニーを目指して、薄暗い通路を歩いて戻って来て居た。

 来る時と違ったのは、居なくていい・・・と言うか、居て欲しくない奴らが、ずうずうしくも一緒に来て居る事だ。

 何でこんな事になったんだ。


 そもそもだ、今回この東部要塞と呼ばれる場所に来たのは、一緒に旅をして来たシャルロッテと言う娘っ子の兄貴だかがこの要塞を治めていると言うので会いに来たのだった。

 はるばる来てみれば、その兄貴は部下だったフィレッチアの一派の裏切りにあって幽閉されていて、旅の目的がその兄貴の奪還になってしまった。

 多少、当初の予定とは違ってしまったが、無事娘っ子の兄貴の奪還に成功して、さあ帰ろうとなったそのタイミングで肝心の娘っ子が疾走 いやいや、失踪してしまったんだ。

 ん?疾走でも合っているのか?みんなで船に乗り込んだ時、突如あいつが船から飛び降りてもうもうと水蒸気が上がる通路の中に走って行ってしまったっていうんだからな。

 おかげで俺達はあいつを追う羽目になってしまったんだ。要塞の更に奥にフィレッチアの一派が逃走用に掘ったとみられる通路が見付かったのでその通路を通って東部要塞の裏側に到達した。そこは海に面した草原で、その奥でフィレッチア派の連中が閉じ籠っている砦を発見した。

 その砦を取り囲んで居たのが、あろう事かお隣りのパンゲア帝国の軍勢だっていうじゃねーか。ホント驚いたよ。はるばる海を渡って探検しに来たんだろうな、暇なこった。

 その軍勢を率いているのが、俺が一番会いたくない奴、大陸一の精強さを誇るレッドショルダーを率いる大将軍、ハイデン・ハインだったって事だ。


 フィレッチアの一派は奴とレッドショルダーが滅ぼしてくれたから面倒がなくて良かったんだが、なんとそこにワイバーンの群れという想定外の奴らが乱入してきて、草原は阿鼻叫喚の場となってしまったので、俺達は引き返して来た。決して逃げて来たわけじゃあない、あくまでも転進しただけだ。ワイバーンなんぞ帝国兵が居るんだから追い払ってくれるだろうからな。

 それなのに・・・。

 それなのに、帝国の奴ら、俺達の後を追って一緒になって逃げて来やがった。ワイバーンはどうした?大陸一の軍団は名ばかりか?

 帝国兵が逃げ込んで来るのは、なんとなく予想はできたんだが、まさか将軍自ら先頭を切って逃げ込んで来るなんて・・・。

 俺達はどうしたらいい?一緒に逃げるか?それとも、ここに踏み止まって奴らを食い止めるか?

 俺には判断が出来なかった。こっちは、三つ子と俺の四人。向こうは・・・何人居るか不明だ。アドが居れば判断を任せるんだが、居ないもんはしょうがない。

 俺的には奴と一緒になんか逃げたくない。あ、逃げるんでなく、転進だ。

 おまけに・・・だ。言うに事欠いてあの野郎、俺達の失踪人捜索を手伝うなどと言い出しやがったんだ。

 いったい何考えてやがるんだ。そんな戯言一笑に付して、力づくで追い返そうと思っていた時、アド達が戻って来やがった。

 それだけならいざ知らず、奴らの従軍を許可しやがった。おまけにあの野郎、アドの指揮下に入るなどとぬかしやがったぜ。

 反論したかったのは当然の事なのだが、俺じゃああいつの口には勝てん。不本意ながら従うしかなかった。


 ま、今の俺達の置かれた状況はわかったであろうか?

 何とも情けない話である。

 だが、奴はどう思って居るんだろう?

 奴とは、今俺の前を意気揚々と歩いている、純白の鎧を着た将軍様であるハンスの事だ。

 あんな年端も行かない小娘の指揮下に入るだなんてよくもまあ恥ずかしげもなく言えたもんだ。プライドがねーのか?今回ばかりは奴の腹心のマイクだったか、奴に心から同情したぜ。

 結局、帝国側は将軍のハンスを筆頭にレッドショルダーと呼ばれるエリート重装甲歩兵が十二人と一般の重装甲歩兵が三十人。それと例の我々を監視していた十名の軽装備の歩兵が合流して来たのだ。かなりの大所帯だぞ。

 しかし、妙だな。これだけの兵が生き残っていたのなら、力ずくで俺達を制圧出来ようなものなのに、なぜアドの指揮下に入るなんて言ったんだ?何を考えているんだ?

 すると、又俺の思考を読んだかのように、アドが小声で話し掛けて来た。

「このまま帝国に帰ったら敗軍の将になってしまいますからね、多くの兵を失った責任を取らされるでしょう」

「なら、このまま我が国に投降しようってか?あいつが?あのプライドの塊のあいつが?」

「いえ、それは有り得ないでしょう。おそらくは我が国を制圧するか、どこかに安全な拠点を設けて、本国から援軍を呼び寄せるかを目指すのでは?」

「そこまでわかっているのなら、何で引き入れたんだ?このままならいつ寝首を掻かれるかわからんだろうが」

「それは大丈夫でしょう。こちらの手の内を調べ切るまでは、動かないでしょうよ」

「なんでそんな事が言えるんだ?」

「彼が馬鹿でなければ、今は動かない方が利口だと考えるはずです。おそらくワイバーンが現れたのですから、もっと厄介な敵が居るかも知れないと思うでしょう。それなら暫くは我々に従っておいて、動くとしたら情報を集めた後の方が確実でしょうね」

「をいをい、俺達だってそんな敵が居るかなんてわかっていないだろうがよ」

「向こうはそんなこちらの事情は知りませんよ。まずは様子見って所でしょうね」

「そんなもんなのか?俺にはわからんなあ」

「ふふふ、おかしらには、まだ難しいですよww」

「なんか、むかつくなぁ」

 ムカついている俺の背中をぽんぽんと叩きながら、アドの奴は離れて行った。なんか子供扱いされてねーか?なんなんだよ。


 気が付くと、見慣れない場所に着いた。当初目的地にしていたバルコニーは低層階にあったため、吹き出して来た溶岩に覆われて使用が出来ないので、最上階に来たのだそうだ。

 さすがにここまで来ると、熱気と水蒸気、そしてあの卵の腐ったような臭いはかなり薄まっていた。

 アウラ達は迎えのアンジェラに知らせる為の狼煙をあげる準備に忙殺されていた。

 こうなると俺のする事は無いので、ぼーっと空を見ていたら、人の気配がしたので視線を降ろすとハンスだった。

「おい、あいつらは何をしているんだ?焚火たきびでもするのか?それとも炊事なのか?」

「あ?迎えに合図してるんだよ。ここに居るってな」

「迎えだと?こんな高い所にか?見た所地上からは二十メートル以上あるのではないか。それに溢れ出した溶岩で、この建物に近づく事なんてどう見ても不可能だろうと思うのだが?」

 ああ、そうか、帝国には空飛ぶ船なんか無いよな。そりゃあ不思議だよなww

「いいんだよ。俺達の迎えにはそんな事は問題にならないんだよ」

「はあああぁぁ?おいっ、貴様っ、閣下にいい加減な事を言うと、この私が只ではおかんぞ。こんな所、ワイバーンでもなきゃあ来れんだろうが」

 奴の副官のマイクが、凄い勢いで話しに割って入って来た。

「落ち着けマイク。今は騒いでもしょうがないだろう。ここはお手並み拝見といこうじゃないか」

 ハンスがなだめると、副官は簡単に大人しくなった。

「閣下がそうおっしゃられるのでしたら・・・」

 シュンとした副官を尻目にハンスが何やらニヤニヤしながらこちらを見てくる。

「な なんだよ」

「いやね、何で私があのお嬢さんの指揮下に入るって言ったのか、不思議がっているのかなと思ってな」

「けっ、そんな事俺には興味ねー」

「ふっ、昔から変わらんな。実はな、お前が大人しく従っているからな、面白いと思ったのだよ。私をどのように使いこなすのか見てみたいと思っただけだ」

「きょーみねーって言ってるだろうが。勝手に言ってやがれ」

 俺は、さっさとその場を離れて狼煙の方に歩き出した。

 まだ煙はそこまで太くなく、細い糸みたいになって天に昇っていた。

「あ、おかしら。もう少し待ってね。今ジェームズさん達と帝国の人が燃える物を探しに行ってくれているから。そうしたら一気に燃やすからね」

 火種の面倒をみていたメイが近寄って行く俺に気が付いて声を掛けて来た。

「お おお、頑張ってくれよ」

 なんか気まずい気がして、俺はこの要塞屋上の端に向かって方向転換をして歩いて行き手摺りにもたれた。

 眼下は相変わらず物凄い水蒸気と登って来る熱気が凄かった。地表では真っ赤な悪魔が舌なめずりをしているようだった。落ちたらひとたまりもねーんだろうな。


 しばらくすると、メイが言ったとおり、三つ子と帝国の軽歩兵達が両腕に燃える物、恐らくドアを壊して来たんだろうな、バラバラな大きさの木の板を抱えて上がって来て、一直線に焚火の方に歩いて行く。

 ああ、これで狼煙は大丈夫だな。後は船に乗り込んで帰るだけだ。

 肝心の目的だった娘っ子の捜索は、又最初から作戦を練り直さないといけないのか。しかし、この要塞の奥には居なかったからなぁ、後はどこを探せばいいって言うんだ?

 まあ、どうせここを脱出出来たら、又アドが何か考えてくれるだろう。俺のすかすかの頭じゃあ何も浮かばんからな。

 自虐的な考えに囚われていると、又してもアドがやって来た。

「今回の事はそう簡単にはいかないんですよ」

「そうなのか?」

「ええ、なぜ自ら失踪しなくてはならないのか、その理由が判然としません」

「まあ、そうなんだが・・・」

「まだ、さらわれたのなら納得がいくのですが、自らの意思でって所が・・・」

「そうなんだよなぁ」

「あの姐さんの事ですから、何か巨大な第三者の力が介入して来たと考えると、それなりに納得がいくのですけどねぇ」

「ああ、そうだな。あいつなら変な物を呼び込んでも納得ができちゃうんだよなぁ」

「そやそや、姐さんやったら何が起こっても不思議ちゃうでぇ」

 いつの間にかポーリンも会話に参加して来た。

 みんなの認識は、ほぼ一緒だって事はわかったが、じゃあどうしたらいいんだって事が決まらないんだよなぁ。

「姐さんさらっていったかて、得になる思われへんよねぇ」

 確かにそうなんだよなぁ、どこの物好きがさらって行ったんだか。まったく、何で次から次へと問題ばかり起こすんだよ、あの娘っ子はよぉ。

 もう本当に、変な事に巻き込まんで欲しいもんだぜ。


 そんな事を話し込んでいると、空は次第に暗くなってきていた。俗に言う薄暮はくぼだ。

 まだ迎えの船の姿は見えない。狼煙に気が付かないんじゃないのだろうかとみんなが不安に駆られ始めた頃、叫び声が上った。

「見えたぁ~っ!!」


 手摺りにもたれながら、日の沈む方を見ると、確かに夕焼けの綺麗なオレンジ色の空に小さい点のようなものが見えた。

 良くあんな小さい点を見付けられたもんだと感心しながら、その点をじっと見ていると、徐々に大きくなっていくのがわかった。

 船の細部まではっきりとわかる頃には、空はすっかりと漆黒の闇に包まれてしまっていたが、灼熱の溶岩によって照らし出された船体はここからでも良く見えた。

 その頃になると、迎えを喜ぶ声に混ざって「あれは一体なんなんだ!」と言う、不信感を露わにした声が聞こえて来た。もちろん帝国兵のあげた声だ。

 初めて見る彼らには、きっと異形の物のように見えたのだろう。

 なんたって、空を飛ぶ物といったら、鳥かワイバーン位しか思いつかないのだろうから無理も無い。

 そんな彼らをニヤニヤしながら見ていると、ハンスがドスドスやって来た。

「おいっ!まさかあれに乗るとか言うんじゃないだろうな?」

 あ、こいつ、もしかして怖いのか?空を飛ぶのが怖いのか?

 思いもよらない奴の弱点の露呈に思わず、にやけてしまいそうだった。

「怖いなら、無理に乗らなくたって、いいんだぜええええww」

「こ 怖い訳じゃあない。万が一危険な物であるのなら部下達を危険に晒したくないから聞いているだけだ。安全なのだろうな?」

「うーん、まあ安全と言ったら安全なのかなぁ?ww」

「何だ、その言い方はっ!安全ではないのか?」

「ははは、安全だよ。滅多に墜落しないからな、安全なんじゃねーか?ww」

「滅多にって・・・やはり、墜落するんじゃないかっ!」

 おー、おー、ビビッてやがるぜ。おもしれーww。


「おかしら、そんなにからかって、悪趣味ですよ」アドが間に入って来た。

「墜落する時以外は百%安全ですから、ご安心下さいね」


 おめーが、一番悪趣味なんじゃねーのか?


来られる方がめっきり減ってしまいました。ムスケル君では主役を張るのは難しかったのでしょうか?

いえ、私の才能が無いのが最大の原因なのでしょう。

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