1.新たなる不幸の始まり(1)
作者の黒みゆきです。
主人公がシャルロッテからムスケルへと変わった新シリーズです。
世界観と登場人物は前作から引き続きとなります。
アド達に翻弄されるムスケルを上手く表現出来ればと思っております。
今回も勉強しながらの執筆となります。前作『聖女様は疫病神』動揺・・・あ、動揺してしまいました。同様です。楽しんで頂けましたら幸いです。
俺はムスケル。人からは色々な呼び方をされるが、自由を愛するただの男だ。
若い頃は散々無茶をして、、その挙句、顔面に呪いをかけられ二目と見られないような顔にされてしまったが、それほど気にする事でもなかった。
いちいちキャーキャー言って寄って来る女どもを払いのけるのは、結構鬱陶しかったから、それなりに快適だったんだがな。
ある日おせっかいな聖女さんによお、助けた事への感謝だなんだと言って呪いを解かれてしまい、元の顔に戻ってしまったんだ。
俺には大勢の仲間が居るから、顔目当ての女なんか寄って来なくてもやかったんだがな。
俺はあるコミュニティーの頭領をしていた。『うさぎの手』と言うんだがな、世間は盗賊だとか山賊だとか、言いたいように言って嫌ってくれるが、みんな気のいい連中なんだ。
弱者には手を出さない。だが、気に入らなければ国軍にだって刃向う。それだけの力があったし、それが俺達の誇りだった。
なぜ過去形かって?
ひょんなことから疫病神に取り付かれてしまってな、生活が一変してしまったんだ。
その疫病神の名前は、シャルロッテ・フォン・リンクシュタット。まだ小娘なんだがよ、恐ろしいほどの影響力で俺の自由に干渉してくんだよ。おかげで俺のコミュニティーはグチャグチャだぜ。
そいつの父親は国軍の総司令官という国の要職に就いて居たが、俺達にはそんなことは関係ない。関係ないはずなんだが、ずかずかと干渉してきやがるんだ。小娘のくせに俺が怖くない時点でこいつはどこかおかしい。普通じゃあねえ。
大の大人だって、普通は俺を見ると、いや名前を聞くだけで震えあがってしょんべんちびって逃げ出すのが正しい反応だ。それなのにこいつは・・・・。
そいつの兄貴とは昔一緒に働いて居た事もあったが、そんな事はまったく関係ない。俺は聖騎士団なんて性に合わなくて早々に辞めて逃げ出したんだ、自由を求めてな。だからそいつの身内が誰であろうと俺には関係は無いし関わって欲しくはないんだが、気が付いたらどいう訳かそいつの面倒を、と言うか尻拭いをさせられてしまっていた。
なんで俺が、そんな縁もゆかりもない小娘の護衛だか親代わりだかをしなくてはならない?命の危険に晒されながらよお。おかしな話しだろうが。
己の信念で危険に飛び込むんならよお、命の危険なんてそんなものなんでもないんだよ。なんで、赤の他人の小娘に従ってよお、命を危険に晒さねーとならねーんだ?訳が分からん。
ワイバーンとの闘いなんて可愛いもんだったよ。なんでよりにもよってダーク・エンジェルなんて伝説級のばけもんが出て来るんだよ。俺、なんかしたか?これって、過去の行いのつけなんか?
極めつけは、奴のぶっ飛んだ能力だ。本当かどうかは知らんが、奴の剣は伝説の竜王だかに貰ったっていうじゃねーか。そんな事ってあるものなのか?そもそも竜王なんて存在するんか?聞いた事ねーよ。
奴が一度その剣を振ると、山も吹っ飛んで簡単に地形すら変えてしまうんだ。おかげで、歩く天変地異なんて呼ばれてやがんだ。そんな奴、放っておいたって何の心配もねーだろうによお。
ああ、もっとも放置しておいて勝手やられたら、毎月地図が変わってしまう心配はあるんだがな。
今回、その小娘に泣いて土下座までされて頼まれちまってよ、ある大きな作戦に参加させられたんだがよ、そもそもの話しそれが大間違いだったんだ。
事の発端はよ、俺達の住んで居たロディニア大地が国ごとまるっと海の中に沈んでしまった事に始まるんだ。その竜王とかがヘマをやったらしくてな。
そんで、罪滅ぼしだかなんかで、転移門なるものをその竜王が設置したんだわ。国の東部、中央、西部の三か所にな。
沈んだ大地には俺達が住んで居たシュトラウス大公国という国家があったんだが、海に沈んでしまうとなっちゃあ四の五の言っては居られなくて、何百万も居た領民はその転移門を使って避難と言うか、夜逃げする事になったんだ。国家規模の大脱走だわな。そうして転移門で避難した先が、今俺達がいるこの新大陸という訳だ。
本来なら、それでめでたしめでたしなはずなんだが、その竜王が再びヘマをやったらしくてよ、転移したのはこの新大陸で間違いはなかったんだが、あろうことか五十年前のここに転移させられちまったらしいんだ。意味がわからんだろう?
俺達は幸い転移門を使わずに船で海を渡ってきたから、普通にここにこれたんだが、転移門で来た連中は・・・みんな過去に転移させられたもんだから、俺達よりも五十年も歳をくってしまってたんだ。ビックリだぜ。
そんなこんなで、俺達がこの新大陸に渡って来た時には既に五十年が経っていた訳で、大陸の西部では奴の長兄のラングが新国家を打ち立てていて、大陸の東部では奴の下の兄マイヤーが城塞都市を造っていたって訳だ。
大陸の中央では政敵であったカール伯爵の一党が山に立て籠もって相変わらずの悪さをしていた。まあこいつらは俺達がある奴らと共同でで退治してやったから問題はなくなったんだがな。
ある奴って言うのは、前の大陸にうじゃうじゃ居た蛮族だ。しぶとくもあいつら、この大陸迄泳いで来たんだろうな、大勢繁殖していやがったんで、あいつらをけしかけてカーンの残党を叩き潰したんだ。
ああ、言い忘れていたが、まだこの大陸は未知の世界でよ、人が住めるのは大陸の北部のほんの僅かな土地だけなんだ。
南部は険しい山々に覆われていて、今だに手つかずだそうだ。
そもそも、この大陸には食料になる動物が全く居なくて、海で取れる魚介類に頼っているせいで、領地開拓どころではなくこの五十年は生きて行くので精一杯だったそうだ。
俺達は飛来して来たワイバーンを捕獲したから動物性の食料には困らなかったが、それもいつまでも持つ訳じゃねーから何か考えないといけないんだがな。
小娘の兄貴がこの大陸で東部要塞ていう国家を治めているから会いに行きたいっていうんで、軽い気持ちで付き合ってやったんだがよ、よりにもよってその兄貴は部下の裏切りに会って親族共々幽閉されていやがったんだ。
行きがかり上、そいつの兄貴とその親族まで助ける事になっちまってよ、えれえ思いをして助け出してやったと思ったら、こんどはその小娘が・・・失踪しやがったんだ。
いったいどうしろって言うんだ!俺は何でも屋じゃねーぞ?暇人でもねーぞ?お人よしでもねーぞ?なんで失踪した小娘を探しに、又ふたたびよお、溶岩と水蒸気が吹き出す臭くて糞熱い場所に行かなくちゃなんねーんだ?ジョーダンじゃあねーだろうがよ。
そもそも、なんで俺が参加するのが当然みたいになってるんだ?おかしくねーか?俺は善意で参加してやってるんだぜ?もっと好待遇でもてなすもんじゃねーか?もっと感謝してもいいんじゃねーか?
それなのによ、参加するのが当然って態度には腹が立つぜ。特にアドラーって小娘だ、確かに頭はべらぼうにいいみたいなんだが上から目線で何様だと思ってやがんだ。いつもいつも人をバカにしやがってよ。そんな思いをしながらこれから失踪しちまったその小娘を探しに未知の地へ赴かなくちゃならねーなんて、どっか間違っていねーか?もう散々手を貸したんだ、いい加減逃げてもいいよな?勝手に失踪したんだ、自己責任だろうがよ。俺達を巻き込むなってもんだよ。
俺には『うさぎの手』の再建っていう高尚な使命があるんだ。そんな小娘にかかずらわっている暇なんてねーんだよ。
幸い、空飛ぶ船なる物も手に入れたし、こいつを持ち帰れば組織の再建も簡単だって事だ。
問題は、船に乗っている小娘の仲間の小娘どもなんだが、こんな小娘どもを連れて帰って組織に入れてもなぁ。
確かに化け物みたいな能力を持った連中ではあるんだが、小娘の捜索を辞めようぜって言っても言う事はきかねーだろうしなぁ。きっと手なずけるのは難しいだろうが、奴の捜索をしながら気長にチャンスを待つしかないんだろうな。
特にだ、特筆するのはポーリンっていうねーちゃんだ。こいつは、奇妙な言葉を喋るうえに、どうやっているのか知らんが自分の剣を体内に収める事が出来るんだ。元々の剣の腕が冒険者としても上級クラスなのに加えて反則技を持って居やがるんだ。竜王の剣ほどではないが、構えた剣の先から光が迸ると、大きな岩でも吹き飛ばしてしまいやがるんだ。まるでミニ天変地異だぜ。まったくおっかねーたらありゃしねーが、戦力としては魅力的だ。
アドラーってねーちゃんも、ある意味おっかねえんだ。見た目は大人しそうな小娘なんだが、頭が悪魔のように切れやがる。頭の回転が早いだけでなくてよお、その知識量が化け物クラスなんだわ。知らない事以外は何でも知ってるって感じでよお、戦闘力は最低クラスなんだが、連中の軍師のような立ち位置だ。口では俺でも敵わん忌々しい奴だ。
クレアってねーちゃんも、並の男並みの剣の腕前で、こいつも愛剣を体内に仕舞える変なやつだ。気遣いも出来るしこいつは仲間に引き入れてもいいかもしれん。
メイとミリーの二人のねーちゃんは・・・これといって特筆するものはねーな。何故一緒に居るんだか、悩むところだ。
特にミリーときたら一緒に居てなんのメリットがあるのかいまだに分らん。メイはまだ戦闘時には円月輪やトンファーが使えるから役には立つだろうからいいんだが、ミリーは、ただの歩く胃袋だ。
いつも食べる事しか考えていないし、いつも何かしらモグモグしている。鼻は利きそうだが、それが何の役に立つんだか。ハッキリ言ってお荷物以外の何ものでもない。
アンジェラは唯一この空飛ぶ船を飛ばせられる人材だから是非とも欲しいところだ。情報部出身だから色々と使い道がありそうだしな。
アウラは元々俺の『うさぎの手』のメンバーだから問題はない。
あの疫病神聖女のアナスタシアだったか、あいつに派遣されて来た三つ子のジェームズ・ウェイド・ボッシュ、こいつもなかなかに腕が立つから何かと役に立ちそうだから問題は無い。ただ、背後に聖女が居るから最終的にこちらに与するのかは怪しいところだがな。要注意だ。
他にマイヤーの奴が寄越して来たジョージ・フォスターとやらが率いる三十余名の騎士達が護衛として乗り込んで来ているんだが、こんなに寄越して食料はどうするっていうんだよ。ホントあいつは領主様だけあって世間知らずのボンボンだから現場の苦労ってもんが全然わかっていない。確かに、大量の食料も一緒に寄越して来たが、おかげで船室は食料で満杯だぞ。
それに、食料っていうのは毎日減って行くもんだ。あの食料を食い尽くしたらその後はどうしろって言うんだ。ただでさえ食料の少ないこの新大陸なんだぞ。悩み事をふやすなよな。
「どうしたもんだか・・・」
つい、心の声が漏れてしまったのだが、間の悪い事に、一番厄介な奴に呟きを聞かれてしまった。
「何がどうしたものなんですか?今更引き下がれませんわよ。それとも、お一人で尻尾を撒いて逃げ帰りますか?まさかねぇ、天下のムスケルともあろう者がそんな腰抜けな事はなさりませんわよね?」
これだよ、これ。こいつは見た目は少女なんだが、妙に頭の回転が早くて、口じゃあ絶対に勝てないんだよなあ。おまけに、プライドを刺激して焚きつけてくるのが上手いときた。たちが悪いったらありゃしないぜ。
「いや、この先どうやって捜索したもんか考えていたんだよ」
「ふーん・・・まあいいでしょう」
こいつ、まったく信じていないな。これだからやりずらいったらありゃしないんだよ。
「でよお、正直な話しこれからどうするんだ?なんの情報もねーんだろ?どこから探すんだよ」
なんとか話を逸らそうとしたのだが・・・。
「どこに行ったかわからないから、捜索って言うのですよ。行き先がわかってたら困りませんよ」
「そ そりゃあそうなんだがよ・・・」
「ま、とりあえず、居なくなった場所から調べるのがセオリーですかね」
「げえーっ、又あの暑くて臭い所に行くんかよお」
俺はげんなりしていた。
「嫌なら、無理に来られなくても大丈夫ですよ。船で大人しく待っていて下さいね、船を護るのも大切な役割ですからww」
ほーら、こうやっていつも後に引けない状況に追い詰められるんだよ。
「行かねーとは言ってないだろうが、ほんとにもう・・・」
そうやって言い負かしておいてニヤニヤしてやがるの、本当に頭にくるぜ。
いつかぎゃふんと言わせてやるから、覚えてろよー。
「楽しみにしてますね」
えっ!?こいつ頭の中読まれたのか?
驚いた顔でこいつをみていたら、しらっとこんな事を言われた。
「ん?どうしたのです?行かないとは言っていないと言われたので、楽しみにしてますねと返したのですが、なにか?」
「あ、いや、何でもねーぜ」
焦った様子のムスケルはドスドスと足音を響かせて、船尾の方に行ってしまった。
その様子を静かに見つめて居たアドラーの目に妖しい光が灯ったのに気が付いた者は誰もいなかった。
その後、船はゆっくりと要塞に近づいて行った。次第に硫黄の臭いが強くなって来ると同時に、熱風が船上に迄上がって来て、乗組員はしだいに汗ばんできていた。
今回初めて要塞にやって来た兵士達は、その鼻が曲がるような臭いと吹き上げて来る熱気が混じった驚きの環境に驚き戸惑って居た。気分が悪くなっている者も見受けられた。
要塞に近づくにつれ、船は再び上昇気流でもみくちゃにされ始めた。
その時アンジェラ嬢は甲板上で悪戦苦闘しながら舵輪にしがみついていたのだった。
船が東部要塞・・・跡に近づくにつれ地下から吹き出す溶岩が発する熱気と地下水が熱せられて発生した水蒸気が異臭を伴って船を翻弄し始めた。
熱いわ臭いわ、臭いわ熱いわ、おまけに右に左に上に下に、船はおもちゃのように揉みくちゃにされてしまい、みんな甲板上を転がされていた。
俺達は慣れてしまったが、初めて船に乗った奴らは転がりながら吐きまくっている。まあしょうがないんだが、汚い事この上ない。
まだ汚いだけならいいんだが、酸っぱい胃液の臭いが溶岩の臭いに混じって、俺ですらこみ上げてきそうだった。
アンジェラのねーちゃんも必死になってくれてるから文句は言いたくないんだが、いい加減勘弁して欲しいってもんだ。
不思議なのはよ、あのアドのねーちゃんが手摺りに掴まったまま平然と立って居るんだよ。こいつ、鼻がわるいのか?
「アンジェラさん、私達が居たポーチはもう溶岩に飲み込まれそうなので、今回は建造物の屋上に降りましょう。あそこまで行けそうですか?」
こいつ、平然と聞いてる。この状況、なんとも思ってないのだろうか?
アンジェラ嬢の返事は当然のものだった。
「無理ですよお、進むにつれ視界は水蒸気の雲?で覆われていて、それがどんどん濃くなっています。もうほとんど前が見えないんですよ、どっちに進んでいるのかもわからない状況なんですよお。山にぶつかってしまいますう~」
アドよ、おめー自分の目でこの状況を見ているんだろ?無理かどうかもわかっらんのか?
そう思ったのだが、アドの返事にはたまげてしまった。
「だいじょうぶ」
何が大丈夫なんだあ?おめー頭働いてねーんじゃないのか?
そう思っていると、再び驚く発言をしだした。
「このまま直進して下さい。水蒸気は排除します」
新シリーズがスタートしました。
なんとか時間をやりくりしながら執筆していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
要望等御座いましたら、何なりとお申し付けください。




