【目撃③】公衆トイレの下の隙間から、女性の手が出ているのを発見
《20××年 △月〇日》
昼間、都会の駅内にある公衆トイレにて。
その駅の女子トイレは、いつも行列ができていた。
都会の大きな駅だから、利用する人が多く、今日も列ができている。
電車に乗る前に、念のためトイレに行きたかった私もその列に並んだ。
少しずつ列が進んでいくうちに、いつまでたっても開かない個室があることに気がついた。
そのせいか、列の進みが遅く感じる。
『あそこのトイレ、故障しているのかな?』
そんなことを考えていると、トイレの下の隙間から、フッと女性の手が出てきた。
人間というものは、驚きすぎると声も出ない。
私以外に、何人もの女性がトイレの列に並んでいたけど、誰一人、叫ぶことはなかった。
状況からして、中で女性が倒れていると考えられた。そして、女性の手はピクリとも動かない。
私は思った。
『ああ、これはいよいよ、殺〇現場に立ち会ってしまったか……』
心臓がドキドキを通り越して、バグバグいっている。さすがに、殺〇ではなくとも、何かしらの事件は起こっていそう。
その場に出くわしてしまった私達は、まったく知らない者同士だったにもかかわらず『ど、どうする?』的にアイコンタクトを交わした。
とりあえず、私が代表して駅員さんを呼びに行くことに。
改札口まで走って、駅員さんに事情を説明すると、男性の駅員さんがすぐに一緒に来てくれた。
「はい、通ります。通してください。中、入りますよー!」
そう言いながら、女子トイレの列をかき分け、中に入っていく駅員さん。その後に、私もつづいた。
相変わらず、トイレの下の隙間から、手だけが出ている。
その個室の扉をドンドン叩いてから、駅員さんは「開けますよー!」と大声で呼びかけながら扉を開けた。
『え? カギかかってなかったの?』
なぜか中からカギがかけられていると思い込んでいた私はビックリ。すぐに駅員さんの「あー……」という声が聞こえてくる。
「パンツ、パンツ上げてください」
その言葉に、その場にいた全員がビックリ。開いた扉の影に隠れて、こちら側からは何が起こっているのか分からない。
「トイレ流しますよ? 大丈夫ですか? どうしたんですか? え? 酔って寝てた?」
どうやら、昨夜、飲み過ぎてしまった女性は、洋式便座に座って用を足しながら眠ってしまったらしい。そして、そのまま朝を迎え、爆睡して便座から落ちても起きず、床で寝ていたと。
駅員さんは「歩けます? 救急車呼びますか?」と、女性に声をかけ続けている。その声には、動揺も焦りもない。
しかも、この状況に驚いてすらいない。ようするに、公衆トイレで女性が酔って倒れていることなんて、都会の駅員さんにとったらあるあるらしい。
しばらくすると、個室内で倒れていた女性は、駅員さんの肩をかりてトイレから出ていった。
その後ろ姿を見送りながら、生きてて良かったという気持ちと、人騒がせなという複雑な気持ちが入り混じる。
非日常から日常に空気が戻っていく中、その場にいた私達は重要なことを思い出した。
『そうだ、トイレに行きたかったんだ』
アイコンタクトを交わした女性達と再びアイコンタクトを交わしながら、元の列を作っていく。
トイレの列を待ちながら、私は駅員さんのブラックすぎる仕事内容について考えていた。
『飛び込み自〇されたくなかったら、お金をくれ』と脅されたり、改札口で盛大にゲ〇を吐いた女性を支えていたりしたこともある。
恐ろしい……。私は、ついスマホで駅員さんの年収を調べてしまった。
駅員さんの平均年収は、491万円だそうだ。ぜんぜん割に合っていないと思う。
おわり
お付き合いくださった方がいましたら、ありがとうございます!
もう衝撃的過ぎて何年経っても忘れられず、これらを思い出すことが、いいかげん無駄なような気がしたので、サクッと文章にまとめてみました。
というのも、トラウマは人に話すと、どんどん薄れていくらしく。
これらの出来事は、トラウマというほどのことでもないのですが、もう忘れてもいいだろうということで♪