【目撃②】酔っぱらった一般男性が、どう見てもヤ〇ザな人達に絡まれているところを発見
《20××年△月〇日》
結婚する友人のお祝いの帰り。高級な店が並ぶ夜の繁華街にて。
社会人になってすぐの頃、女子高時代の友人達と久しぶりに会うことになった。話を聞けば、その中の1人が結婚するとのこと。
結婚祝いと同窓会を兼ねて、いつもは行かないような高級レストランに集合。結婚する子の馴れ初めを温かい気持ちで聞きつつ、私達は楽しい時間を過ごしていた。
『さすが高級店。食事がものすごく美味しい』
ちなみに私はお酒が飲めないので、皆がお酒で乾杯する中、1人だけオレンジジュースで祝っていた。
その帰り道。
普段は絶対に通らないような高級店が並ぶ地域を、帰る方向が同じ友人と並んで歩いていた。時間は、夜の10時くらい。
多くの人々が行き来する中、突然、怒声が響いた。
驚いて声のほうを見ると、人垣の向こう側にぽっかりと空間ができている。その中心には、3人の男性と1人の女性。
男性陣は、どう見てもチンピラな男性と、遠目で見ても厳つい男性と、スーツ姿の男性。そして、チンピラ男性が、スーツ男性の襟首を掴んでいる。
「テメェ、どこ見て歩いとるんじゃい!」
スーツの男性は、かなり酔っているようでフラフラしていた。しかも、怯える様子もなく「そぉんなに、怒こらなきゅてもいいでしょー?」と呂律が回っていない。
『うわぁ、チンピラに絡まれてる人、初めて見た……』
通報したほうがいいのかなと思ったけど、私は、現在地がどこなのかまったく分からない。
どうしたものかと思っていると、他の人から「通報したほうがいい?」と話す声が聞こえたので、お任せすることにする。
この先に行けば駅があるのだけれど、駅に行くには揉めている人達の横を通らないと行けない。
『ヤバイ。道幅は広いけど、目立たないようにあの横を通り過ぎるのは、難易度が高すぎる』
隣の友人を見ると、『無理無理』と言いたそうに、首を左右に振っている。
仕方がないので、私達は、その他大勢のギャラリーの皆さんと一緒に、事の成り行きを見守ることにした。
『それにしても、どうしてこんなことになってるの?』
状況がまったく分かっていない私の耳に、チンピラ風の男性の怒声が響く。
「アニキにぶつかっておきながら謝罪もなしかい! 殺されたいんか、われぇい‼」
状況説明、ありがとうございます。
どうやら、酔っ払いの男性がフラフラ歩いていたせいで、チンピラが尊敬するアニキにぶつかってしまったらしい。
そのアニキの風貌は、とても厳つい。高そうなスーツに派手な柄シャツ、しかも、夜なのにサングラスをしている。その姿は、マンガや映画に出てくるヤ〇ザそのもの。
そのアニキの横には、身体のラインがよく分かる真っ赤なワンピースを着た背の高い女性が寄り添っている。この方が、もう『女優か?』ってくらいお綺麗で、ルパン三世に出てくる峰不二子みたいな雰囲気だった。
チンピラが酔っ払いの襟首を掴んで、路地裏のほうに連れて行こうとしているけど、 警察は、まだ来ていない。
このままでは、ボコボコにされるか、最悪、殺されてしまうのでは……?
そんな恐ろしい空気の中、それまでずっと黙っていたリアル不二子ちゃんが口を開いた。
「そんなのどうでもいいから、早く行きましょうよ」
色っぽくしなだれかかられ、これには強面のアニキもニッコリ。
「おい、そんなヤツほっとけ。行くぞ!」と、チンピラに指示を出す。
チンピラは、激しく舌打ちをしながら、酔っ払いを突き飛ばした。
「アニキの心の広さに感謝するこったな!」
いや、私はアニキより、不二子ちゃん似の美女に感謝する。マジであの場を平和に収めてくださり、ありがとうございました。
アニキと美女のあとをチンピラが追いかけていく。3人の姿が見えなくなると、地面に座り込んでいた酔っ払いに、スーツの男性が駆け寄った。どうやら、一緒に飲んでいた人らしい。
その人の肩を借りて、酔っ払いはヨタヨタとどこかへ歩いて行く。
その後、ギャラリー達も解散し、私と友人も無事に電車に乗れてホッと一息。そして、固く誓った。
『どんな理由があっても、もう二度と、夜の高級店街にはいかない』と。
つづく