第6話 いつ何が起きたのか
「俺が確認した時点でこの死体は既に冷たくひんやりしていた。
死後かなり時間が経っている」
「それが本当だという証拠はある?」
また証拠かよ!
「今、マッドハウスが発生してから30分たってない。
死体の体温が下がるには早すぎる」
地図屋アイラに伝わるだろうか。
「氷の魔術を使って体温を下げたんじゃないの?」
「俺は氷の魔術は使えない」
「どーだか」
地図屋アイラは肩をすくめた。
信用されていない。
まあ、雷の魔術が使えることを黙っていたのは俺なのだが。
「氷の魔術で全身の体温を下げるなんて簡単にはでできないんだ。
そんなことしたら、流れた血が凍凍りついてるよ」
俺はなるべく誠実に見えるようにゆっくり話した。
イメージは師匠だ。
地図屋アイラは沈黙し、ブーツの爪先で床の石畳をトントンと叩いた。
俺の意見について考えを巡らせているようだ。
地図屋アイラが、冷たくなっていく死体を見たことがあれば良いのだが。
地上第一層から落ちてから先程まで、俺は時計を見ていなかった。
死体の上に落ちた事実に、自分が人を殺したかもしれない事実に、完全に動転してしまい状況確認を怠った。
俺が落ちたのは何時何分だったのだろう。
俺はどれくらいの間立ちすくんでいたのだろう。
そんなに時間は経ってないと思う。
10分か20分か30分か。
1時間は経ってないはずだ。
『俺が地上一層から落とし穴に落ちた』のと、『マッドハウスが発生した』のはどちらが先だっのか。
落とし穴が先か、マッドハウスが先か、あるいは同時か。
トントンという地図屋アイラの足音が止まった。
「マッドハウスは殺人犯が特定されれば解除されるはずよ。
魔術師エドモン、あなたが犯人ならば、私が犯人を特定したということで解除されてるかもしれない。
もしマッドハウスが解除されてないなら、あなたが犯人ではないということだわ」
確かに。でも。
「地図屋アイラ、君が犯人の可能性もあるよ。
少なくとも俺はそう思ってる」
地図屋アイラの眉が吊り上がる。
俺は気にせず続ける。
「だからマッドハウスが解除されていれば、俺が犯人ということにはならない」
重要なことだ。