第5話 ここで何が起きたのか
とはいえ。
俺は俺が殺人犯でないことを知っているが、地図屋アイラは知らない。
ついでに地図屋アイラが殺人犯かそうでないかを俺は知らない。
このままずっと睨み合ってるわけにはいかない。
「地図屋アイラ、冷静になりましょう」
「ダンジョンの閉鎖空間で人殺しと2人。
これで冷静になれって言うの!」
地図屋アイラは興奮していて聞く耳なしの状態だ。
うーん、どうするか。
ヨシッ、こうなったらやるぞ。
「雷撃!」
俺の放った攻撃魔術は明後日の方向に飛び、ダンジョンの石畳に小さな跡を作った。
しばらくの沈黙。
「俺は治癒術以外に雷撃が使える。
あなたは小剣を持っているが、俺は攻撃魔術を使える。
お互い冷静になった方が良いはずだ」
力技だ。
俺と地図屋アイラは対等な立場である。
それを理解してもらわなければならない。
もちろん雷撃を地図屋アイラに向けて撃たなかった意味もだ。
「……」
地図屋アイラはさらにこめかみをひくつかせ、何かつぶやいた。
どうかな、どうなる?
「分かったわ。冷静になりましょう」
地図屋アイラは冷ややかに言った。
「まず状況を整理しよう。
地図屋アイラ、あなたはいつどこでマッドハウスを確認したんだ?」
「ここより北の通路で北に向かって歩きながらマッピングしてたわよ。
いきなり透明な空間魔術で北へ向かう道が閉鎖された。
マッドハウスは2回目だから何が起きたか想像がついた。
南の方が震源現場だと思って引き返して、ここで魔術師エドモン、あなたと死体を見た」
マッドハウスは殺人事件が起きた場所を中心に発生する。
北側が塞がれたなら、南へ向かう判断は妥当だ。
「マッドハウスが発生してからここまでまっすぐ来たのか?」
「そうよ」
となると。
「地図屋アイラ、マッドハウスは何時発生したか分かるらないか?記録してないか?」
記録はとってるよな。地図屋だもんな。
「……分かるわ」
アイラはしぶしぶといった様子で手帳を取り出した。
「マッドハウス発生はダンジョン組合の時間で14時14分。
私はダンジョンに潜る前に必ず時計を合わせてる」
地図屋アイラは手帳の記録を読み上げた。
「今俺の時計では14時41分だよ」
「わたしの時計では今、14時40分ちょうどよ。
魔術師エドモン、あなたの時計が遅れてるんじゃない?」
一分の遅れはこの際どうでもよい。
これは別の可能性が出てきた。
「おそらくこの薄い金髪の女性は、マッドハウスが発生するかなり前に殺されてるよ」
俺は言った。