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第26話 生者の定義を述べよ

北の通路に光の壁はなく、俺達は地上一層に戻りダンジョンを出た。


俺はとても心配されていた。

周りにいた連中からは、突然床が光り、消えたように見えたらしい。

イヤもう、落ちた先でたいへんだったよ。


とは言え、六人で無事に出れたのだ。

一番大事なことだ。


あ、ヴィオラはダンジョンから出てすぐにアイラからコップ半分の血をもらった。

これは言っておこう。



ダンジョンを出て数日後である。

俺はアイラに呼び出されて、冒険者組合のそばの大衆食堂に来ていた。


「こっちよ!」


食堂に入るとすぐにアイラに呼ばれた。

窓の側のテーブルだ。

ヴィオラも来ている。

赤毛の背の高い美人と淡い金髪(プラチナブロンド)の超美少女。

めちゃくちゃ目立つ組み合わせだ。


俺がテーブルに座ると周囲の男どものやっかみの視線を感じた。

ここは姉と妹に鍛えられた図々しさで乗り切る。


「私のおごりよ。

ここの串焼き肉はダンジョン産。

ちょっと硬いけど塩加減が良くて安くて、つまり、まぁまぁなのよ」


女性に奢られるのはどうなんだろう。

長兄(にいさん)なら俺が奢ると申し出るんじゃないか、などと一瞬思った。

が、焼けてる肉うまそうだよな!


「ごちそうになります」

俺は悩むのをやめた。



ヴィオラはポーションの瓶にストローを挿している。

そういえばヴィオラは魔力補給のためにポーションを飲むこともあると言っていた。


採血コレクトブラッド

俺は指先の血管に採血コレクトブラッドをかける。

血液が一滴ポーションの中に落ち、ポーションが薄いピンク色に色づく。

ヴィオラは満面の笑顔になった。


「マッドハウス解放に乾杯」

俺とアイラは麦酒で、ヴィオラはポーションで乾杯となった。


串焼き肉をかじる。

タンパク質最高。



「ひどいんですよ、冒険者組合は!」

ヴィオラが言った。


「私は胸を刺されたって言ったのに、傷害事件として扱う気らしいです!」


ダンジョンの中の冒険者同士の傷害事件か。

さらに被害者のヴィオラは完全回復してる。

ジルはたいした罪にはならなそうだな。


「下手すりゃ罰金レベルで終わりね。

ジルはコネもあるようだし」


「そうなんですよォ。あの時アイラさんが殴ってくれて良かったです」


「そんなに腹が立つなら決闘でもする?」

アイラがニヤリ笑って尋ねた。


「ヤです。

あのクソっタレのジルは聖属性を使います。痛いのはヤなんです」

ヴィオラは答えた。


まあ、それで良い。

ジルに言いたいことはたくさんあるが、若いというか幼かった。

早めに保護者の所に帰って欲しい。



「それよりデニスとボボン、残りの二人はどうするの?尻を引っ叩くの?

やるなら協力してもいいわよ」

アイラは再びニヤリ笑って言う。


「どうしよっかなー。

あの二人、特にデニス、冒険者組合にかなり怒られてるんです。

『なんで吸血鬼ヴァンパイア注意って書いておかなかったんだって』」


「ダンジョンでの経験不足よね、想像力も、失敗した数も足りてない、さらに……」

アイラの話は長くなりそうだ。


「その、ヴィオラ、やるならいつやるか教えてほしい。

俺はあの二人から治癒ヒールをかけてくれって頼まれてるんだ」


そう。頼まれてるんだ。男同士の約束だ。



「えェー、エド様に頼みー?図々しいですゥ」

「エドモン、ダンジョンの外で治癒ヒールをかけるならお金を取らなきゃ駄目よ」

ヴィオラとアイラの二人は口々に言った。


二人はそう言うけど、デニスとボボンは一緒にダンジョンを彷徨った仲だ。

デニスができる男だとは思わないが、ヴィオラとジル、二人の爆弾を押し付けられたのは同情する。


「はぁぁ、やめときまァす。エド様に迷惑かけることになりそうだしィ」


ヴィオラは一旦あきらめたようだ。

俺はヴィオラの決断を支持するよ。



「ねぇ、エドモン、あの話考えてくれた?」

アイラが話題を変えた。


実は俺はアイラから一緒にパーティーを組んでダンジョンに潜らないか誘われている。


この返事は決まっている。


「ぜひ一緒に潜りたい。満月と新月の時期中心になると思うけど」


ダンジョンに潜ることは魔術師にとって修行になる。

マナの容量を増やすならダンジョンが一番だ。

師匠曰く『ダンジョンは潜れる時に潜っておけ、でも勉強もしろ』。


「オッケー。勉強も大事よね、良い医者は常に足りないもの。

ヴィオラ、勿体つけてたけど、エドモンも来るしあなたも来るわよね」


「もちろんです。その話を待っていたんです!」




「まずは装備を整えて。

三人で潜ってもいいし、他のパーティーと組んでもいいし、いろいろ相談して決めていかないと」

アイラの思考は次のダンジョンに向かっている。


俺とアイラはマッドハウス解放の褒美として、冒険者組合から幾ばくがお金をもらった。

それで装備を整えられるだろう。

うん、俺の冒険者生活のスタートだ。




「あのクソダンジョンもひどいんですよ。

私は刺されたのにマッドハウス作らないんだから。

吸血鬼ヴァンパイア差別です」

ヴィオラはまだ言いたいことがあるようだった。


マッドハウスについては俺も考えた。

なぜヴィオラが刺されて倒れた時にマッドハウスが発生しなかったのか。



「あのさ。亡霊レイスを倒せたのはヴィオラがいたからだ」

俺の考えを話そう。


「そうですよ!」


「デニスとボボンとジルの三人組を引き上げたのもヴィオラだ」


「もちろんです!」


「つまり、ヴィオラはダンジョンで活動し、周囲に影響を与える存在だった。

もしかしたらダンジョンにとってヴィオラは『生きている存在』なんじゃないだろうか。

刺された時も、活動停止している時も、復活した時も、常に変わらずヴィオラは『生きている存在』としてダンジョンにいた。

だからマッドハウスは発生しなかった。

どうだろう?」


ヴィオラの長いまつ毛に縁取られた紫の目が大きく開いた。


「ペーペーの新人が、ダンジョンの意図をはかろうって言うの?」

軽く酔っ払ったアイラが言う。


「あまりだいそれたことは言えない。

けど、この場合はどちらの考えが面白いかなんだ。

ダンジョンにとって、ヴィオラは死者か、ヴィオラは生者か」

俺は続ける。


ヴィオラはどう考えるだろう。


しばらくの沈黙があった。


ヴィオラの口角がキュッと上がる。

『花のような笑み』ではない。力強い笑みだ。


いい考え(グッドアイデア)です。

エド様の考え、私は乗りますよ」





さて、俺達の新パーティー計画は、早々に邪魔が入った。

冒険者組合からジルも一緒に連れて行って欲しいと頼まれたのだ。

組合は、毒を食った俺達に無理やり皿まで食わせるつもりらしい。

組合もジルを持て余してるだろ!


そんなこんなで、ヴィオラとジルの間で一戦あり、ヴィオラはジルに「ヴィオラさん」とさん付けで呼ばせたり、アイラが組合にジルのお守り料を要求したりといろいろあるのだが。


それはまた別の話だ。




これにて完結です。

読んでいただいてありがとうございました。


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