第23話 暁の彼方
「やったの?」
アイラが確認する。
「やったと思う」
俺は答える。
「エド様、間違いないです。
亡霊は滅びました。
フフフ、新人のクセにイキるからこういう目に合うんですよ」
ヴィオラが得意そうに胸を張りながら言った。
「すごいわ、二人とも。
ヴィオラ、地上に出たら私の血をコップ半分あげるわ。
エドマン、その時は採血してくれるわよね?」
「本当ですか、アイラさん!」
ヴィオラは零れんばかりの笑顔になった。
「了解、アイラ。
地上に出たら採血するよ」
おしゃべり頭蓋骨は黙り込んでいた。
ヴィオラが隣で散々文句を浴びせたがウンともスントも言わない。
「しょせんは骨。
従兄弟の再従兄弟の又又従兄弟の玄孫子の曾孫ってとこですね」
「俺の斧で兜割にしてやろうか?」
ボボンがポンポンと頭蓋骨を叩きながら言う。
「いいよ。
役目を果たしただけだって言ってたし、祟られると厄介だ」
さて、いよいよ隠し部屋、おそらく死体とご対面だ。
入り口の前に立つと中から血の匂いがした。
「光源」
ジルの魔術光の明るさはまぁまぁだ。
時々ちらつきがあるけど。
中は10メートル四方ぐらいの広さの部屋だ。
そっけない石の床に石の壁、壁に骨はない。
隅のほうにはダンジョン探索に使う道具や、物資と思われる荷物が散乱していた。
この隠し部屋の場所を知っていて、探索の拠点に使っていた冒険者がいるのだろう。
そして。
床には大きな血溜まりがいくつもある。
そして二人の人間が横たわっていた。
吸血鬼や動く死体ではない。
死体である。
「二人死んでたのか」
デニスが言った。
死体を調べる前にやるべきことがある。
俺は腹の前で手を組むと、ヴィオラ以外の皆もそれにならった。
死体を取り囲んで、神々に祈る。
「魂よやすらかれ」
治癒術師である俺が神職代理で言う。
「「「「魂よやすらかれ」」」」
アイラとデニスとボボンとジルが復唱した。
ヴィオラは静かに死体を見つめていた。
アイラは遺体の周りに手早くチョークで線を引いていく。
俺は死体を観察する。
「一人は男性、一人は女性。二人とも二十代半ばってとこかな」
女性は小麦色の肌に金髪だ。
金髪は根元が黒いから染めてるのかな?
冒険者風の服に革鎧を着ていた。
革鎧を切り裂く袈裟懸けの跡がある。
頭が大きく凹み出血し、脳ミソが一部はみ出ている。
目は無残に開いていた。
生きていた時は美人だったんだと思う。
「致命傷は頭の傷だと思う」
男性は大柄で筋肉質だ。
冒険者の、それも前衛の体付き。
鎧も上着も着ておらず、上半身が裸だ。
歴戦の冒険者らしく体には傷跡があちこちにあった。
髪の色は茶色で、日焼けしている。
まぶたは閉じていた。
こちらもなかなかイケメンである。
男性の遺体には背中の脇腹に大きな傷があった。
あとは腕にも。
「男性は失血死、いやポーションを飲んだ形跡があるな」
男は荷物の中をを漁ったのだろう。血がこびりついた荷物がいくつかある。
男の周りにはポーションの空き瓶も転がっている。
回復が間に合わなかった?
俺は一応医学生でもあるんだが。
うーん、シャルロットみたいな検死は難しい。
「さっき見た亡霊は女の方だったよ」
ジルがポツリと言った。
「じゃあ男の方のお化けはどこにいるんだ?」
ボボンが聞いた。
「男の亡霊の気配はないよ」
ジルが答える。
「どこに行ったんだ?」
「行くべき所に行ったんでしょう。
夜の向こう、暁の彼方ってやつです」
ヴィオラが言う。
死者は暁の彼方へ行く。神々はそう説く。
「暁の彼方ってどんな場所なんだ?」
「知りませんよ。
私は夜の国の住人で暁の彼方に行ったことはないですから」
ヴィオラは軽く肩をすくめた。




