第21話 マッピングと隠し部屋
まだ見つかっていない死体。
おそらく14時14分に殺されたヒト族の死体。
それを見つけて犯人を特定しないとマッドハウスは解けないだろう。
俺達はなし崩しに六人パーティーになった。
ダンジョンの中で争っても仕方がない
ここで俺達が争って死体を作れば、マッドハウスの中でさらにマッドハウスができることになるが、わざわざ試す気はない。
ジルがヴィオラを刺した事件の後始末は、ダンジョンを出てからだ。
冒険者組合の法か、ヴィオラの復讐を名目にした単純な暴力か、地上に出ればなにかしら決着することになるだろう。
(俺はデニスとボボンから、「いざと言う時は治癒術かけて下さい」と頼まれている)
「マッドハウスは、たいてい殺人現場を中心に発生する。
まず中心付近から探すべきなんじゃないかな」
俺は教科書の書いてあったことをそのまま述べた。
「その中心を特定するのがけっこう大変なのよね」
地図屋アイラがぼやいた。
それから俺達はアイラに散々連れ回された。
東の光の壁を確認し、西の壁を確認し、今は北からの通路を歩いている。
途中で数体スケルトンが出たが、ヴィオラとボボンがあっという間に片付けた。
怪我人もおらず俺の出番はなし。
治癒術師は出番がないのが以下同文。
「ちょっと、エドマン、ヴィオラ、ここを押さえていて、早く!」
通路の角に立ったアイラが急かしている。
俺達は指示通り角から両側に紐を引っ張った。
アイラは紐の間の角度を測りメモを取る。
「メシはまだかな」
ボボンのこの台詞は何度目だったっけ。
その後、休憩しておやつの時間になった。
アイラは何も食べず、メモを見てブツブツ言いながら計算している。
「アイラ、飴いる?
これは俺が地上から持ってきたヤツ」
俺は紙に包まれた飴玉を差し出した。
ダンジョンに入る時に、ポケットに入れて持ってきたモノである。
「ちょうだい」
「何をやってるんだ?俺に手伝える?」
アイラはジロっと俺を見た。
「企業秘密、、でもないか。じゃあエドマン手伝って」
アイラによると、彼女はチョークに関わる技能を持っている。
その技能の使い方の一つが、チョークで付けた印と印の間の距離を測るというものだ。
印から印へなにがしかのマナ振動を伝え、戻ってくる時間を使って距離を測るらしい。
すごい技能である。
アイラは本物の凄い地図屋だった。
「今回は普段より高い精度でやらないとね」
アイラは俺に計算式が書かれた紙と鉛筆を渡した。
三角関数デスカ。
俺はアイラの隣で数字と格闘するハメになった。
数字の海、そしてボボンの幾度かの「メシはまだかな」を乗り越えて、俺達はついにやって来た。
「ほぼこの辺りが中心ね」
アイラが言った。
俺が落下した場所から少し西側、なんということのない地下墓所の部屋だ。
壁はやはり一面骨が埋め込まれている。
「骨しか見えないぞ」
ボボンが言った。
「この辺に隠し部屋があると思うのよ」
そう言いながら、アイラは慎重に軽く壁を叩いていく。
「トビラヲサガシテルノカネ」
突然、壁に埋め込まれた頭蓋骨が口をきいた。わぁ!
俺もアイラも他の皆も壁から後ずさる。
「話せるスケルトンとは珍しいですね」
全く動じてないのはヴィオラである。
「ヴァンパイアカ。
イトコノハトコノマタマタイトコドノ」
頭蓋骨はまた喋った。
「従兄弟の再従兄弟の又又従兄弟殿に質問するわ、この辺りに隠し部屋があるんじゃない?」
「アルカモシレナイナイカモシレナイ、カクシベヤッテナンダナンダナンダ」
「マッドハウスを解きたいのよ。教えてちょうだい」
アイラが言った。
頭蓋骨相手に勇気あるよ!
「この糞ダンジョンのマッドハウスを解きたいの。
この辺りにある見えない道を開きたいの。
どうすればいいの?」
ヴィオラが頭蓋骨に質問する。
「キカレタラコタエル、ヤクメ。
ミギテヲミギテ、ヒダリテヲヒダリテ、ミギアシヲミギアシ、ヒダリアシヲヒダリアシ。
ミギテヲミギテ、ヒダリテヲヒダリテ、……」
頭蓋骨は同じセリフを繰り返す。
この辺りの壁は骨が埋め込まれている。
ふむふむつまり。
「ここに右手の骨がある。だからここに右手を置く。
こっちが左手の骨だから左手を置いて……」
「この骨が左足か?」
「それは右足の骨だね」
俺は未熟者だけど医学生である。
骨についても学んでいる。
俺は頭蓋骨に言われた通り、右手を壁の右手の骨の上に、左手を壁の左手の骨にの上に置いた。
右足と左足もそれぞれの場所に合わせる。
骨はバラバラに壁に埋め込まれているので、左右の手は体の前で交差させなければならず、左足を股関節が辛い辺りまで上げるはめになった。
でも。
オシっ、いけたぞ。
ガタッ。
壁が振動した。
壁の一部が右にズレていく。
魔術の仕掛けだろう。
扉の向こうは真っ暗だ。
光ゴケも生えてないようだ。
その時である。
ゾワワワッ。
俺の側を何かが通った。
「キャアアアア!」
ジルが甲高い悲鳴を上げる。
ヤバい。……ヤバい。
俺は、俺たちは、何かヤバいモノを解き放ったかもしれない。