第15話 奈落の底の三人組
石畳が途切れた先は、アイラの見立て通り落とし穴だった。
深さは身の丈の倍ぐらいだろうか。
俺は用心しながら覗き込んむ。
落ちるのは一日一回で十分だ。
薄暗い穴の底には人影が、三つか?
一人は獣人であと二人は人間族かな。
「見つけた!いましたよ!クソ女!」
ヴィオラが身を乗り出しながら言う。
一人はエルフだったのか。
ヴィオラを刺したエルフの女はあっさり見つかった。
とりあえず生きてて良かった。
死体で見つかることも覚悟していた。
「そちらは三人?怪我はない?」
アイラが呼びかけた。
身を乗り出しているが、腰には命綱を巻いていた。プロだ。
「ああー、えーと、いろいろ誤解があるみたいだが、、とりあえず助けてくれー。礼はするー」
穴の底から男の声がする。
人間族の男だろう。
穴の底で大きく手を振っている。
「なにが誤解ですかァ。
天網恢恢疎にして漏らさず。
マッドハウスが発生してます。
ダンジョンの法からは逃げられませんから。
私をナイフで刺したのは忘れてませんからァ」
ヴィオラは見下ろしながら嬉々として言う。
気持ちは分からないでもない。
『マッドハウス』の言葉に人間の男は動揺したようだ。
獣人は動かない。
エルフの女と思しき人影は穴の底に横たわって、こちらも動かない。
ロープを穴の縁で引き上げるのは吸血鬼のヴィオラ。
後ろで命綱を持ってサポートするのが俺とアイラ。
ロープはヴィオラの怪力でスルスルと引かれ、男が引き上げられた。
「助かった、ありがたい」
落とし穴から上がってきたのは人間族の男だ。
背は俺と同じくらい。二十代前半かな。
茶色の髪を短く刈っている。
偵察だっけ?
「いやー落とし穴の底でどうしようかと思ってた。
あぁ、と、俺はデニスだ」
偵察デニスはアイラと僕を見たが、ヴィオラの方は見ようとしない。
「私はアイラ。ダンジョン組合直属の地図屋よ。
マッドハウスが発生してるわ。
あなたは吸血鬼ヴィオラと一緒ダンジョンに入ったのよね。
ヴィオラを刺した件について話が聞を聞かせてちょうだい」
「し、下に仲間があと二人いる。先に助けて欲しい」
「もちろん助けるつもりだけど、先に話が聞きたいのよ」
前にはアイラ、後ろにはヴィオラ、右に落とし穴、左に俺。
偵察のデニスは観念したようにうつむいた。
「刺したのはジルだ、俺じゃない」
ジルというのがエルフの女魔術師だろう。
「ヴィオラのことは見捨てたんじゃない。
一旦戻ってダンジョン組合に報告を入れるつもりだった。
お、起きてしまったことは仕方がないじゃないか。
ずっとヴィオラを囲んで待ってる訳にもいかない」
「エルフのジルはなぜヴィオラを刺したの?」
「いやその」
「質問を変えよう。今日、ダンジョンに潜ってから起きたことをなるべく細かく教えてくれ」
僕は脇から口を突っ込む。
いろいろ気になることがある。
情報の整理が必要だ。
「あーとえーと、、、朝は8時集合だったが、間に合ったのは俺とジルだけだった。
10分ぐらい遅れてボボンが、下にいる熊の獣人だが、が来て、さらに30分遅れてヴィオラが来た」
アイラが軽くヴィオラを睨む。
「朝は苦手なんですゥ!」
「時間は間違いないですか?」
俺は質問する。
「ああ、間違いない。
冒険者組合の人が時計を見ながら言ったから。
ヴィオラは遅いし、正直に言えば三人で潜ろうかと思っていたんだ。
でも、冒険者組合の人があと少し待ちましょうと」
「冒険者組合の人が?」
「あぁと、ヴィオラは冒険者組合から紹介された。
俺とボボンの二人組だったんたが、ヴィオラもダンジョンに連れて行ってくれと」
「ヴィオラが吸血鬼であることはご存知ですか?」
「ああ、、知ってる。下の二人も知ってる。
吸血鬼を仲間に入れるのは気が進まなかったんだが、組合に協力的だし、実力もあるから連れて行ってくれと頼まれて」
「ヴィオラが冒険者組合とつながりがあるなんてね」
アイラが言った。
「昔いろいろありましてネ」
ヴィオラが答える。
「ダンジョンに入ったのは何時頃ですか?」
「9時1分だった。
冒険者組合の人が1分ずらすと縁起が良いですよって」
そういう縁起担ぎは聞いたことがある。
時間ジャストに入るのはイマイチなのだそうだ。
「入った後はどんな感じでしたか?」
「地上一層はスライムしか出なくて。
ヴィオラがもう少し潜ろうと言ってこの辺りまで降りてきて、スケルトンをたくさん狩って、でもそれ以外に目ぼしい獲物はいなくて。
腹が減ったから早めの昼飯になって、食べ終わった後に……」
「昼ご飯は何時頃だったの?」
今度はアイラが脇から入ってきた。
「時間は確認してない。
でも魔物はスケルトンしか出ないし、ボボンはメシ食おうってうるさいし早めに食った」
「まあ、早めの昼ご飯は冒険者の定番よね。
続けて」
アイラが続きを促した。
僕の中の違和感が形になってきた。
デニスによると、早めの昼ご飯。
ヴィオラによると、お昼を食べてすぐ口論に。
アイラによると、マッドハウス発生は14時14分。




