つまりあれか、これが異世界ってやつか。
アルバート・キャメロンは今日何回目かわからないため息をついた。
「ギルバート王。いい加減にお仕事をおやめください。そして見合いに応じてください。」
「・・・・・・」
アルバートは再びため息をついて主、ギルバート・ロックハットを見やった。
そして今度はあきらめたようなため息をついて、こう言った。
「おい、ギル!!こっちの苦労も考えてくれ!!この仕事中毒!!!」
「仕事中毒は悪くないじゃないか。女中毒よりもよっぽど国のためだぞ。」
ギルバートは政務官の顔から幼馴染の顔に戻ったアルバートを憮然として見つめながら言った。
「そうは言ったって、お前もう25だろ!!いい加減嫁さん見つけてくれよ・・・・・・」
「それならお前が先に嫁を迎えれば良いだろう。俺が25なら、お前も25だ。」
「屁理屈言うな!!」
ふうっとため息をついたのは今度はギルバートのほうだった。
「お前だって知っているだろう俺が」
「不能だってことか?」
「その通り。だからどこぞの姫君を連れてきたところで、俺には抱けん。それが例え傾国の美女であってもな。」
「大丈夫だ、ギル。今度の王女はびっくりするほどのプレーンフェイスだぞ。」
「お前なぁ・・・・・・」
「なあ、ギル。お前の嫌がるのはよくわかる。だが、この大国、ダイムラー王であり、世界一のイケメンと言われるお前がいつまでも未婚なのは、世界にとっても良くないんだ。」
「・・・・・・」
「抱けないなら抱かなきゃいい。ペッティングだけでごまかせ。子供ができないのは王妃のせいにすればいい。なあ、とりあえず見合いだけはしてくれよ。」
「・・・・・・」
あきらめたような沈黙が、肯定を表わしていた。
「見合いは3日後にするぞ。」
アルバートに生返事を返し、ギルバートは執務室の広い窓を開け、外を眺めた。
今日も良い天気だ。
ダイムラーは今日も富であふれている。
この国に足りないのは、俺の心を摑む者だけだ。
――――ギャーーーーーーーーー
「なあ、アルバート、何か音が聞こえないか?」
「奇遇だな。俺もそう思っていたんだ。」
のどかな日常を打ち砕く、怪物のような声。
すでに階下には魔剣士たちが剣を構えている。
ギルバートはその声のするほうを凝視した。
「あれは、何だ?!」
何か人のようなものが落下している。
人だとしたら、一応助けねばならないだろう。
ギルバートは5階の自室から窓の外へ飛び出した。
「お、おい、ギル!!ちょっと待て!!ったくいきなり飛行魔法使うんじゃねーっつーの。」
愚痴を吐きながら、アルバートもギルバートを追いかけ、外へ飛び出す。
滅多に人に見せないダイムラー国のトップ二人の秘術、飛行魔法と、空から落下してくる物体に、国中が騒然となった。
☆・★・☆
「うぎゃーーーーーー」
私はものすごい声を上げながら落下していた。
死ぬ!!死ぬ!!死ぬ!!!
しかもどこまで行っても光の中。
しかも不思議の国のアリスちゃんと違ってこっちは超ハイスピードだ。
と、突然視界が開けた。
それはまるで物語の中に入り込んでしまったような世界。
大きなお城に小さなかわいい家々。美しい森。
「なーんてのんびり見てる余裕ないってばーーーーーーー!!」
そう、地面にどんどん近づいていく。
しかも、下には人がたくさんいるっぽい。
「誰か助けてーーーーーーー!!!!!」
「うるさい。」
落下が止まった。
そして耳元から声がする。
やたらと甘いバリトンだ。
もしかして、もしかして、もしかすると男だ。
ギギギと首を回して見ると、
そこには絶世の美女、否絶世の美青年がいた。
ちょっと癖のあるブロンド。
アメジストのような紫の瞳。
すっと通った鼻梁。
そして私は気付いてしまった。
自分が今彼に「お姫様だっこ」されていることに。
さて問題だ。
私は中学から女子校で、一人っ子かつ父は単身赴任のため、男性に免疫がない。
事務所はおやじさんばっかりだから、男性にはカウントされない。
つまり、こういう体験、すなわち「美青年にお姫様だっこされる」という事象が生じたらどうなるか。
答え。私の頭はスパークしてしまうのだ。
そして私は息を吸い込んだ。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
「っ!!」
叫び効果のおかげで、彼は私から手を離してくれた。
全くやめてくれ、心臓に悪いから。
「・・・・・・って落ちるーーーー!!!!」
「お前は馬鹿か、いちいち叫ぶんじゃない。」
再び美青年さんが抱きとめてくれました。