平和な日常ぐっどばい。
あくびをしながら成績表をかばんにしまい、帰りの支度をする。
「ねーねーなつき、今日一緒に帰れんの??」
「あーごめん、今日は事務所寄ってかなきゃ。」
「そっか、学生弁護士って大変だね。」
「あはは、全くだよ。」
私は深くため息をつきながらそう言った。
全くなんで私はこの歳で司法試験を受けようなどと考えてしまったのだろう??
そしてなんで事務所入りなんてしてしまったんだろう???
「でもさーなつきは弁護士バッチもうもってるんだから、学校来る必要なくない?」
「いや、でもそうするとただの法律馬鹿になるっていうか、知識が偏っちゃうから。」
もちろんそれだけじゃない。
こんな楽しい居場所、失ってたまるか、ということもある。
私が司法試験を受けようと思ったのは高校一年の時。
得意なものが何にもなかった私が、ちょっとカッコいいな、と思って司法試験の問題集を買ってしまったのが始まりだ。
親に見つかり、呆れられるかと思いきや、
「まあーー何か良いじゃない!!16歳で司法試験合格とかニュースになるわよ、ニュースに!!しかも全国版よ!!いいわ、なっちゃん。弁護士でも検事でもなってちょーだい!!!!」
というミーハーな母により、私の試験勉強が始まった。
勉強は嫌いではなかったし、他にすることもなかったので、コツコツ一年勉強していたら、見事合格。
「資格取ってすぐ使わないなんてありえない!!!」
というまたまたミーハーな母により、小さな弁護士事務所に入り、学校のない時間に小さな法律事務をこなしている。
もちろんこの世界はこれはこれで面白くて良いのだが。
クラスメートと別れ、事務所に向かう坂道を下る。
暑い。
本当に暑い。
なんだか体と頭が分離していくような気がする。
はあ、けっこう頭やばいな。
そう思って汗をぬぐう――――否ぬぐおうとした。
手が頭をすり抜けた。
ぎょっとしてあたりを見回すと、真下にセーラー服姿の少女がいる。
汗をぬぐっている。
それは私だった。
そしてもう一人の私はため息をつきながら歩いていってしまった。
嘘だろ。
呆然と空中に浮かんでいると、なんだか太陽に吸い込まれていく気がする。
いや。
あれは太陽じゃない。
私は太陽みたいなでっかい光の塊に吸い込まれている。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー」
私はものすごい声で叫びながら、光の中へ飛び込んで行った。