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11.それぞれの思惑


タバコは今世紀中に一般社会から消えてしまいそうです。

ちょっと昔の古典SFでは、未来人が普通にタバコを嗜む様が描かれていたものですが。


翻ってコーヒーは、はるか未来でも嗜好品として残ってると思うんですよね。

願望ですが。


 惑星ノアの上空四万キロメートルに浮かぶ現在の軌道ステーションには、アストレイア専用のドックがあり、その隣にはプロミオン専用のドックも用意された。どちらも同型艦の存在しないユニークな船体であるが、贅沢にもドック内の設備はそれらに合わせて据付けられている。


 専用部品が必要になるこの二隻のメンテナンスのために、保守部品用の工房までもが併設される、特別待遇だ。まあそんな事よりもレオンは、アストレイアの隣に必ずプロミオンを着けることが出来るのを素直に喜んだ。


 ラーグリフの翼端部を回収して無事役目を果たし帰港したプロミオンのすぐ横には、メルファリアを乗せて空へと上ってきたアストレイアがその翼を休めていた。

「メルファさんに、ご苦労様、な~んて言われちゃったりして。な?」


 アストレイアを眺めて、彼女の笑顔を想像すると頬が緩む。またアップルパイを焼いてくれたりしないかな。給仕服で、なんてことを夢想する。目を閉じると愛らしいその姿が脳裏に浮かび、焼けたバターの香りを思い出してゆっくりと深呼吸した。


「そりゃメルファリア様は労ってくれるでしょうけど。気持ち悪い挙動は控えてくださいね、気持ち悪いから」

「気持ち悪い、って二度も言うな」

「父親にも言われたことないですか?」

「? ないな」


 エアロックが開いて会話は途切れ、アリスがさっさと歩き出すので、レオンも続いて弱重力に制御された連絡通路へ踏み出した。


 §


 ステーションに到着早々、落ち着く前にレオンはまたしてもローレンスに呼び出された。時間が取れたら訪れてほしい、という丁寧な呼び出しだったが、後回しになど出来よう筈もない。メルファさんとのお茶会は、少しだけ先延ばしだ。


 ちょうど、レオンからもローレンスにお願いしたい事があるので、速やかにアポイントを取って指定の時間の五分前に訪れた。すると、五分前に着いたレオンよりも更に前から例の副官が直立不動で待ち構えていた。

「あれ? ケイ……、いや、ロイド少尉」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 待ってたの? と疑問が湧いたが、レオンの戸惑いなど意に介さずロイド少尉は無駄のない所作で待合スペースに招き入れた。そこにはかすかに、珈琲豆を挽いた薫香が漂っている。甘みのある柔らかな、それでいてふくよかな余韻。思わず目を閉じて深呼吸してみると、すぐにローレンスからのお呼びが掛かった。


「すまんな、呼び出してしまって」

「いえ、問題ありません」

 やけに丁重な迎えように、むしろレオンは内心で身構えた。

「まあまずは喉を潤してくれ。話はそれからにしよう」

 ロイド少尉が二人分の珈琲をテーブルに置き、無言のままに退出する。


 ローレンスは早速ひとくち味わって、レオンにも勧めた。

「どうだ、美味いか?」

「あ、はい。専門のバリスタに淹れて頂いたのですか? 美味しいですね~」

「そうか、それを聞いて安心、いやなんでもない。俺も嬉しい、じゃなくて美味しいと思ったところだ、はっはっは」


 レオンも一時の緊張がほぐれて、男二人は笑顔で向き合った。

「それで、話というのはだな……」

 ローレンスの口から、レオンの報告を踏まえての分析内容が語られた。



 レオンを百年ほど前に惑星デルフィが在った場所であるポイントαに遣わしたことで、幾つかの事柄が見えてきた。

 その当時デルフィで引き起こされた爆破テロの、首謀者もしくは直接の後継者による活動はどうやら継続している。首謀者(もしくはその直接の後継者)は、ラーグリフが得るはずだった銀河系探査情報を欲している。銀河系探査情報をラーグリフが得ているか、少なくともその可能性があると考えている。


「黒幕は、ラーグリフが計画通りに探査情報を得てきていると期待しているわけだ。だからコンタクトを取ろうとしたし、ラーグリフを破壊しようとはしなかった」

「そこまで推察して俺を行かせたんですね?」

「確証はなかった。すまんな。それに、計画上の総旗艦が実在しているとまでは予測できなかった」

「今でも『X』からの情報提供指令は無視したままですよ」

「無視したまま、か。……ははは。あー、いや、貶しているわけではないぞ」


 レオンは少し大きめのマグカップを両手で支え、一口含んで膝に置いた。

「その『X』ですが、所属不明ですか?」

「今のところはそうだな。情報の出どころと艦艇の建造技術からして、おのずと限られてはくるが」

 小さなテーブルを挟んでソファに腰かけるローレンスは、おもむろに足を組みなおす。

「客観的に見れば、いちばん怪しいのは我らランツフォートだ。そしてその次に、他のG7陣営が皆同じくらい怪しい」


「何かあったら真っ先に疑われるのはランツフォートですか……」

 常に隠れ蓑を用意して立ち回っているのだと思う。うん、気に入らない。

「そうだ、以前マイケル・リーが大出力電磁波放射装置で惑星ノアを狙いましたよね?」

「ん? ああ」

「あれも同じようにカモフラージュなのでは? それに隠れて、惑星ノアを狙ったのでしょう」


「マイケル・リーの個人的な恨み以外に、ノアを狙う理由があるということか。だがな、今のところは惑星ノアが可住環境を失う事で利益を得る者というのは特定できないな。不利益をこうむるのは殆どランツフォートだけだ」

 その状況を変えようとメルファリアは精力的に動いているが、まだ道半ば、いや歩み出したばかりだ。むしろ、状況が変わるより先に惑星ノアがまた狙われるかもしれない。


「狙われる理由はもちろん知りたいですけど、それが分からずとも、黒幕の正体に迫りたいですね」

「理由が分からないままでも、か?」

 ローレンスの口調は反論でなく、レオンにその先を促すもの。

「私としては、惑星ノアとメルファリア様を護るのが第一です。狙われる理由は、後からでも分かればいいです」

「おいおい」

「だいたい、重要参考人たるノーマ・フオンは地球市民じゃないですか。地球が怪しいです」

「まー、そうなんだが」


 レオンは掌の中にあるマグカップからさらに一口、薫り高い濃褐色を嚥下した。

「ラーグリフが直ったら、私が行って探ってきます。当たりなら、何かしらの反応を得られると思いますよ。どうですか?」

「む、それは、メルファリアにも聞いてみなければな……」



 他にも幾つかやり取りがあり、しかる後にレオンが退出すると、入れ替わりにロイド少尉が空いた器を片付けに来て、そして速やかに退出した。ローレンスが一人になってソファに背を預けると、隣室へ繋がる別なドアが静かに開いた。

「ちゃんと聞いたな? メルファ」

 悪戯っぽく笑みを浮かべながら現れたのはメルファリアだ。

「ふふっ、悪いことをしているような気がして、なぜかドキドキしてしまいました」


「レオンの奴は自分から行く、と言い出したぞ。小細工なぞ必要なかったな」

「わたくしは、レオンが嫌がるようでしたら引き留めるつもりでしたが、頼もしいことを言ってくれますね。……好きかも」

 メルファリアがゆっくりと廊下へと開くドアの先に視線を送る。

「な、なぬっ」

「どうしてラリー兄様が動揺するのですか」

「いや、それは、その」

 柄にもなく言い淀むローレンスに、メルファリアは微笑んだ。

「兄様が、レオンを無理やり使役しているわけでない、のはわかりました」

「お、おう。とりあえず、それは良かった」


 §


 ローレンスの前を辞したレオンは通路を歩きながらアリスと合流し、そのままプロミオンへと向かう。メルファリアは現在執務中とのことで、お茶会はどうやら明日以降になってしまいそうだ。

 隣に静かにたたずむアストレイアを一瞥して、レオンとアリスはプロミオンへと繋がるタラップを通りながら言葉を交わす。

「地球へ向かう、と言ってみたがな。どうせ地球も隠れ蓑なんだろうと思うんだよ。

 けどな、仮定に仮定を重ねるのもどうかと思うし」

「では、どちらへ?」


「太陽系へは向かうんだけど、やっぱ火星かな、怪しいのは。でも、アリスのルーツが火星にある、ってのはなんとなく言わなかった」

「そうですか」

 アリスは前を向いたまま変わらぬリズムで歩く。その裏では太陽系へ向かうフライトプランの検討が進む。

「ラーグリフの修理を急いでもらうとか、色々とローレンス様の協力も取り付けてきたんだぜ、喜んでくれよ」

「なかなかやりますね、レオンにしては」

「言い方」


 ラーグリフの修理が完了次第に発つことになるだろうが、ローレンスの協力を得たとしてもまだしばらくは掛かりそうだ。出発までの間に、太陽系の現状を確認するとか、『X』に対する対策の検討とか、やることはある。

「ガラノスにMAYAのバックアップを置く件も了解してもらった。あと、観測機の追加も」

「ローレンス様はずいぶん気前がいいですね」

「『X』が現実的な脅威であるからこそ、だな」


 次に『X』に遭遇した時は、対決を急がずこちらの有利な戦場へと誘い出すことになるだろう。少なくとも、相手側の領域で対峙するのは避けるべきだ。アウェーは厳しい。


 これまでレオンは『X』には二度と会いたくないと思っていたが、向こうから狙われているなら、実力行使を厭うものではない。ならば、勝てる方策をなんとしても用意する。その為には、使えるものは何であれ利用するつもりだし、ランツフォートの意向とも合致する。それを確認して、ローレンスの協力を取り付けてきた。


「あとは、ラーグリフの弱点をどう克服するか」

「ラーグリフの弱点? なんですかそれは」

 アリスは思い当たる節がないとばかりにレオンに反問した。

「俺」

 と言ってレオンは自分を指さす。

「あ~……」

「いやいやそこは、そんなことないです、って言おうよ。建前だけでもさ」

「あ~、思いつきませんでした」


 解体待ちの旧軌道ステーション「ガラノス」のまわりに停泊する船が増えて俄かに活気づいたが、この大規模構造体は一向に解体などされず、一部では点灯する照明が増えたようでもあった。

 レオンがラーグリフの弱点克服に頭を悩ます間にも、その修理は着々と進んでいった。



AIが人の知能を超える、しんぎゅらなんとかは、部分的にはあと五年くらいでやって来そうです。

ちゃんと人の代替になるのはいつ頃でしょうね。

しぬ前に拝んでみたい


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