公開審問
村に朝日が昇り、今僕はいつもの畑の水やりをしている。
正直言って、今も眠たい。
なぜかと言うと昨晩の侵入者騒動で寝不足気味だ。
まさかエリールの知人が村に侵入していたとは驚きが隠せない。
後は全裸に近い服装で侵入するなんてただの変質者としか言いようがなく、前の世界だったら一発で牢屋行きだ。
とにかくこの水やりを終えたら、今日は旧噴水広場で審問を行う予定だ。
シュバイエの目的は一応把握している、僕と裏切り者のダウストンの首を獲ること。
普通なら誘拐でいいのに、わざわざ首を獲る必要があるのだろうか?
まあ、とりあえずこの後の審問で明らかになるだろう。
返答次第では、その場で処刑するか、エストラル王国と相談し処遇が決まるまでもうしばらく牢屋に入ってもらおう。
今回行われる審問には僕とエリールに各地区と各種族の代表に加えエストラル王国の王様と一緒に行うことにしよう。
水やりを終えた後、僕は今起きたばかりのラーブさんに昨晩起きたことをエストラル王国国王に伝えてもらえないかとお願いした。
この話を聞いたラーブさんはかなり驚いたが、快く了承し、国王の元へワープした。
ワープした後、僕は各地区と種族代表を旧噴水広場へと集合するように呼び掛けに行った。
約一時間後。
旧噴水広場にて縄に縛られたシュバイエがいて、彼女を囲むように僕とエリールに各地区と種族代表の方々に加えてエストラル王国国王と第一騎士団団長アーノッドが参加している。
エストラル王国国王はシュバイエと目が合った瞬間、国王はシュバイエに挨拶をした。
「これはシュバイエ殿。あなたと会うのはいつ振りかね」
「国王こそ、相変わらずお元気で」
一見 王族同士の挨拶に見えるが、二人の間には目には見えない火花のようなものがありそうだ。
そして、この様子を村の人々は興味津々で見ており、この村では恐らく一番大きな出来事になっている。
そりゃ、村に外部からの侵入者が出たということは初めてのことだし、王様まで参加してれば穏便に済ませることはできない。
なお、シュバイエを刺激して進行不可にならないよう、ダウストンを含むブランチ地区の皆さんは旧噴水広場には近づかないようにお願いしている。
あと、シュバイエのほぼ全裸の服装は公にさらすのもよくないので、コットンに作らせた服を着させた状態で進む。
こうして役者がそろったところで、侵入者シュバイエの審問が開始した。
まずは、僕からの質問だ。
「シュバイエさん。あなたは何の目的でこの村に近づいたんだ?」
「黙秘する」
シュバイエの返答はわかっていたが、今更黙秘するとは・・・。
昨夜のことをすっかり忘れているような言い方だ。
「黙秘って、『黙秘』とは言いませんよ!僕はしっかりと昨晩のことを覚えているんですから!ここで白状した方が身のためですよ!」
僕は刑事ドラマのように威圧的な態度でシュバイエに忠告した。
しかし、僕の態度と忠告を聞いて何かしら反応をするかと思っていたが、シュバイエはピクリともしない。
僕の後を追うようにダークエルフ族のルーベが続けて証言した。
「私もこの場にいたのでで聞いてました。あなたは村長の首を獲ると!」
ルーベも証言したが、それでもピクリとも動かない。
このままでは話は平行のまま進んでしまう。
よし、あまり使いたくはなかったが、あれを使おう。
「なあ、シュバイエ」
「なんだ?」
「ここで一つ取引をしよう」
「取引って?」
「もし、正直に話してくれば、今ここで僕とダウストンの首を差し出し、無罪放免にしてやろう。悪くはないだろう?」
もちろん、話したことは全部嘘で最初から自分の首を差し出すつもりはない。
「「「えぇーーー!?」」」
僕の提案を聞いたみんなは絶叫したと同時に反対の意見を出した。
「村長、正気か!?敵に首を差し出すなど自殺行為だ!」
「練さん。冗談はよしてほしいです」
「見損ないましたよ。村長!」
「そんな・・・」
神の使いである僕の態度をみて、みんなは失望の声を上げている中、僕の提案を聞いたシュバイエは幼子のように目をキラキラ輝かせながら返事した。
「えっ!?それは本当か?なら全部、全部話すよ!」
「「「えーーー!!!」」」
シュバイエの反応にみんなは再び絶叫した。
みんなには誤解を与えてしまったが、ともあれ、これで話が進めることができる。
そして、僕の嘘を信じたシュバイエがこの村に来た目的はこうだ。
シュバイエがこの村に来たのは、神の使いを誘拐するためだ。
もし抵抗した場合、その首を獲り持って帰ることを命じたのは父親である皇帝ライゼルだ。
あと、ダウストンについては、余裕があればついでに始末をしておくように言われたようだ。
やはり彼女はブランチ鉄鋼国の差し金で違いない。
誘拐の意思があるので実刑は避けられない。
そして、国王は彼女にどのような刑を処されるのか気になるところだ。
一通りシュバイエの供述が終わり話し合いをし、そしてシュバイエの処遇が決まった。
「シュバイエよ。誘拐未遂の罪で、お主を強制送還の刑に下す」
国王から告げたのは強制送還、すなわち元の国に還すことだ。
今回、この量刑になった理由は、未遂で終わったことが原因だ。
もちろん、この判決に異議を申したいが、未遂で終わっているので納得している。
その後に予定として、ブランチ鉄鋼国へ連絡し相互の了承が決まり次第、決まった場所で引き渡すそうだ。
国王の話が終わると、シュバイエは僕にあの話について聞いてきた。
「もう話はついたからさっさと神の使いとダウストンを出せ!」
あ、そうだった。
彼女に嘘を付いていたことを忘れていた。
もうここでネタばらしにしよう。
「ごめんシュバイエ。君の話を聞くための嘘を付いたんだ。本当にごめん」
僕の話を聞いたシュバイエは段々と顔を真っ赤になるやいなや、すぐに暴れはじめた。
「なんだと!この私に嘘を付いたのか!殺してやる!殺してその首を父上に献上する!!!」
ある程度分かっていたが、こうして暴れていたらきりがない。
何とかして落ち着かせようとしたが、抵抗して聞く耳を持たない。
どうしたものかと悩んでいたら、ラーブさんが僕に話しかけてきた。
「ここは儂に任せてくれないかのう」
「ラーブさん?何か考えがあるのですか?」
「あー、少々手荒な真似になるが見ておいてくれ」
そう言ったラーブさんは持っている杖を暴れているシュバイエに向けて何をするのかと思っていたら、呪文を唱えた。
「バインド!」
バインドと唱えた瞬間、シュバイエの周りに光る縄が現れたと同時に光る縄がシュバイエをきつく巻き付いて動きを封じた。
「なんだこれは!?離せぇー!」
シュバイエの動きを封じた後、ラーブさんは僕に話しかけてきた。
「村長殿。悪いが手を出しくれぬか?」
なんのことかわからず、僕はラーブさんの言われた通りに右手を出した時、すかさずに隠し持っていたナイフで僕の手のひらを切った。
何が起こったか分からなかったらが、時間がたつにつれ血の温かさと流れる感覚で今の状況を把握した途端、右腕全体に激痛が走った。
「痛―――!」
僕は痛みで叫ぶ中、ラーブさんは冷静に手のひらから流れる血を小皿に受け取り、いつの間にか持っていた筆を血の入った皿に浸した。
血塗れた筆をバインドで縛ったシュバイエの額に何か幾何学模様を描いているようだ。
幾何学模様を描いた後、続けて呪文を唱え始めた。
「我、ラーブ・レーベが命ずる。汝、血の主と交わりて主従の契約を交わし服従せよ。血印の契約!!!」
唱え終えると額に塗られた血が赤く熱を帯びて蒸発し始めた。
「あぁ、あぁーーー!!!」
シュバイエは獣のような悲鳴と共に熱を発した血はタトゥーのように額に刻まれた。
「ラーブさん。彼女に何をしたのですか!?」
「これは血印の契約と言って隷属器の代わりに魔法で奴隷にする方法じゃ。これを使うには主の血が必要でのう、なのでお主の手を切らせていただいたのじゃ。あとでお詫びに回復魔法をかけてあげるから安心せい」
安心ってすごく痛いんですけど!?
まあ、これでシュバイエは僕の直属の奴隷になったというわけだが、村の理念に反してっしまうので、かなり複雑な気持ちだ。
色々大変なところがあったが、これにて侵入者シュバイエの審問が終わった。
終ったあとは、各自それぞれの場所に戻て行った。
今、この場に残っているのは僕とシュバイエとエリールだけになった。
「シュ、シュバイエ・・・」
「なんだ?エリール?」
「その・・・」
エリールは何か言いたそうだが、言い出せないようだ。
シュバイエの方も奴隷になったことに不満を持っている。
なんだか気が乗らないが、今はやるべきことをしよう。
こうして侵入者でエリールの知人であるシュバイエは迎えが来るまで奴隷という形で一時的ではあるが、村の仲間入りを果たした。
果たして、これでよいのだろうか・・・。




