絶望の光景
邪神竜との戦いはまだ続く。
最初はシザーの攻撃からだ。先ほどの毒攻撃とは違い、シザーの魔法で周りに石塊を複数個作り邪神竜に向かってマシンガンのように撃ち放った。この攻撃は邪神竜に直撃したが、体には傷一つついていない。
『貴様らの攻撃はこの程度か?』
邪神竜はかなり余裕のある態度をとる。
『ならもう一度、俺の地獄の炎を受けるがいい』
邪神竜は攻撃の体勢をとり僕達に狙いを定めた。
ミョルニルに負傷を負わせた技を繰り出す気だ。
すると、コットンとイモムシ達が粘り気のある糸を邪神竜の口に向けて発射し、口を封じ込めた。
『おのれ、虫の分際でよくも・・・うっ・・・』
突然、邪神竜の顔が次第に青ざめていきのた打ち回り始めた。一体何が起きたんだ?僕は邪神竜の顔をじっくりと見てみると。
どうやら先ほど発射した糸が口だけじゃなく鼻にもかかっていたため呼吸ができずにもがき苦しんでいるようだ。
これはチャンスだ。僕はミョルニル達に一斉攻撃の命令を出した。
まずはリリ達は距離取って魔法を使って牽制し、次はミョルニル達の攻撃が始まった。
先ほどの魔法攻撃でパニックになっている邪神竜にアトラ達が砲丸投げなのうようにルン達を投擲した。
だが、いくら打たれ強いゴーレムでも魔道具によって作られた土の集合体なので、このままでは邪神竜の硬い鱗に当たって体が砕け散ってしまう。
そこで、エリールはルン達に鋼属性の魔法をかけた。
「鋼よ、彼らに鋼鉄の鎧を纏わせよ。『鋼鉄化』!」
脆い岩から鉄の体になったルン達はそのまま邪神竜の体に直撃した。邪神竜の体には傷一つついていないが、筋肉組織にはなんらかのダメージを受けているだろう。
そして、ミョルニルにも鋼属性の魔法『鋼鉄化』を付与してもらい、もがき苦しんで仰向けになっている邪神竜の頭を蹴り上げて、蹴った勢いでミョルニルの胸まで上がると隙を逃さずにとどめの右ストレートからの左フックをお見舞いした。
ミョルニルの鉄拳を受けた邪神竜は重たい体を木の葉のように飛んでいき、村長の家だった瓦礫に落ちて煙が舞った。
僕達が出せる精いっぱいの攻撃で邪神竜は倒したかに思えたが、現実はそうもいかない。
『貴様ら、調子に乗るなぁーーー!!!』
倒したはずの邪神竜が怒鳴り声をあげる。
どうやらミョルニルの攻撃で口と鼻に付いていた糸が取れて呼吸が出来るようになったようだ。
『貴様ら、俺が呼吸も攻撃も出来ない事をいいことに好き勝手にしやがって、もう許さんぞ!!!』
僕達の猛攻で邪神竜は怒り心頭のようだ。
『本来なら貴様らのような雑魚には使いたくなかったが、この俺をコケにしたんだ。この報いをうけるがいい!!!!!!』
邪神竜は翼を大きく羽ばたかせ再び空へと飛んで行く。
邪神竜は上空百メートルまで飛ぶと、自身が持っている闇の魔力を使って、右前足と左前足の間に見るからに禍々しい黒い球が出来て、次第に風船のように大きく膨らんでいき、最終的にはガスタンクぐらいの大きさになった。
『俺の闇の魔力をすべて注ぎこみこの村ごと消滅させてくれる。喰らうがいい、世界の終焉!!!』
邪神竜は完成した黒い球をダンクシュートするかように投げ落とした。
邪神竜が放った巨大な黒い球は地上に落ちていく、このままじゃ村どころか森自体が無くなってしまう。
大変な時に技や魔法が使えず何もできない僕をよそにリリ達は地面につく前に上空で爆発させようと巨大な黒い球に攻撃を当たてているがピクリともしない。
そしてエリールは自分に残っている全魔力を使って大技を放った。
「獄炎よ、我が魔力をすべて捧げ敵を焼き払え、火炎焱燚!」
エリールの杖から巨大な火の玉が形成し黒い球に目掛けて発射した。
地上から約三十メートルぐらいで巨大な火の玉と巨大な黒い玉が衝突した。
その瞬間、上空で大爆発を起こし、この村に爆風と衝撃波が襲った。
僕達はこの爆風から守る隙もなく吹き飛ばされてしまった。
何分経ったか分からないが僕は目を覚ました。
僕の視線の先には青い空が広がっていた。
「・・・うーん、ここは?」
どうやら先ほどの爆風に吹き飛ばされたせいで僕は仰向けで気絶をしていたようだ。
そのせいか体のあちこちが痛い。
それにしても何か忘れているような・・・
「はっ!そうだ。エリールとミョルニルはどこに・・・って嘘だろ!?」
僕はエリール達の安否を確認するために体の痛みを我慢し体を起こして周囲を見渡そうとした時、僕は想像を絶する光景を目の当たりした。
村の八割は焼け野原のように更地になってしまい、大きなため池は水が一滴も残さず渇いていて、僕が苦労して育てた作物や果樹もみんなで植えたサツマイモも何もかもすべて跡形もなくなっていた。
エリールやミョルニル達を見つけたがピクリとも動かない、僕と同じ爆風に吹き飛ばされたせいで気を失っているだけのようだ。
僕はあまりの凄惨な光景に呆気に取られていると、上空にいた邪神竜が降りてきて僕の前に降りてきた。
『はぁはぁ・・・どうだ思い知ったか・・・俺に歯向かったらどうなるかを・・・』
邪神竜は息を切らしながら話している、おそらく先ほどの魔法で闇の魔力を消耗した影響でふらふらになっている。
そして呼吸を整えた邪神竜は続けて唖然としている僕を罵りにかかった。
『小僧、本当は弱いだろ?』
「・・・・・・」
『ふん、図星のようだな。小娘や土塊は俺に殴打や魔法で抵抗しているのに貴様は何もしないどころか逃げたばかりではないか。本当にこの村を守る気があるのか?ま、どうせ何もできない無能者だから俺の言っていることがわからないだろうがな』
好き勝手に言っている邪神竜の前でただただ黙っている僕は黙ることしかできない、確かに僕は技や魔法が使えないし、ましてや世界を救う勇者でもなくただの一般市民だ。
僕はこの村で第二の人生を歩むつもりが後悔だけが残る結末を迎えてしまうのかと諦めたその時。
「・・・ルナ・・・」
今の声は?まさか!
「ゴ主人様ヲ馬鹿ニスルナァーーー!!!」
ミョルニルが目を覚まして起き上がり、邪神竜に向かって叫んだ。
「俺ハゴ主人様ノコトヲ邪魔者ダロウトモ無能者ダロウトモ一ツモ思ッタコトガナイ、ムシロ感謝シテイルンダ」
『感謝しているだと?こいつにか?』
「ソウダ!ゴ主人様ガイナカッタラ俺タチハコノ村デズット眠ッタママニナリソウナ所ヲゴ主人様ニヨッテ長イ眠リカラ覚メテ、俺達ノ話ヲ聞キ一緒ニコノ村ヲ再ビ皆ノ笑顔ガ溢レル村ニ復興シヨウト約束ヲシタンダ。例エ魔法ガ使エナクテモ、俺ニトッテハ何ヨリモカケガエノナイ大切ナゴ主人様ナンダァーーー!!!!!!」
更地に響き渡るミョルニルの魂の叫びを聞いた僕は無意識に涙を流していた。
「そうよ!私も練にはたくさん世話になったわ」
ミョルニルに続いてエリールも声を上げる。
「私は大好きな両親を亡くし、誘拐され奴隷になり挙げ句の果てには捨て駒のように魔物の囮に使われて心身共にぼろぼろだった私に救いの手を差し伸べてくれた練には感謝しているの。だからあなたの様な人をバカにする奴に練には指一本触れさせない」
エリールは魔力を使い果たして立っているのがやっとなのにも関わらず、僕のために涙を流しながら邪神竜に向かって叫んだ。
「ゴゴゴー!(そうだ、俺達が付いているぞ!)」
「キューン・・・(主・・・)」
「キシャー!!!(まだまだ勝負はついていないぜ!!!)」
「フシャー!!!(あんな奴ぶっとばしてやろうぜ!!!)」
「フギッフ(まだ、負けたわけじゃありませんよ)」
「ムシュー(そろそろゆっくりしたい)」
「コケー・・・(けちょんけちょんにしてやるぜ)」
アトラ達も意識を取り戻し立ち上がり僕を励ますかの様に声を出した。
『そうだ僕は一人じゃないんだ。皆んながいたからここまで来れたんだ。こんなところで諦めてたまるか!!』
僕は涙を拭いお礼を言う。
「みんなありがとう。おかげで心のモヤモヤが吹っ切れたよ。みんな一緒に邪神竜と戦おう!」
「「「「「「「「オーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」
僕の号令によりミョルニル達の士気が再度上がった。
『はぁはぁ・・・何度やっても同じことだ。今度こそ貴様ら全員を殺してくれる!』
邪神竜との死闘は佳境に入る、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのだろうか。




