彼女の名はエリール
森で倒れていた彼女を手当てをするため村に戻って空いている家で寝かせることにした。
枕と布団など寝具一式はコットンたちが急ピッチで作ってくれた。
その前に彼女に付けている隷属の首輪を外さなければいけない、僕はミョルニルが言っていた鍵束を持ってきて鍵穴が合うか試してみた。
時間はかかったが、首輪を外すことができた。これで彼女は自由の身になり僕とミョルニル達は一安心した。
ひとまず彼女をボロ布のローブを着せたままベットに寝かせた。身体の様子は首輪によるアザがあること以外問題なく呼吸も安定している。寝ている彼女が目を覚ましたら、村で育てた果物でもごちそうにしよう。
しかし、なぜ少女一人この森にいたのだろう?一人で逃げてきたのか、それとも何者かによって捨てられたのか、考えれば考えるほどわからなくなってきたぞ。
とにかく、彼女が目を覚ますまで待つしかないな。リリも窓から顔を覗かせて心配そうに見つめている。
リリを見ていると、何か魔法が使えない僕は名前も知らない少女の回復を祈ることしかできなかった。
彼女のために果物を食べさせるため採りに行きたいが、彼女のことが心配で離れられない。すると、ルン達が看病をしてくれるそうなのでルン達に任せて僕は果物を採りに行く。
数分後、僕はカゴいっぱいの果物を持ってきた。村で採れたリンゴとみかんとグナの実が入っている。
看病してたルン達に聞いてみたが、特に変化はないようだ。僕は持っているカゴを椅子の上に置こうとした時だった、今まで動かなかった瞼が動き眠っていた彼女が目を覚まし体を起こして自分でローブを脱いだ。ローブを着ていたため分からなかったが、その姿は金髪のロングで碧眼の女性だ。意識が朧気ながらあたりを見渡す、そして僕と目が合い。
「大丈夫?よかった〜、森の中で倒れている所を僕が・・・」
「ひっ・・・きゃーーー!!!」
「ぎゅにゅ〜〜〜」
僕は彼女に思いっきりビンタをくらった。そりゃそうだ、目が覚めたら目の前に知らない男性がいるのだから・・・
「ごっごめんなさい。それと首輪を外してくれてありがとう」
「あーどういたしまして」
僕にお礼を言う彼女の笑顔は満開の桜のように美しかった。
「てか、ここはどこなの?」
「ここはハルバ村だよ。君が森で倒れているところを僕の仲間が見つけて、この村で手当てをしていたんだよ」
「ハルバ村?聞いたことがないわね。あなたは何者なの?ここで何をしているの?」
「僕は立吹 練。この廃村旧ハルバ村を復興をしているんだ」
「廃村の復興?どうしてそんなことを?」
「話は長くなるんだけど・・・」
僕が異世界転生し神の使いになったこととこの廃村にいる経緯をはなした。
「えー!!立吹さん神の使いなの?すごい!どんな技が使えるの?立吹さんはこの世界を救いにきたの?立吹さんのいた元の世界の文化と技術はどんなものなの?それからそれから・・・」
まるで子供のように目を輝かせながら質問攻めをしてくる。答えたいのは山々だが、僕も彼女が何者なのか聞きたい所だ。
「はっごめんなさい。私ったらつい」
「いいんだよ。それで君の名前は?」
「私は『エリール・ジェーン』、エストラル王国の名門貴族ジェーン家の娘で歳は十六よ」
「貴族の娘!そんないいところの者がなんで奴隷に成り下がってこの森でたおれていたんだ?」
「分かったわ。話は長くなるけど最後まで聞いてほしいの」
貴族の娘のエリールがどのようにして奴隷になったのか経緯を話してくれた。
元々ジェーン家は古くから国王と市民からの信頼が厚く頼れる貴族で、その娘であるエリールは容姿端麗で両親と市民達に愛され順風満帆に暮らしていたが、そんな幸せは長く続くことなく彼女が十四歳の時に両親が不慮の事故で亡くしその後、叔父に引き取ることとなった。
叔父に引き取られて間もないある日、市場へ買い物に向かう途中、何者かに襲われて抵抗もできずに隷属の首輪をかけられてそのまま奴隷商に売り渡されたのだそう。
その後、『ベッチャ』と名乗る人物に買われて二年間理不尽な扱いを受けた。
エリールがこの森にいたわけは、ベッチャと一緒にある町まで向かってたところ魔物に襲われあろうことにエリールを囮にして逃げたのだ。
幸いエリールは魔物から逃げ切れたが、飲まず食わず心身ともに疲れて雨が降るこの森に迷い込み倒れて今に至る。
あまりにも身勝手な話に僕は怒りが込みあがってきた。笑顔が似合う少女を奴隷として売った奴の顔を見てみたいのもだ。思いっ切り奴の顔面にストレートパンチを喰らわせたい。
「エリールを襲った奴にこころあたりはないの?」
「いいえ、急に襲われたものだからまったく見当がつきません」
これじゃ探しようがないな。いずれエリールを襲った奴と買った悪徳貴族に出会うだろう。
「ん?ちょっと待って、なんで何日経過しているかわかるんだ?」
「それは簡単よ。私を買った人の屋敷の窓から見える気候や景色の変化で日にち経過を自室の壁に傷をつけて記録を付けていたからよ」
「へぇ~」
自分が置かれている状況が最悪なのに、日にちを記録する余裕があるなんて忍耐力が高いんだなと感心していたら、明るい表情を見せていたエリールの顔が、段々暗くなっていき重たい口を開いた。
「私の人生どうなるのかな・・・父も母も亡くなり住む場所も失い、奴隷にだった私はなんのために生まれてきたの?もうわかんないよ、もう・・・死にたい・・・」
弱音を吐くエリールは布団を握りしめて今にも泣きだしそうな表情を浮かべている。
せっかく笑顔が素敵なのに悲嘆に暮れてばかりではいけない。エリールの絶望と不安を払拭できる方法はないだろうか、少し考えていると、あることを思いつきエリールに提案をする。
「行く当てがないなら、いっそのことこの村に住んだらどうかな?」
「え?」
「ここなら食料も寝る場所もあるし、君のことはミョルニル達が守ってくれる。この村に住んでいる人は僕だけで話す相手がいなくて寂しかったんだ。君を幸せにすることを約束するよ、どうかな?」
「良いの?こんな私でも?」
「もちろんだよ!そうだろみんな!」
僕はエリールのことを気にかけて家の外にいるミョルニルたち声をかけた。
「異議ハナイデス。俺達モエリール様ヲ歓迎イタシマス」
ミョルニル達も賛成だ。
僕の提案を聞いたエリールは安堵の胸をなでおろして。
「うぅ・・・・・・ふぁ・・・ありがとう・・・、ありがとうみんなぁー!!!」
エリールはお礼を言いながら堰を切るように大粒の涙を流した。
こうして元貴族のエリール・ジェーンは旧ハルバ村の最初の住人として迎え入れることとなった。