立吹 美少女を拾う
ある晩、旧ハルバ村がある森に大雨が降っている。そんな中ボロ布を着ている人が、一人で雨が降りしきる森の中で弱々しく歩いている。そして、その人は転倒し薄れていく意識の中で力を振り絞って一言つぶやいた。
「誰か・・・助・・けて・・・」
翌日
「昨晩は、大雨だったから畑の方は大丈夫かな?」
僕が異世界に来て約二ヶ月が経過していた。ミョルニルたちは変わらずに過ごしている。
変わったことがあるとしたらブレード・ディアーのリリのことだ。
僕たちが保護した時は、抱きかかえるぐらいの大きさがあったが、今は僕の胸ぐらいの大きさになり頭から刃物のような角が生えてきた。
小さかったリリが大きくなってなんだか感慨深いな~。
おっと、話はここまでとして、畑の様子を見に行くことにしよう。
畑の状態は問題がないように見えるが、雨ではねた泥が葉っぱについてしまっている。
このままでは、病気になってしまうのでルンたちを呼んで泥を落とす作業を行うことにした。
約一時間で葉っぱについた泥を落とすことができた。
さて、次は何かしようと考えていたらどこからともなく声が聞こえてきた。
「ゴゴゴ~~~!!!」
どうやら村周辺の見回りをしていたノーツようだ、かなり慌てて僕のところにやって来た。
なにか必死に訴えているが、何を言っているか全然分からない。
すると、ミョルニルがやってきて、僕の代わりにノーツの話を聞いてもらうとミョルニルの顔色が徐々に変わっていき。
「ゴ主人様大変デス!!!森ノ中デ人ガ倒レテイルソウデス。アトラ達ガ待ッテイルノデ現場ニ行キマショウ」
「分かった、すぐに行こう!ルン達は作業を中断して急患を迎え入れる準備をするんだ。頼むぞ!!」
こうして、僕はミョルニルとノーツを連れて現場まで急行した。
村から出て十二分のところに着いた。
アトラたちが手を振っている。現場はここのようだ。
アトラ達に近づくとアトラの足元には人が倒れている。
早速、容体を確認してみよう。
体はうつ伏せになっていて、見た感じはボロ布のローブを羽織っていいるだけでけががあるかどうかわからない。
失礼ながら体を仰向けに直した。すると、僕はその人の姿を見て驚愕した。
僕と同じくらいの少女じゃないか!!!とっとにかく身体の状態を確認しよう。
うーん、身長は僕と同じようだ。息はしていて外傷はなさそうだ。
栄養失調によるものだろうか、手足は少し痩せこけている。
身体の特徴はたわわに実った胸部に絵画に描かれるような顔だ。
つい抱き着きたくなるような・・・っていやいや見とれている場合ではない。
ん?首に首輪のようなものが付けられているぞ。隣で見ていたミョルニルが少女の首輪を見て。
「大変ダ!!!コレハ隷属ノ首輪ダ!!!」
「隷属の首輪・・・まさか!?」
「ソウデス、彼女ハ奴隷ノヨウデスネ」
奴隷か、この世界にも物騒なものがあるのか。とにかく、なんとか彼女の首輪を外すことはできないだろうか。
「何とかしないと、これは魔法か何か使って外すことはできないの?」
「イイエ、コノ隷属ノ首輪ハカナリ頑丈デ魔力ヲ吸収シ効力ヲ打チ消す魔吸石ヲ使ッテイルノデ鍵ヲ使ワナイ外セナイノデス」
「そんな!何もできずにこのまま弱っていく彼女を見殺しにしてしまうのか・・・」
「ハイ、ソウナリマス・・・」
僕は少女一人の命を救えずに無力感でいっぱいになった途端、ミョルニルが声を上げた。
「アァーーー!!!」
「うわ!!びっくりした!急に声を出すなよ!!」
「思イ出シマシタ。ゴ主人様、コノ首輪ヲ外スコトガ出来ルカモシレマセン」
「それは本当か!?どうすればいいんだ?」
「ゴ主人様、前ニ村長ノ家ノ掃除ヲシタ時ニ鍵束ヲ見ツケマシタヨネ?」
「あーーーあったなー、そのカギなら僕の小屋に置いてるけど、それがどうしたの?」
「ソノ鍵束ガ隷属ノ首輪ノ鍵ナノデス」
「そうだったのか、ならいっそのこと彼女を助けねば」
こうして、彼女を村で手当てを受けるため、アトラに彼女を背負って村に戻ることにした。
村へ帰る途中でミョルニルにあることを尋ねた。
「なぜこの村に隷属の首輪の鍵があるんだ?この村で奴隷の取引でもやっていたのか?」
「違イマスヨ。ムシロソノ逆デス」
「逆?」
「ハイ、話ハ長クナリマスガ、昔コノ村ニ奴隷商ガ来タコトガアリマシテ。百人ノ奴隷ヲ連レテイマシタ。前ノゴ主人様デアル村長ガ村ノ全財産ヲ使ッテ、ソノ奴隷ヲ全員買ッタノデス」
「結局、買っているじゃないか!」
「ゴ主人様!!最後マデ話ヲ聞イテクダサイ」
「はっはい・・・」
「奴隷ノ購入ハ建前デ、目的ハ奴隷ノ解放デス。方法ハ奴隷百人分ノ契約書ヲ奴隷商ニ持ッテコサセテ離レテイル間ニ『ゴーレム・コア』ヲ作ッタ魔導具職人ガ作ッタ偽物ノ鍵トスリ替エタノデス。コウシテ偽物ノ鍵ニスリ替エテイルトハ知ラズニ商談ニ満足シタ奴隷商ハ村ヲ去リ、本物ノ鍵デ買ッタ奴隷達ニ付ケテル首輪ヲ外シテ解放シマシタ」
なるほど、そんなことがあったのか。でも新たな疑問が生まれる。
「でも、なんで偽物の鍵の用意できたんだ?」
「前ノゴ主人様ハ自由ヲ束縛スル奴隷ヲ嫌ッテオリマシテ、イズレコノ村ニ奴隷商ガクルコトヲ想定シテ、予メ魔導具職人ニ偽物ノ鍵ヲ作ッテオイタノデス」
ほー、前の村長は奴隷否定派だったのか。
「それで解放した奴隷達はどうしたの?」
「解放シタ後ハ、ソレゾレノ故郷ニ帰ッタ者モイレバ、帰ル当テガナク、コノ『ハルバ村』ニ住ム者ガイマシタ」
「へぇーそうなんだ。でも、なぜ魔導具職人が偽物の鍵を作れたんだ?」
「スミマセン、俺ニモワカリマセン。タダ、昔ハ色ンナ場所デ魔導具ヲ作ッテタコトシカ聞イテナイデス」
この話を聞いて村もそうだが、前の村長等の村の住人たち全員何か隠していることがありそうだな。
これもいずれ明らかになっていくのだろうか・・・
「ゴ主人様、モウスグ村ニ着キマス。彼女ヲ空イテイル家デ休マセマショウ」
「そうだな、まだ予断を許さない状況だから気を引き締めていこう」
こうして森で倒れていた彼女を村で保護することにした。