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事件解決


 翌日の夜。メイスン警部がわざわざ王を訪ねて来た。

「おっしゃる通り調べましたがね、意外な人物が浮かび上がりましたよ。誰だと思います?」

 ちゃっかり夕食を平らげて、警部はそう切り出した。王がしたり顔で当ててみせる。

「クライスラー氏でしょう。夫人のご主人です」

「ははぁ、さすがですな。その通りです」

「じゃあ、何? ご主人が奥さんの首飾りを盗んじゃったの?」

 デザートの苺のタルトのアイスクリーム添えの、三皿目が来るのを待っていた巽が聞いた。

「いや、夫人もこの事は了承済みさ」

「つまり、あの盗難騒ぎは、夫人の狂言だったんですな。保険金目当ての詐欺ですよ。本物のルビーはとっくに売りさばいてしまっていて、更に偽物を、盗まれた事にして盗難保険を貰おうって寸法です」

「え――っ! そうなの?!」

「幸星があのルビーに気付かなかったら、私も騙されていたかも知れないよ。――ルビーは、最初から安物と取り替えられていた。停電は、誰かが起こしたものだった。そして夫人は、明りがつくまで盗まれたとは気付かなかったと言う。彼女は豊かな巻毛の持ち主だったし、暗闇の中で、彼女の後ろに回って、彼女に気付かれずに首飾りを盗むなんて、出来ると思うかい?」

「髪の毛に引っかけて絡まりそうな気がするね」

「そう、夫人は首飾りを自分で外したのさ」

「しかし、夫人は体にぴったりしたドレスを着てましたが、一体何処に隠していたんでしょうな? 会場はすぐさま我々が調べましたし、……ずっとあの部屋にあったんですかね?」

「それはね、警部」

 王は咳払いを一つして続けた。

「彼女は本当は、それほど豊かな胸ではないんですよ。底上げをしてたんです」

「は?」

 四十過ぎの髭親爺は、面喰らった様子で目をぱちぱちしていたが、その向かいに座っていた巽は、「あ――っ」と、大声を上げた。

「それって、ブラの中に入れる、レモン型のやつ?」

「幸星っ?! どうして君、そんな事に詳しいんだい?!」

 何故か王は慌てたようにそう聞き返した。

「うちの姉様達も持ってるよ。ふかふかのとか、ゼリーが入ったのとか」

 得意げに答える巽に、王がほっと胸を撫で下ろす。

「君、姉様がいるのかい? そういえば女系家族だっけね」

「うん」

 警部はちょっと居心地が悪そうに、咳払いを一つした。

「……つまり、なんですな。その――底上げ部分の隙間に、首飾りをしまってたっていうんですな? なるほど、それで身体検査をしろと言った訳ですか」

「ええ。夫人は恐らく、あらかじめ首飾りを入れられるような物を用意して、身に着けていたんでしょう。停電と同時に素早くしまったんです。しかし、さすがに身体検査で詳しく調べられたら隠しおおせないと思って、ソファに隠したんですね」

「いやはや、女性はやる事が大胆ですな!」

「でもどうしてそんな事したんだろう? お金持ちなんでしょ?」

 巽は四皿目のデザートを平らげて聞いた。警部が、まだ食うのかと、目を丸くしている事など全く気にする様子は無い。

「伯爵家の財産の殆どは、文化財として指定を受けているからね。個人で勝手に処分する事は出来無いんだ」

「クライスラー氏には、事業の負債がかなりあったようですな。個人的にも、借金を随分していたようです。夫人は保証人になっていたんですよ」

 警部はワインを一口飲んでから、疑問を口にした。

「しかし、停電の細工をしたのは、ご主人だったんですかね?」

「夫人ですよ。言ってたでしょう、停電はしょっちゅう起こってたんです。彼女は自分で直せるんですよ。うちもそうですが、少しくらいの不具合に、いちいち業者を呼ぶのは面倒だし、費用もばかになりませんからね」

 王の解説に、警部はしみじみと頷いて、ワインに染まった口髭を拭いた。

「別居していても、やはり夫の苦境に黙ってはいられなかったんでしょうな」

「そんなものですかねぇ……?」

 まだ若い王と巽は、ちょっと思い到らない様子で顔を見合わせる。

 それから、王は巽に微笑んで、

「私も愛しい人の為なら、それくらいやるかもしれないね」

 と、言ったら、巽はひどくびっくりした様子で、

「胸パット?」

 と、聞いた。

 一瞬の沈黙の後、残る二人が腹を抱えて笑い出した事は言うまでも無かった。




〈終わり〉







 最後までお読みくださった皆さまありがとうございます。この話は浪漫艶話(王×巽)シリーズの第二弾で、『東京狂詩曲』の続編にあたるお話です。

 これを書いた当時クリスティーを良く読んでいたせいか、薄っぺらな内容を回りくどく喋るオバサマとか、名もない脇役にまで台詞を書いていた自分に感心します(笑)。初心忘れるべからず(汗)。

 第三弾は、またR18サイトのムーンライトノベルズに掲載する予定でいますので、よろしければそちらもご贔屓にしていただけると、幸いでございます。


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