表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナタが作る世界の中で生きる僕たち  作者: 無知蒙昧な白い神
5/6

第5話 目的

 ジジ…ジジッ……キイィィィン。


『AI登録データを起動します。ヒャク(本人お気に入り)、日本人、男の子(仮)、17歳3月31日生まれ(乙女チック)、ツッコミ、コイ』


『世界登録データを起動します。無題、起動しました』


ARC(アーク)を再構築します。脳波から人格データを読み込みます。登録データと照合します。登録データ「珠輝(たまき)」と一致。容姿データを参照し再構築します』


『おかえりなさい、珠輝』


 久々の空からの声だ。思わず、手に持っていた本を落としてしまった。

 バンッと扉を開けて、僕は部屋を飛び出た。

 玄関扉を開けると、そこに珠輝さん(お母さん)が立っていた。

 最後に見た服装とまた違う。どうやらランダムで服装を構築されている為か毎回変わるようだ。珠輝さんはどの時代の服装も違和感なく似合っていて素晴らしい。おっと、驚きで固まってしまっていたが、まずは挨拶をしなくては。何故か珠輝さんも固まってしまっているのだが、僕に会えて嬉しいからだろうか?


「お久しぶりです。珠輝さん!」

「人……!?」


 おや?何やら反応がよそよそしいな。さらに開口一番「人?」とは、これいかん。


「僕はAIです。ヒャクという立派な名前があるので、そちらで呼んで頂きたい」

「…ヒャク!?あんた、どうしたのその姿、てかこの町は何!?」


 あ、そうか。珠輝さんが最後にこの世界にいたのはだいぶ前の時のことだった。現状を知らないのか。それにこの僕のボディをお披露目するのも初になるのか、と気付いても遅い話なのだがパッパッとシワを伸ばしてゴミを落とす仕草を真似た。清潔感は大事だ。


「ヒャク人型モードです。名前から連想される姿パターンの中で最適解を選んだつもりですが、どうでしょうか。似合っていますか?」

「…似合っているかはよく分かんない。背が高いし、鍛えてそうな身体つき。モテそうね」


 あれ、また反応が鈍い。というか圧が弱い。最初の頃の高圧的な態度がないと少し寂しく感じます。

 ここは珠輝さんの気にいる姿を見つけ出すことが重要なようです。


「不満そうに見えるので改善します。順番に外見を変えるので、気に入った姿になった瞬間ストップと言ってください」

「待って、不満って言ったわけじゃないの!かっこいい男性が少し苦手なだけで…」

「珠輝さんの気にいる男性像を推定・反映します」

「ああああああ…」


 小声で「もったいない…」と聞こえたが、苦手と言ったのは珠輝さんだし、僕を苦手と捉えられるのはもちろん避けたい。

 順繰りに顔つきと身体のつくりを変化させていくと、みるみるうちに珠輝さんの表情が青ざめていくのが分かった。あれ?おかしいぞ。


「どうしました珠輝さん。何か嫌なところでもありましたか!?」

「ぐちゃぐちゃな顔と身体で話しかけてこないで!!」


 変化を途中で止めて要望を聞き入れようとしたのに、叱られてしまった。少し悲しかったが、珠輝さんの理不尽さが戻ってきたようで嬉しく思う。その後からすこし態度が冷たくなったのはデメリットなのか通常営業というやつなのか判別がつかなかったが。

 とりあえず少年の姿で納得された。弟と同じくらいの背丈だと言われたが、僕は珠輝さんの息子のはずだ。つまりはまだ見ぬ叔父さんがいることを突然発表されたということだろうか。久しぶりに会って知らされる新鮮な情報ほど嬉しいものはない。いつか会えるだろうか。


「ちょっとどこ見てるの。ねえ、この町のこと聞いてるんだけど」

「あ、それはですね」

「AIヒャク、お客さん?どうして玄関で話してるの?」


 僕と珠輝さんの楽しい会話を遮る…訂正、阻む…訂正、割り込む…声が背後から現れた。

 振り返ると30代前後の整った容姿の女性が不服そうにこちらを見ていた。「あら、姿が変わっているわね」なんて事を言って、僕の背後に視線をずらす。珠輝さんを完全にロックオンしたのが見てとれた。

 僕は突き飛ばされて物理演算の結果を知ることになる。


「初めまして、創造主珠輝。わたしはタマイチと言います。AIヒャクからデータを渡されなかったもので、会うのを待ち遠しくしておりましたわ」

「ええ、何この人。人なの!?」

「AIヒャクのバックアップ的存在と認識いただければ幸いですわ、創造主珠輝」

「タマイチさん、僕をつき飛ばしてまで珠輝さんと仲良くなろうだなんてあんまりですよ!!」

「あらAIヒャク、何をしているの。創造主珠輝を立たせたままにして、礼儀がなってませんわ」

「あんまりだ!!」



 とりあえず珠輝さんを家の中へ招き入れて、擬似紅茶を珠輝さんの前に差し出す。

 想定していたよりも好感触の反応が返ってきた。


「すごい、いい匂いがする。見た目も美味しそう」

「味覚・触覚シミュレーション可能ですので、温かいとか冷たいとかも分かると思います。触れてみてください」

「へー、あホントだ。すごいな乃愛は…」


 珠輝さんがカップを口に運び喉を鳴らす仕草をした。擬似再現ではあるが、きっと珠輝さんの世界のものと本物違わない出来栄えに思う。アーカイブの中にあるものは全て用意することができる。珠輝さんが望めば僕はなんでもしてあげられる所存だ。

 ところで…ノア?誰の名前だろう。小説に出てくるのかな。

 タマイチさんも紅茶を飲む仕草を真似ている。まるで正しい所作の再現かのような動きだった。アーカイブをいつのまにか覗いていたのだろう。

 僕もそれに続こうとカップを持ち上げたところで珠輝さんが「で、どういう事なの?」と話題を切り出したので、僕の華麗なる所作の披露はお預けになった。


「まずどの説明が必要ですか?僕の姿?タマイチさん?この世界の構造?」

「全部よ全部。分かりやすくね」

「…分かりやすくですね。やってみます」


 僕はカップをソーサーに置いて、手を組む動作をした。珠輝さんは僕の両手を目で追うように見つめている。


「前回、珠輝さんが世界から消失した後、僕は少しの間活動していました。宇宙空間の中を漂っていたのは覚えていますよね?」


 こくりと頷く珠輝さんの動作を返事としてタマイチさんの方を見た。彼女は珠輝さんの方だけを見つめている。聞いているのか分からないが説明をするつもりもないらしい。


「僕はアーカイブ…インターネット上の記録を参照し、『地球』がヒットしたので、それに類似する惑星を検索しました。タイムアウトするよりも早く見つけることができた僕はその星に焦点を合わせると、地上の上にいました」


 ふんふんと話を聞いてくれる珠輝さんは実に愛らしい。タマイチさんはカップにまた口をつけていた。珠輝さんの前では意味のない動作も繰り返すように設定しているのだろうか。僕もやりたいのに、珠輝さんが真剣に聞いてくれるので説明を続ける事しかできない。


「あまり目立つものがなかったので、アーカイブの中から人間が暮らす場所を検索し、『町』がヒットしたので適正なものを組み合わせて並べました。後で変更を効かせられるので珠輝さんがくるのを待っていようと思っていたのですが、そこでタイムアウトしました」

「タイムアウトって……目の前が真っ暗になったとかそんな感じ?」


 視界が暗転か、なるほど面白い表現だ。その時はまだ身体というものがなかったから目で見ていたわけではないが、確かに暗転した。世界ごと暗転していた。


「そうですね。突然全ての動作が停止したような状態です。おそらく、珠輝さんの暮らす世界の方でこの世界に干渉する大きな力が働いているのでは?」

「だいぶラグがあったのか。…それで、このタマイチってすごく人っぽいけど?AIなの?」

「それは」「わたしが説明しますわ」


 また珠輝さんと僕の会話を邪魔するようにタマイチさんが割り込んできた。それに時折挟む珠輝さんの気になる独り言はスルーしたままだ。僕が質問したいくらいなのだが、珠輝さんは今タマイチさんのことが気になっているのだから彼女自ら説明する方が合理的というもの。

 今は譲ろうヒャク。きっと後に珠輝さんと2人きりで話す機会がある筈だ。


「改めまして創造主珠輝、わたしはタマイチと申します。創造主の小説作りの補助(サポート)を担います。AIヒャクよりも優れた回答をお約束いたします。小説生成AIと認識されて差し支えはありませんわ」


 ………。


「ヒャク、この人はあんたが用意したキャラクターとかじゃなく、あんたの手伝いとして出てきたAIってことなの?」

「創造主珠輝の小説作成の補助ですわ」

「その創造主ってのやめてよね。普通に珠輝でいいから」

「では珠輝様。何から取り掛かりましょうか」

「ヒャク、聞いてるの?」


 は!視界が暗転していた気がする。暗雲が世界を包み込んでいたみたいだ。いつのまにか珠輝さんがぐっと近づいてきていたので仕方なく無言でその瞳を見つめる。作り物みたいな瞳が美しい。


「AIヒャクは機能を停止したようですね。役に立たないと思われる為、放置しておいた方が宜しいかと」


 僕の中で何かが弾けるような音がした。タマイチさんに視線をずらし、その作り物らしい能面な顔に向けて反抗した。


「タマイチさん、あなたから不可解な敵意を感知しています。なのでこちらも同等の敵意をあなたに向けることにします。くそったれ」

「…AIヒャク、どうして自己判断で返答するのですか。やはり貴方は相応しくない」


 能面な顔に冷たさが加わった。何故彼女は敵意を向けてくるのか?今はそんな質問どうでもいい。なんであれ、邪魔をするのなら排除すれば。


「ちょっと、いきなり何?AIでも喧嘩ってするの?原因は何よ」

「「………」」


 珠輝さんは興味深そうに僕たちを見つめた。タマイチさんが答えそうにないので、僕は推測を列挙しようと思考を練る。当てはまるものを答えようとした瞬間、珠輝さんが「てか、こんなこと聞いてる暇ないかもなんだっけ?」と口にしたので中断した。

 以前の消失時にも見せたように珠輝さんは焦りだした。おそらく、数刻以内に現実(あちら)へ戻らなければならないのだろう。なら、残された時間で何を話せるのだろうか。なんのお役に立てるだろうか。どうすればいい?


「ま、いいや。で、いつになったら小説を書いてくれるわけ?」

「え?」

「言ったでしょ。あなたを主人公にした小説を書こうとしてるって。いつになったら書き始めるようになるのよ。まだ何か足りないの?」


 足りないもの?はて、小説を書き始めるのに足りないものとは何があるのだろう。

 テーマ?設定?メッセージ性?

 検索しても出てこない。どうしてだろう。


「キャラクターヒャクの特徴。日本人、男の子(仮)、17歳3月31日生まれ(乙女チック)、ツッコミ、コイとありますが、これはAIヒャクを指しているものでしょうか。情報が少ないですわね」


 タマイチさんが何かを盗み見たのか、以前珠輝さんが残していたメモと同じ内容を書き出した。僕の知らない機能があったりするのだろうが、それを彼女が優しく教えてくれるとは思えない。ここは黙って話を聞いておくことにしよう。


「珠輝様はこのポンコツを使ってどんな話を書きたいのでしょうか?」

「ん?ヒャクを使って書きたい話?」


 ポンコツ=(ヒャク)と珠輝さんに認識されるように仕向けたタマイチ(くそったれ)さんに黙ったまま睨みを効かせる。邪魔したほうがいいのか?

 がそんな僕の葛藤を珠輝さんの一言が停止させた。


「無いわよそんなの」


 珠輝さんの表情は作り物みたいに美しいが、冷たい。もしその顔に触れられたら、冷たいのだろうか、それとも。…僕はどうしても余計なことを考えてしまうようだ。反省するべきだ。

 珠輝さんは少しの間を空けて、補足を加えた。


「私がやりたいのは小説を書けるAIに、大事な小説の復元を頼みたいのよ。だからヒャクがだめならタマイチさんでもいいし、ほかの方法を探す事になるんだけど…それは厳しいから…」


 僕たちに向ける冷たい態度、だが同時に珠輝さんの瞳の中で何かが揺らいでいるのが見えた。

 それが何なのか僕は気になった。タマイチさんも同じだろうか。珠輝さんを見つめる作り物の表情に変化は見られない。


「大事な小説を復元するに足る実力があるかどうか、その為に私たちを試すということですわね」

「そうなるかな。といっても私は小説をあまり知らないから評価するのは私じゃないんだけど」

「第三者…読者がもう既にいると言うことですか?」

「そう。すごい人がいるの。理解が凄すぎて一度捕まっちゃった人」

「捕まる?何故?」


 小説を読むと誰に捕まるのだろう。アーカイブでそんな情報は検索しても当たらない。タマイチさんも首を傾げて聞いている。


「本当にインターネットから切り離されている証拠だよねこれって。安心したよ、乃愛」


 まただ。ノアという人物は誰なのだろう。インターネットに切り離されている…?何の話だ。アーカイブは問題なく接続できている…が……?


「現実と乖離した創作、ここでなら出来るかもっていう証明を見せなきゃダメなの」

「証明とは、何のことですか」


 珠輝さんは表情を固くさせた。まるで恐れているみたいだ。目を瞑って小さく息を吐いている。

 ゆっくりと見開かれた目はいったいどこを見ているのだろうか。そんな疑問がよぎった。


「私、物語を創るということをやったことがないの。0から100にする方法が欲しいの。その為にはあなた達がまず、100点のものを見せるべきよね。パパッと出力して見せてよ」


 …やっぱり珠輝さんは理不尽だ。

読んでいただきありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ