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童話★流れ星

流れ星の箱庭

『冬の童話祭2022』参加作品です。


テーマは流れ星★

 深い森の中、一本の獣道を通った先に小さな村がありました。

 その村には、親から子へと歌い継がれてる子守唄があります。


『ここは始まりの村。

  全ての始まり。

  世界の始まり。

  流れ星のキレイな箱庭です。


 

  夜空を見上げて、流れ星を探そう。

  流れ星を見つけたら、

  加護がもらえるよ。

  星の石がもらえるよ。


  十五の年の間に、

  流れ星の加護のない者は外へ。

  流れ星の加護のある者は内へ。


  流れ星の加護を得て、

  みんなで幸せに暮らしましょう』


 この子守唄を聴きながら、子供達は寝室にある天窓を眺めて、流れ星を探し眠りにつくのです。





 その村では、みんな同じように生活をしていました。


 日が登ると目を覚まして朝食を食べます。洗濯や掃除などの家事をして、家畜や野菜の世話と収穫をします。


 日が真上に来たら昼食を食べます。大人は流れ星の加護を光る石に付与して、アクセサリーや工芸品を作ります。子供達は勉強をします。


 日が傾き遠くの山に隠れる前に、夕食を食べて身体を洗います。


 日が沈んだらベットに入って、子供達は流れ星を探します。


 雨の日や曇りの日はお休みで、家族や友達と遊びます。


 みんな…みんな同じ生活をしているのです。





 その村には、流れ星の加護をまだ持たない十四歳の双子の兄妹が居ました。

 少女は、夜空を見上げながら少年に言いました。


「お兄ちゃん、流れ星見つけた?」


「まだだよ」


「あと、ひと月しかないよ。流れ星、見つけられなかったらどうしよう」


「大丈夫だよ、一緒に探そう」


 流れ星の加護が貰えるのは、十五歳の誕生日までです。

 二人は毎晩遅くまで、夜空を見上げていました。


挿絵(By みてみん)


 その村は、大きな木に囲まれています。

 木と木の間には、棘のついた植物の蔓が巻きつき、緑色の壁ができています。

 そして、緑の壁と壁の間には、大きな門が一つありました。


 門の扉が、外から内へと開く日が、年に四回だけあります。

 その日は、行商人の一行が、必要な物を大量に持ってやってきます。

 外から来た行商人は、内で作られた、流れ星のアクセサリーや工芸品と、持ってきた品物を交換します。

 その後、数日村に滞在して、また外に戻って行くのです。



  少年は、今日村に来た行商人達を見て考えました。

(村の大人は、流れ星の加護を貰ったら幸せになれる。

と、言うけれど、外の世界の人達は不幸なのだろうか?)


「お兄ちゃん、外から来たアメ美味しかったね」


「そうだな、服もみんな新しくなったし、ニワトリも増えたから、明日は卵がたくさん食べられるかな」


「あーあ、早く私も流れ星の加護が欲しいな。加護を使ってアクセサリーをたくさん作って、外のお菓子と交換するの」


 少年は、外の世界の物を欲しがる少女の言葉に、違和感を感じました。


「なあ、外の人達は、不幸……なのかな?」


「なんで?」


「だって、外から来る品物は、どれもこの村にはない素敵な物ばかりだ……。お母さん達は、流れ星の加護が貰えたら幸せになれるって言うだろ? 外から来る人達は、みんな加護がないんだよな?」


「そうね、加護が無い人は十五歳になったら、外に出るから」


「加護があれば幸せになれる。で、加護がなかったら? 幸せになれない? いや……不幸になる、とは言われてない」


「確かに、外から来る人達は不幸には見えないわね。でも、私はこの村が好きよ。流れ星の加護をもらってみんな幸せに、みんな同じように暮らすの。みんな、みんな一緒よ!」


 そう言いながら、無邪気に笑う少女の顔を見て、少年の違和感は、更に大きくなっていきました。


 そして、少年は気付きました。

 幸せの反対は不幸だから、加護があれば幸せに、加護がなければ不幸になると思い込んでいた事に。





 朝日が出る前に、行商人一行は外に出る為大きな門に向かいました。

 門の前には、少年が立っていました。


 少年は彼らに問いかけます。


「外の世界では、みんな幸せですか?」


「幸せ……ばかりではないよ。でも、不幸ばかりでもないんだ」


 そう言って、彼らは笑顔で手を振り、門の向こう側に消えていきました。


 大きな門が閉まり、少年は考えます。

(外の世界には、幸せも不幸もあるって事?)

(不幸な事もあるのに、彼らは何であんなに楽しそうなんだろう?)


 少年は、幸せになれる流れ星の加護に、疑問を抱きながら、妹と流れ星を探す日々を過ごました。





 ある日の朝、少女は、キラキラ輝く石を手に言いました。


「お兄ちゃん! 私、流れ星の加護もらえたよ! これ、星の石!」


「おめでとう! よかったな」


「お兄ちゃんは?」


「僕は、見つけられなかったよ」


 少女は、流れ星の加護を得る為に、一生懸命探していました。

 少年は、流れ星の加護に疑問を抱き、考え事をしていました。


 同じ窓から夜空を見ていたのに、少年は流れ星を見ていなかったのです。





 今日は、二人の誕生日。

 流れ星の加護が貰えるのは今夜が最後です。


「お兄ちゃんが、流れ星を見つけるまで、私も寝ないから、一緒に探そうね」


「ありがとう……。いや、今日は早く寝よう」


「なんで?!」


「僕は、外に行くよ」


「お兄ちゃん……」


「この前、行商人の人達を見て思ったんだ、外の世界でも、幸せになれるんじゃないかって」


「なれないかもしれないよ?不幸になるかも……」


「それでも、行ってみたいんだ。幸せも、不幸も、どちらも自分で考えて、自分の力で得られる外の世界に」


 少年は、自分の意思で外に出る事を選びました。

 それを聞いて、少女は言いました。


「一人で外に行くの寂くないの?」


「大丈夫、僕らは双子だろ?寂しくなったら鏡を見るさ、お前に会える。それに、本当に会いたくなったら行商人になって会いに来るよ」


「わかった、約束ね!……お兄ちゃん、お休みなさい」


「ん……。お休み」


 二人はいつもより早い時間に眠ります。

 夜空には、たくさんの流れ星が降っていました。





 次の日、少年は荷物をまとめて家を出ます。


 出る時に、家族から綺麗な箱を貰いました。

 中には父と母の作った流れ星のアクセサリー数点と、少女が初めて作った、加護を込めたペンダントが入っていました。


 少女は、涙をこらえて言いました。


「お兄ちゃん! 行ってらっしゃい」


「行ってきます!」


 少年は振り返る事なく、前を見て言いました。


 少女の作ったペンダントを首にかけて、流れ星の箱庭から、外の世界へと旅立ちました。



読んで頂きありがとうございました!


この物語を読んで、何かを感じて頂けたら幸いです。


★評価してもらえると喜びます♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸せにはいろいろな形がある、というところがとても良かったです。何が不幸で何が幸せか決めるのは自分次第というのが良かったです。 子ども達に読んでほしいな、と思いました。 素敵なお話ありがと…
[一言] 幸せのあり方を問われているような気になりました。 兄妹それぞれ幸せになれますように!
2021/12/16 18:13 退会済み
管理
[良い点] 箱庭の安全な幸せも良いけれど、外で自分でつかみとる幸せを見てみたいという少年の気持ちも分かりますね。 これから大変な思いをたくさんするでしょうが、いつかは笑顔で凱旋できるといいですね♪
感想一覧
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