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僕が見た怪物たち1997-2018  作者: サトウ・レン
怪物のいた村、1997
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怪物のいた村、1997 第一話

 その女性は、はじめて会った時から、先生、と呼ばれていた。


 本名を知っているひとはほとんどおらず、長い月日を仕事仲間として一緒に過ごした僕でさえ、その名前を知ったのは、だいぶ後になってからだった。


 彼女は老いとは無縁なのかな。先生を指してそう言ったのは、先生とも交流があった、いまは亡き僕の友人だが、関わりがすくないひとなら分からないくらいの変化にも、これだけ一緒に長くいれば、すぐに気付けるようになる。重ねた年齢は、先生の精巧な人形を思わせる顔にも間違いなく表れていた。


 初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。


 生まれは東京だったが、物心が付いた時にはその村にいたので、東京が出生地であることのほうがしっくりとこない。


 福井県栗殻村という人口が1000人にも満たない小さな海沿いの村に、先生が何の用で訪れていたのかはいまだに知らないが、僕は母から先生のことを占い師と紹介されたので、最初の頃はそう信じて疑いもしなかった。


 両親が嘘をついたわけではなく、先生の職業が占い師である、という言葉は何も間違ってはいない。ただ、占い師である、ということは、先生について語るうえで必要なほんの一部でしかなく、それだけでは足りなさすぎる。カウンセラー、占い師、探偵、奇術師、超能力者、霊媒師……多くの資質を兼ね備えていて、つねにその場に合った役割を演じることができる先生にとって、すべてがそうであるとも言えるし、すべてが違うとも言えるのだから。


 先生が最初に僕に放った言葉を、いまだに覚えている。


 当時、小学生だった僕が家に帰ると、居間に先生だけがいて、じっと見つめられた僕はその別の誰かでは置き換えることもできないような美しさに思わず息を呑み、そんな気持ちを知ってか知らずか、目を逸らすこともなく、僕の頬に手を当てて、


 呟くように、


「憎しみは心の奥底に秘めておきなさい」


 と言ったのだ。


 その言葉を聞いて、僕は会って間もないこのひとには何をやっても敵わないのだ、と本能的に悟ってしまった。


 これは小学生の頃に母から聞かされたのだが、僕は物心つく前の幼い頃から、手の掛からない子どもだったらしい。もちろん僕自身はその時期のことをまったく覚えていなくて、どれだけ掘り返しても見つからない記憶なので、らしい、と付けるしかないのだが、その母の評価にはとても腑に落ちるところがある。周りの顔色をうかがってばかりいる小学生だった僕の性格が、それよりもさらに幼い頃や生まれつきのものだったとしても、驚くような話ではないだろう。


 そんな他人を気遣う姿は周囲から気弱だと思われたかもしれない。実際に気弱な性格だったことは間違いないが、そう見える多くの人間にも粗暴だったり、悪辣な一面がある。僕だけが例外なんてことはない。その奥底に秘めたものが、ある日いきなり噴出するのではないか、と僕自身、怯えているところがあった。


 初対面の相手にそれを見透かされたような気がしたのだ……。


 僕は、先生が栗殻村に滞在している短い間に、その怒り、憎しみを爆発させてしまうのだが、その出来事を語るうえでも、僕自身についてもっと詳しく話す必要がある……、とはいえ僕は先生ほど恵まれた記憶力を持っているわけではないので、自然と記憶はぼやけたり、美化されたりしていることだろう。本当のあの頃の僕たちの会話はもっと無茶苦茶で、こんなにも大人びてはいなかったはずだが、そのくらいは許して欲しい。


 人間、なのだから。

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