番外編 続・恋人同士になったふたり
晴れて恋人同士となった私とカイだったが、以前として関係性に大きな変化はなかった。
いちゃいちゃしたくて名前を呼んでも、低くてかっこいい声で「はっ!! 何用でしょうか!?」なんて聞いてくるのだ。
もっとこう、甘いひとときを過ごしたいのにどうしてこうなったのか……。
そんなことを、三日に一度くらい考えてしまう。
カイにこっそり背後から近づき、そっと抱きしめようとしたら高速で振り返って、鷲みたいな鋭い目で睨んできた。
完全に、不審者を見る目だったのだ。
他にも、隙を狙って手を繋ごうとした。
だがカイに隙なんて一切なく、手も常に武器にあるか、拳をぎゅっと握っているのである。
本当に、どうしたら恋人同士みたいになれるのか。
以前聖女マナにも相談したが、あまり効果があったようには思えない。
思い悩む中、衝撃的な光景を見てしまう。
中庭を散歩するフェリクスとアウグスタの姿を発見したのだ。
いつもツンケンしているあのアウグスタが、子猫のように愛らしい瞳でフェリクスを見ていたのだ。これまで一度も見たことのない彼女の表情だった。
フェリクスはいったいどんな魔法を使ったのか。
本人を呼びだして聞いてみることにした。
「恋人と甘い雰囲気になる方法ですか?」
「ああ、ぜひとも聞きたい!」
頭を下げると、フェリクスは慌て始める。
大げさだと言うのだ。
「フェリクス、大げさなんかではない。私にとっては一大事なのだ」
真剣にカイといちゃいちゃしたいし、子猫みたいに甘えてほしいと訴えた。
「カイが相手だと……その、少々難しいかもしれませんね」
「やはりお前でもそう思うか」
「はい」
諦めかけたそのとき、フェリクスはある提案をしてくれた。
「では、王都のお祭りに行かれるのはいかがですか? デートを重ねたら、カイも相手が守るべき主人ではなく、恋人だと自覚するかもしれませんし」
「それだ!!!!」
王都のお祭りは恋人達が楽しむものらしいので、いい機会となるだろう。
そんなわけで早速、カイを誘ってみたが――。
「王都のお祭りですか!? あんな人が多くて治安も悪くなる場所に行かれてはなりません!」
血走った目で怒られてしまった。
たしかにカイの言うことは一理ある。
私は王族である身。危険な場所に自ら飛び込んでいくなど、あってはならぬことなのだ。
しょぼん、としているとカイが慌てた様子で話しかけてくる。
「申し訳ありません」
「いや、いい。お前は間違ったことなど何一つ言っていない」
カイはもう、これでいいのかもしれない。
関係を変えようと思うこと自体が、我が儘だったのだろう。
なんて考えていたら、カイがあることを提案してくれた。
「その、でしたらガラクタ市にでも行かれますか?」
「がらくた市?」
「ええ。月に一度開催される催しで、中古品を販売するそうで」
お祭りまではいかないが、さまざまな品があるので楽しめるだろうと。
「いいのか?」
「はい」
カイの機転で、がたくた市に出かけることとなった。
◇◇◇
迎えたデート当日――。
「クリストハルト様、おはようございます」
「お、おはよう」
カイはビシッと決まったサーコート姿で登場した。
なんてかっこいいのか、と思ってしまう。
そういえば前回のデートのときも、こんなだったな、と遠い目を浮かべてしまった。
「さあ、人が増えないうちに行きましょう」
「そうだな」
がたくた市は中央広場で開催されているようだ。
朝は比較的人が少ないと言うので、その時間帯を狙って行くことにしたのである。
今日の目標は、カイと手を繋ぐこと。
なんて考えていたが――。
「危ない!!」
路地裏から荷物を抱えた商人が飛びだしてきた。
カイが私の腕を取らなければ、ぶつかっていただろう。
「大丈夫ですか?」
「ああ、まあ、大丈夫」
「よかった」
本当だったらカイを守りたいのに……。
驚くほどこれまでの関係と変わらない。
がらくた市に到着する。
そこには思っていたよりもたくさんの店があった。
古書や陶器、古着、骨董品とさまざまな品物が所狭しと並んでいた。
「すごいな」
「見応えがありそうですね」
フェリクスが好きそうな古書を発見した。
購入しようか考えていたら、カイがその隣にあったアクセサリーを眺めているのに気付いた。
銀の腕輪はカイにとても似合いそうだった。
カイはすぐに私の眼差しに気付く。
「決まりましたか?」
「ああ」
「では、買ってまいりましょう」
「いいや、それくらい自分でできる。細かい金も持ってきた」
以前、金貨しか持っていないときに買い物をしようとして、店主を困らせたことがあったのだ。その失敗を踏まえて、今回は小さな額の金を持ってきていたのである。
「支払いはいいから、お前は周囲を警戒しておけ」
「わかりました」
精算を済ませ、帰ろうと声をかける。
「もうよろしいのですか?」
「ああ、十分堪能した」
最後にカイに先ほど購入した銀の腕輪を贈る。
そっと手を握って、嵌めてあげたのだ。
「これは――!?」
「一瞬だが、見ていただろう?」
「気付いておられたのですね」
「当たり前だ」
カイは受け取り、嬉しそうに微笑む。
その表情はとても美しくて、かわいかった。
思いがけず、デート作戦は成功してしまう。
これからもカイのかわいい表情を引き出せるように頑張ろうと思ったのだった。




