クズ王子は、疑心暗鬼になる
一度疑惑が出てしまえば、際限なく疑ってしまう。
もう、恐ろしくてコランヘラルになんて行けない。
そういえば、村を探索する先々で、サファイアの姿があった。偶然だと驚いていたようだが、もしや私が何をしているのか監視していたのだろうか?
わからない。
誰を信用していいのかさえ、判断できなくなっていた。
頭を抱えていると、アウグスタが思いがけないことを口にする。
「あの、わたくしも、信用しないほうがよいのかもしれません」
「どういう意味だ?」
「それは――」
アウグスタは私の生存に安堵し、調査に手を貸してくれた。この先も活動を支えるつもりでいるようだが、もしかしたら自分が情報源である可能性も否めないという。
「たとえば、魔法の暗示で情報を喋り、その記憶を失っている可能性もあります」
「それは、そうだな」
重要な情報は言わないでほしいと、アウグスタは懇願する。
「そうか。魔法を使えば、そんなこともできるのだな」
今は互いに信用せず、自分だけが味方だと思っていたほうがいい。そう口にすると、カイと目が合う。
すぐに逸らされてしまった。
「カイ、すまない」
何があっても、カイだけは信用していると口にできたらよかったのだが。
疑心暗鬼になるあまり、カイまで疑ってしまった。
言葉を探していたら、アウグスタがある提案を持ちかける。
「滞在先も我が家ではなく、メルヴ・イミテーションがいたという空間のほうが安全なのかもしれません」
「そうかもしれないが、あそこは――」
時間軸がこことは違う。だから、安易な気持ちで長時間過ごすわけにはいかない。
いや、私やカイの命を優先するのであれば、そこで一生過ごすほうがいいのか。
今、私の生存に気づいたフェリクスが命を狙っている。もうなりふり構っている場合ではないのかもしれない。
「カイ、メルヴ・イミテーションがいた空間に行こう」
手を差し伸べたが、カイは俯いたまま。こちらを見ようとしない。
「どうした?」
「一緒には、行けません」
「どうして?」
「私自身も、疑わしい存在だからです」
「そんなことはない! お前はいつでも、私を守ってくれたではないか!」
「しかし、この身に流れる血が――」
カイに流れる血とは?
アウグスタのほうを見たが、彼女も心当たりがないようだ。
カイはモンペリアル伯爵家の四男とされているが、実際には女性である。ただ、先ほどの発言は、性別についての言及ではないのだろう。
血というのは、母親についてなのか?
カイは正妻の子ではなく、モンペリアル伯爵の愛人の子どもだったらしい。
母親は失踪。居場所は掴めていないという。どういう女性が母親だったのか、カイ自身もよく知らないようだ。
「カイ、血というのはなんなのだ? 話を聞かせてくれ」
「私は、私は――」
カイが意を決したように口を開いた瞬間、扉が勢いよく開けられる。聖女マナだった。
黒ネズミの姿ではなく、寝間着姿である。髪はぐちゃぐちゃで、半分寝かかっているような顔をしていた。片手にクッキー、もう片方にティーカップという、これまでリラックスしていましたという出で立ちである。そんな彼女が、慌てた様子で叫んだ。
「ねえ、なんかヤバイ気配が近づいてきているんだけれど!」
聖女マナの言葉に、アウグスタが小首を傾げながら言葉を返す。
「やばい、というのはどういう意味ですの?」
「やばいはやばいだよ! 意味について聞かれても、よくわかんない!」
カイもその気配に気づいたようで、ハッとして立ち上がる。すぐに、変身コンパクトを使い、鎧姿へと変わった。腰に提げてあった剣を引き抜き、戦闘態勢になる。
何か危険が迫っているのだろう。
アウグスタと聖女マナを避難させないといけない。公爵家の地下は安全だと聞いていた。
腰を浮かせた瞬間、聖女マナが開いた扉がバタンと閉まる。
「え!?」
驚いた聖女マナは振り返り、ドアノブを捻った。
「嘘でしょう? 開かないんだけれど!」
まさか、閉じ込められたというのか!?
アウグスタはそんなはずはないと言い、確認に行く。外から鍵をかけられる構造ではないようだが――。
ぞわりと、心地悪い寒気を感じた。
次の瞬間、バルコニーの扉から大きな物体が勢いよく現れた。
「オオオオ、オオオオオオ!!!!」
それは戦斧を手にした、見上げるほどに大きな巨体を持つ――オーガだった。




